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3.毒舌神様vs干物女

 この神様の相手は疲れたけれども、新しい人生を楽しく有利に過ごすためにも、しっかり交渉はしないとね。さっき「能力はあげない」なんて言ってたけども、転生先の国とか家族だとかの環境面くらいは便宜(べんぎ)を図ってもらえるかもだし。まぁ、どう生きていくのか観察したいって言うくらいだから、すぐ死んだりするような環境じゃないとは思うけど……。だよね?


「そ、その件はもういいから。それより、アナタの人間観察に()()()()()()()()んだから、私の希望も取り入れてくれないと、割りに合わないと思うんだけど?」


「希望ですか。前世の記憶を持ったままで転生できるというのは、それだけで結構なアドバンテージだと思いますよ? 特に、タマちゃんは現代日本の高等教育を受けてるんですから」


「でも、地球とは物理法則とか違うかもしれないし、歴史や英語とかは絶対役に立たないでしょ?」


「その辺はまぁねぇ。でもダリアードでは、物理法則は基本的に変わりませんよ。ただちょっと、魔法とかあるだけです」


 それ、()()()()じゃ済まされない重要ポイントだよね?


「魔法の知識とかないんだから、やっぱり役に立たないじゃん!」


「いえいえ、生まれたては誰だってそんな知識ないんですから、不利にはならないでしょ? それに、数学などは使えるでしょうし、理解力だとか考え方だとか、学習の根本的な部分は大いに役立ちますよ」


 そう言われればそうかもだけど……。


「じゃあ、転生先の家族の人柄とか身分とかは? それくらい、良いところにしてくれてもいいでしょ?」


 そういうの大事よね。親が暴力的とかネグレクトとか最悪だし、生まれながらに奴隷身分とかだったら、目もあてられない。


「あ、それは大丈夫ですよ! さすがに、すぐに死なれちゃ転生させる甲斐がないので、普通に生活できるところを選びました。いやー、タイミング良くちょうどいいところが見つかって良かったですよ。国も安定してるし、文明レベルもそこそこ発展してますから、安心してください」


 ふぅん、やっぱりそうなんだ。普通に生活できるなら、まぁいいかな? いや、やっぱりいくらかアドバンテージは欲しい!


「あ、そろそろ頃合いですね。早く新しい身体(うつわ)にいれないと、間に合わなくなっちゃいますから」


 えぇー! もうちょっとゆっくり考えたかったのに! あー、もう!


「じゃあ容姿とか注文させてよ! まずは当然、女のコにしてね! 心は女で外見男とか絶体嫌だから!」


「ええ、女のコでもう決まってますよ~」


 あ、身体? が浮いて何処かに引っ張られてる! ホントにもう時間ないんだ!


「あとはえーと、そうだ! 美形にして、スタイルもボンキュッボンでよろしく!」


「はいはい」


 やった! これで来世は絶世の美女だ! 容姿が良ければ、干物(ひもの)になんかならないはずだよね。


「赤ちゃんはみんな可愛らしいから大丈夫だし、関節もクビレててボンキュッボンですから安心してくださいね~」


「……はっ!? 赤ん坊の話じゃないって! ちょっと待って! 成長してから「そこはタマちゃんが努力してくださいよー」あー、もう! その満面の笑み、絶対わざとだろ! バカーー! アンタなんか嫌いだーーー!」



 ---------------

 先程までヴァンと話していた女の最後の叫び声が、辺りに響きながら遠ざかっていく。あれこそホント、魂の叫びってヤツだな。まったく、ヴァンも調子乗っておちょくり過ぎだろ。


「そろそろ出てきたらどうです? アッシュ」


「なんだ。やっぱり気付いてやがったか」


「当たり前でしょう」


「いやー、久々に随分楽しそうだったからな。話に夢中かと思ってよぉ」


 ホント、コイツがあんな楽しそうにしてんのは、シャルが消えてから見たことなかったからな。


「楽しそう、でしたか? ……そうかもしれませんね。タマちゃんの中に、確かにシャルの気配を感じましたから。面白いものですね」


 面白い、ねぇ。

 そういう「楽しい」じゃなかったと思うがな。本当、素直じゃねぇ……いや、自覚がないだけか? ま、あんま突っ込むとすぐ不貞腐(ふてくさ)れるし、ここはスルーしとくか。


「まぁ確かに、このおかしな空間にもすぐ馴染んでたし、初対面のこんな怪しいヤツを、神だと受け入れてたもんなぁ」


「おかしくないし、怪しくもありませんよ」


 いやー、誰がどう見ても怪しいし、神様にゃあ見えねぇだろ。


「それに、お前との夫婦(めおと)漫才もそうだし、仮にも神に向かって直接バカだの嫌いだの言う豪胆さは、まんまシャルっぽいよな」


「誰が夫婦漫才ですか。それに、「仮にも」は余計です」


「シャルは完全に消滅しちまったと思ってたが……。お前がシャルの魂の欠片を集めてたのも、ムダにはならなさそうだな」


「だから言ったでしょう。まぁでも、さすがに半分の欠片であれほど精神に影響を及ぼしているとは思いませんでしたよ。全部を集められれば(ある)いは、と一縷(いちる)の望みをかけていましたが、ね」


