5.お手玉を作ろう
作り方、文字だけでは分かりにくいかと思い、描いてみました。絵心なくてすみません。興味ない方はスルーしてください。
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父さんを急かして街の門まで戻ってくると、そこで別れて一人で図書館へ向かった。採ってきた植物が萎れないうちに図鑑で調べたいから、森から帰った時はいつもそうしてるんだ。5歳の子どもがこうして一人で出歩けるのは、トスタナの治安がいいおかげだね。
逸る気持ちのまま走って移動してたら、ミラおばさんに出会って呼び止められた。
「あら、タマラちゃんじゃないの。楽しそうな顔して、何かいいことでもあったのかい?」
あれ、顔に出てたかな? うーん、知り合いに見られるのはちょっと恥ずかしいぞ。まぁ5歳だから、そんなに変でもないよね?
「ミラおばさん、こんにちは! 今日はこれから図書館に行って、そのあとお裁縫するの! ちょっと作りたいものがあって」
「そう。タマラちゃんは覚えが良くて、メキメキ上達したものね! できたらおばさんにも見せてくれる?」
そりゃあ、前世でやってましたもの。逆に、最初はとってもヘタクソになるように頑張りましたよ。いやー、なかなか大変でした。
「うん、もちろん!」
「ふふ。またハギレを用意しておくからね」
「わ~! ありがとう、ミラおばさん!」
お礼を言っておばさんとも別れると、また図書館目指して走った。
ふふふ~、お手玉はミラおばさんにもプレゼントしよう! 可愛い弟子の作品ならきっと喜んでくれるに違いない。そしたら、これからもハギレとかお下がりの道具とかを安定確保できるかな♪ おっと、感謝の気持ちに下心が混じってしまった。いけないいけない。
そんなことを考えながら走るうちに、図書館に着いた。入り口を入ってすぐの受付で、お姉さんに挨拶してから水晶のような玉に手の平を置く。
サンタレリア王国の図書館では、国民なら誰でも自由に本の閲覧ができる。国民であることを確認するために、さっきのように、玉に手の平を置くのだ。どういう原理なのか分からないけど、置くだけで名前とか年齢とかイロイロ確認できるらしい。そして、一定の期間は記録や閲覧も出来るそうだ。この装置(?)は、役所とかギルドとか、中には会員制の高級なお店とかでも、結構いろんなところで使われてるんだって。妖精の庭は庶民向けの店だからないけどね。
図書館でこのシステムが必要なのは、国民であることの証明の他に、盗難防止の意味もあるらしい。だから、受付のお姉さんと顔見知りでも、毎回玉に触らなきゃならない。ただの玉っぽいのに、妙にハイテクで便利だね。そこは魔法が関係してるらしいけど。
で、図書館で一つ残念なのは、貸し出しの制度が無いこと。まぁ、書き写すのはOKだから、調べたものは書き写して持ち帰ってファイリングしてる。面倒だから、コピー機とか写真とか、誰か開発してくれないかなーと願う今日この頃です。切実なのでどうぞよろしく!
勝手知ったる図書館内。図鑑コーナーにまっすぐ行って、お目当ての図鑑で調べ物を進めた。今日採ってきたのは4種類と少なく、あまり情報量もないのですぐに終わった。収穫といえば、拾ってきた木の実の一つが『ミケコジカ』という鹿の大好物だということ。
気になってこの動物についても調べてみた。すると、ミケコジカは名前の通り、三毛猫のような模様のある猫サイズの小さな鹿なんだそうだ。
「なにそれ! 絶対可愛いじゃん!」
とっても臆病な種で、滅多に人前に姿を見せないんだとか。そしてその鹿のフンが、とってもイイ匂いの香料になるらしく、高値で取引されるらしい。この実がある森には結構、高い確立でミケコジカがいるそうなので、あの森にもいるかもしれないってことだ。
それにしても、フンを香料にしようだなんて、なかなか勇気ある先人がいたもんだな。確か地球でも、クジラのフンの中にそういうものがあるって聞いたことあったけど……。よし、今度森に行ったら探してみよう! ちょっと楽しくなって鼻唄を歌いながら、ミケコジカのフンの形や大きさをしっかり念入りにチェックした。……はっ! 乙女として、それはどーよ? なんて声は受け付けません!
