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その2・イケメンのクーリくん


 異世界で好みのイケメンになっていた私……実は名前が思い出せないけど、このイケメンの名前は”クーリ”と言うらしい。


 クーリくんの記憶は他人事のようにしか思えないけど、私自身の記憶よりはっきりしてるから、クーリくんは私自身ということだと思う。


 昔の記憶が思い出せなかったりするアレだ。物忘れ……じゃなくて、記憶の風化?

 ともかく、前世の記憶がうろ覚えなのは仕方ないとする。


 重要なのは、今。


 今世のクーリくんの軌跡である記憶追う。

 アイスブルーの髪とアメジストの瞳の容姿をもつクーリくんは、ファンタジー世界を生きてきていた。

 剣と魔法の世界だ。


 そして、クーリくんは冒険者。優れた魔法のセンスと運動能力で魔法剣士をやっている。

 その、冒険者ランクはA。


 繰り返すけど、ランクA!

 どのくらいのレベルがなにランクかと説明しなくても、Aと言えば基本的に一番上なのは分かるよね!

 本当はその上にSとかSSとかあるけど、それは世界に数人のレベルだから無視。


 若くてイケメンで強くて世間の評価もランクA!

 もう、どれだけ私を惚れさせればいいの! って話!


 ……今は私なんだよね。


 目の前の水に映るクーリくんが腕を組んで眉を寄せている。

 とてもカッコいい。

 実はクーリくんもアレな経験が無いと知れば、その初めてはぜひとも私がもらってしまおう!


 ……と思ったけど、今は私自身なんだ……。


 クーリくんと私が合体するにはどうすればいいのかと考えよう。

 あ、すでに合体してる?

 エロは無いけど、これって合体してる?

 

 やだ私、イケメンの初めてを奪っちゃった♪


「……違うよー! そうじゃないんだよー!」


 思考が迷走し過ぎていた。

 目の前のイケメンは、髪の毛をくしゃりと乱しながら眉間に皺を寄せている。

 不機嫌そうな様子もカッコいい。


 どうしようもないけど、とりあえずクーリくんのハジメテは守っていく方向で保留だ。


 差し迫って重要なのは、今。


「クーリくんが素敵過ぎて、ここから離れるのがつらい……」


 自分の顔は自分では見られない。鏡などが無い限り。

 自分クーリくんの一挙手一投足から目を離せない私は、湖から離れられないでいた。


 湖に張り付いて独り言を呟くクーリくん。

 イケメンだから、許されるよね。





 キリッとした無表情を作っては、その表情に見惚れてにやける。

 

 湖に映るクーリくんから目を離すことも出来ず、そんなループを繰り返すこと……どれくらいかな?

 楽しい事って時間が早く過ぎたりするから分からない。


 クーリくんに見惚れていると、クーリくんの上に豚の顔が現れた。


「豚……?」


 頭の上に豚の顔。

 イケメンの顔の横に並ぶと、引き立て役にというよりも場違いさしか感じない。


 つまり、クーリくんのイケメンは最強!


 心の中でクーリくんの美貌を絶賛していると、勝手に体が動いた。

 感極まって水に飛び込んだわけではなく、転がるように横に移動。湖には背に向ける位置になった。


 同時に、ガッという打撃音が今までいた場所から響いた。


「これじゃ、見えないよ!?」

 

 大変だ! クーリくんが見えない! なにがどうした!?


 体の自由は、無い。


 視線は固定されたように木の棒を振りかぶる二足歩行の豚から離れない。

 よく見れば、その豚は3mに近い見上げるサイズ。

 木の棒を武器として振り回す様や、そもそも直立して二足歩行している段階でただの豚ではないことは分かる。……今更だった。


 クーリくんの記憶を探れば、豚はオークという名の魔物であることが分かる。

 それは討伐対象であり、冒険者ランクAのクーリくんにとっては魔法を使うまでもなく倒せる獲物のことだ。


 ……中身が体育の成績は3だった私でなければの話だ。

 何段階評価での3かは横に置くが、私に戦闘経験などあるはずがない。


 自分クーリくんを守るためにも、逃げた方が良いかもしれない。


 そう思う心と裏腹に、視線はオークから離れず、体はいう事を聞かない。


 私の意思で動かない体は、再度木の棒を振りかぶったオークに向けて突進した。

 オークの攻撃を避けながら腰に吊るしてあった細身の剣を抜いて一刀で切り伏せる。

 ひらりと舞って、ザシュって感じだ。返り血を浴びないように一足で倒れるオークから離れるおまけ付き。


 これは、クーリくんの体の記憶? 戦闘オートモード?


 クーリくんは私自身だから、視界には豚しか見えないけど、体がどう動いたかはよく分かる。

 一瞬過ぎる戦闘シーンながら、絶対カッコよかった。


「すごい! 素敵! 俯瞰で見たい!」


 どうして私はクーリくんなの! 幽体離脱したい!!

 もう一度、カッコいい戦闘シーンを見せて! ……見えないけど、心の目で補完するから!


 動けない私を守ってくれるクーリくんなんて、素敵過ぎる!

 イケメンな美貌と相まって、どこの王子様か騎士様ですか! 素敵!!


 実際には、一人で戦っただけだけど、心の目で補完すればそうなった。

 イケメンすぎるクーリくん、好き。今は私だけど。




 さて、オーク死んだよね?

 それなのに、まだ体の自由に動かせない。


 視線は奥の茂みをロックして離れない。

 もしかして、もう一回戦闘シーン来る?

 私の王子様に守られちゃうかも?


 ……最高!!



 

独り言が多い人っているよね。

私? 一人の時の独り言は、問題ないよね?

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