「それだって俺は無理だと思ってたけどな。しっかし、お前が必死で集めても3分の1がやっとだったってぇのに、どうしてあの女には半分も集まってんのかねぇ。やっぱアレか? シャルの執念ってヤツ?」


「そこはなんとも言えませんね。ですが、放っておいてもダリアードで、タマちゃんと()は出会うという予感はしますね。ですから、()()()()までには残りの欠片も必ず集めてみせますよ」


 次の機会か。笑顔で言われるとちょっと邪悪な気配がするのは気のせいかね。


「それにしても、仮死状態の人間を異世界に転生させるってぇのは、さすがにやりすぎじゃねぇか?」


「まぁバレるとマズイですが、タマちゃんは一人暮らしでしたから、放っておいたらそのまま死んでいたでしょう。だから、まだ仮死状態だったのは、それほど問題にならないですよ。

 それに、魂を長く手元に留めて置くのは、さすがのぼくでも無理がありますからね。転生は必要だったんです」


 必要ねぇ。シャルの魂の欠片をバラさないためってんなら、転生でなくても良かったろうよ。それこそ今まで通りに、シャルの欠片だけ集めて足りない分を他の欠片で補って送り込めば済んでたんだ。わざわざ転生させたのは、シャルの姉妹みたいなあの女の精神を、消したくなかったって事だろうがよ。それも()までの間でしかねぇってのに……。


「まぁ、これ以上あんま無茶なことすんなよ。お前が邪神になるとか、俺はごめんだぜ」


「わかってますよ。多少操作する程度です」


 どうだかな。やっぱ見張っとかねぇと危なっかしいよな、ヴァンは。


 ---------------


 シャルこと造物神シャルドレイシアは、俺やヴァンと同じく天界で暮らす高位の神()()()。造物神ってぇのはまぁ、鍛冶やら工芸やら、物作り全般を司る神達を束ねる神だな。

 ヴァンは、正式には智神ヴァリアストロンといって、知識や学問の神を束ねてるやつだ。マイペースで、頭良いくせにちょっと抜けたところがあって、からかい甲斐のあるヤツだ。

そして俺は、闘神アシュタット。闘いや戦争、力を司る神達の頂点だな。ヴァンが言ってたように親しい神(なかま)からはアッシュと呼ばれてる。

 高位の神は他にもいるが、その中でも俺たち3人は言ってみれば同期のようなもんで、まぁ気安い関係だったな。


 だが、200年くらい前に起きたある事件によって、シャルは消えちまった。


 それからずっと、造物神の位は未だ空いたままになってる。その座に着けるほど後進の(やつ)がまだ育ってないらしいからな。そのせいで、世界のあちこちで技術の進歩、文明の発展がアンバランスになってきちまってる。空位が続けば続くほど、そのアンバランスさは顕著になっていって、やがては滅びる世界も出てきかねねぇんだ。ってな事で、少しでも早く造物神が必要ってわけだ。


 そこで、最高神達からヴァンに密命が下った。あちこちの世界に散らばったシャルの魂の欠片を集めて、復活させるようにってな。まぁ、これはもともとヴァンが提案したことなんだが、前例もなく、上手くいく可能性なんざほとんど無いと目されてた、苦肉の策ってやつだ。ヴァンとしては世界のバランスがどうとかよりも、純粋にシャルを取り戻したいだけって感じだがな。


 神ってのはもとは人間なんだ。ある一芸に秀でた者の中から神になれる素質のある者が選ばれ、様々な世界で転生を繰り返し、魂とその芸を磨いて、やがて神と呼ばれる存在に至る。俺も人間だった頃は、あちこちの世界で武を磨いて、ただひたすら強さを目指して戦ったもんだ。

 で、普通は一度精神が消滅しちまったら、同じ欠片を集めたところで同じ人格が戻ることは無い。だが、高位の神まで上り詰めたシャルは、その魂が出来上がってから何千年と経ってるし、魂の欠片自体にも神の力や記憶がいくらか宿ってるらしい。ヴァンは智神ってだけあって、他にも何やら小難しいこと言ってやがったが……、説明されたって俺にはよく解からねぇからな。まぁ、いくらか勝算はあるってぇ話だ。


 確かに、あの珠樹って女を見る限りは、うまくいく可能性もありそうに思えるが……。ここんとこヴァンのヤツはかなり思いつめてる感じだし、やっぱ仮死状態の人間の魂を無理矢理引っこ抜いて有無を言わせず転生させるってのは、やり過ぎだと思うんだよなぁ。気持ちはわからんでもないが。

 事が片付くまで、目を離せそうにねぇな。まったく、手のかかるヤツだぜ。


読んでいただきありがとうございます!

神様の出番、1話の予定だったのに何故か3話に……。ともあれ、やっと転生します。

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