森に行く楽しみが増えたところで、家路についた。帰ると、お昼時には少し早いけど美味しそうなイイ香りが漂ってくる。この匂いはトマトとチーズのパスタだ♪
ダリアードに米はないみたいなんだけど、調味料や香辛料は充実してるし、食材も地球に似通ったものが多くて食生活は結構豊かだ。サンタレリア王国では小麦とトマトの生産が盛んで、隣国で作られるチーズも多く入ってくることから、地球で言うところのイタリアン料理っぽいものが結構多い。だから、そのうちピザを作ってみようかなと思ってるんだよね。ま、もう少し大きくなってからだけど。
母さんの作ってくれた美味しいお昼ご飯を食べた後は、不覚にもお昼寝をしてしまい、目覚めればオヤツの時間近くになっていた。心は大人だけど……、
「5歳児だもん。森を歩き回って走って図書館行って、頭も使ってお腹も満足したら、そりゃあ眠くなっても仕方ないよね!」
誰に言うともなく自分に言い訳をして、裁縫の準備に取りかる。……前に、採ってきた植物の実験(?)をしなきゃね。半分くらいは乾燥させて、半分くらいは水に浸けておく。残った少しは潰してみたり、実を割ったり、匂いを嗅いだり。いろいろやって記録していく。うん、今日はこんなもんでいいかな。コリスの実の処理はあとにしよう。この前採ってきてた分で、お手玉1個分くらいにはなるよね。
「よーし、やっとお手玉作りができるぞ!」
まず最初は形をどうするか決めないと。私の中でお手玉といったら座布団型ってやつだ。だけど、あれは縫い方というか、布の合わせ方がちょっと複雑だ。「5歳の子どもが自分で考えて作りました」は不自然すぎるよね。となると、枕型か俵型。うーん、俵が無難かな。この世界に俵なんてないけど。
「よし、じゃあ次は布選びだね!」
机の上にミラおばさんから貰ったハギレの山を広げる。折角だから和柄で作りたいけど、そんなものは無いから仕方ない。ハギレは大きいもので50センチ四方くらいのサイズで、小さいものは私の手の平サイズだ。とりあえず、10センチ×20センチくらいでいいはずなので、そのくらいの大きさのものを選んでみた。オフホワイトにピンクや黄色の小花が舞っている可愛らしい布だ。
布の端からピョコピョコ出ている糸を、長いものだけカットしていく。簡単なつくりだから、端っこがガタガタでも気にしなーい! どうせ隠れて見えなくなるからね。
布の表を内側に、正方形になるように半分に折って、筒型になるようになみ縫い。次に左右のどちらか一辺も縫っていく。ここの縫い終わりでは、ギューっと引き絞ってから周りをグルグル巻きにして、それから玉止めしてっと……。
表に返して、縫い代を多めにとって、開いてる部分をグルッと一周なみ縫い。よし、ここでいよいよ、コリスの実の出番! 中に6~7分目くらいまで詰めたら、縫ったところを内側に折り込んで、ギューと引き絞る。周辺を何度か縫って止めたら、俵型お手玉の完成!
片手に持って、投げ上げる。キャッチすると「カシャン! カラカラ」っとイイ音が鳴った。
「うん! 中身もこぼれないし、音もいい! 感触も小豆のと変わらない感じだし、上出来でしょ!」
簡単すぎて30分もかからなかった。でも、もう1個作るには乾燥させたコリスの実が足りない。仕方ないから続きは今度かな? お披露目は……やっぱり1個じゃ淋しいよね。せめて2個、いや3個でやる方が楽しいかな?
「うーん、おうち用にとりあえず6個でしょ、ミラおばさんにあげる分が3個で……。そうだ! いつも暇そうな、図書館の受付のお姉さんにも持っていこう!」
少しはお姉さんの暇つぶしになるかな? 殺風景な図書館に置いてあったら、子ども達も喜ぶかもだよね。それじゃあ図書館には6個くらいかなー?
「全部でとりあえず15個。ちょっと多くなっちゃったけど、すぐ作れるからいいかな」
そうとなったら、さっそく今日採ってきた実を乾燥させなきゃだね! よーし、頑張るぞ!