1.謎のイケメン現る
なろうでは初の投稿になります。
更新頻度は低いかと思いますが、読んでいただければ幸いです。
ハッと目が覚めて辺りを見ると、見覚えのない場所にいた。壁も天井もない白い空間に、何故か畳とコタツと座椅子とテレビが置かれている。コタツの上には、籠に盛られたミカンとリモコン。座椅子の背には、ドテラが無造作に掛けられている。
何コレ? ここまでくると、ベタ過ぎて今どき見かけないような「ザ・日本の冬の風物詩」だね。でもなんとなく懐かしいような微妙な感覚だ。
って、この空間についての感想はどうでもいいよ。重要なのは私が今ここにいる理由とか、ここに至るまでの経緯だね。
覚えている一番新しい記憶を探ろうとするけど、異様な空間に混乱しているからか、うまく思い出せないな。
うーん、よし。
思い出せる所から順番にいこう。
まず名前。えーと、あれ? ウソ! 名前もわからない? えーと、えーと……、たまき! そうだ珠樹だ! 水上珠樹。良かった、思い出せた! 歳は確か、……ギリギリ20代だったはずだから、29歳か。
仕事は? 仕事……そうだ手芸店の店員! だよね?
家族は……いないね。お母さんはもう亡くなってるし、お父さんとも他の親戚とも、ここ数年連絡すら取ってない。
就職してからは、特に親しく付き合いのある友達もいないし、カレシもいない。……コレは思い出せなくても良かったかな。はっきり意識すると微妙に凹むわ。
仕事がら、安く仕入れできる資材を使って手芸を楽しんだり、スマホでライトノベルを読むのが趣味。
うんうん、だいぶ思い出してきたぞ~。
えーと、最近あったことといえば……。そうだ、本! ライトノベル読んでたら、今の冴えない人生を捨てて異世界転生とかできたらな~、なんてことを思ったんだ。それで、なんとなく勢いで「そろそろ転生しそうな予感がしている人必読」とかって触れ込みで、ちょっとした話題になった本を買おうとしたら、入荷待ちだったんだよね。ネットで注文してたのが、明後日届くはず。そう! 明後日だ!
……なんだけど。えーと、それを楽しみに若干ウキウキしながら仕事してたら、店のブラックリストに載ってるクレーマーなお客が来て、テンションだだ下がりの所に後輩の発注ミスが発覚して。イロイロ大変だったし明日はお休みだからってことで、帰って独りで酒盛りして。
えーと、それからどうしたっけ? 酔ってたからか記憶が曖昧になってきた……。
あ、そうだ! お風呂に入ったんだ。酔って自家製果実酒を胸からお腹にかけてこぼしちゃって、拭いてもベタベタするからお風呂に入ったんだ。
それで、お風呂でスベって……
転んで……
頭にものスゴイ衝撃を、受け、た……よね?
で、気が付いたらココって、コレって、
この状況は、マサカの転生? カミサマ登場?
異世界で勇者に! とかって、チートな能力貰ったりとか?
いやいや、あり得ないって! 勇者とか人助けとかガラじゃないし。
って、問題はそこじゃない!
そりゃ確かに! 転生イイナとか思ったりもしたけど!
お役立ち本買おうとしたけど!!
別に本気じゃなかったし!
っつーか、だったらその本読んでからにしてよ。
いや待て、落ち着け私。
頭打っておかしくなったとか、夢の中だとか。転生とかでなく、単に死後の世界とか。これから閻魔大王が出てくるとか!
ってまた変な方向に行っちゃってるよ私! しっかりしろ! 現実を見るんだー!
混乱した頭をワシャワシャと掻いていると、何の前触れも無く、後ろから間の抜けた声が掛かった。
「お待たせしましたー」
突然のことに声も出せずに振り返ると、イケメンが立っていた。
腿まであるほどの水色の長髪を、緩く三つ編みにして左前に垂らしていて、目は深い緑色。ニコニコと柔和な笑みを浮かべている。服はギリシャ神話の神を思わせるような、白い布を巻き付けて紐で縛ったようなシンプルなもの。胸の辺りが結構大きく開いていて、優男風の顔には似合わない、鍛えてるっぽい逞しそうな素肌が見えている。胸どころか腹筋までちょっと見えてるし。
そして手に持った漆塗りのようなお盆には、湯飲みとお椀と箸が二組ずつ。
うん、持ってるものが、ものすごい違和感だ。いや、この『日本の冬の風物詩』のオンパレードな空間には、この上なくマッチしているけれども。おかげでちょっと冷静になれた。
とりあえず、閻魔様ではなさそうだけど……、死神? カミサマ?
「……ヘンタイ?」
「ヘンタイじゃありませんよ! 神様です!」
「しまった、思わず声に出てた」
全く「しまった」と思ってないテンションの棒読みで言った言葉に、自称『神様』がゲンナリした顔をする。なかなか表情豊かだね。
それにしても、初対面で変な格好だけれども、不思議と忌避感はない。神様だから?
「まぁ良いでしょう。あなたも混乱してるでしょうし。とりあえず、座ってゼンザイでも食べながら話しましょう」
謎のヘンタイ……もとい、イケメン神様は、スタスタと私の横を通りすぎて、机にお盆を置くと、ドテラを羽織ってさっさとコタツに入る。
超絶似合わない……。
寒いなら、その服をどうにかすればいいじゃないの。
「タマちゃんも早くコタツ入りましょうよ。熱いうちにゼンザイ食べちゃいましょう」
「なっ! タマちゃん言わないで!」
タマちゃんは、こども時代の私の徒名。その名前のアザラシの登場で、若干イジメられた黒歴史も今は懐かしいけど……。
何故、初対面のアヤシイ神様に「タマちゃん」などと呼ばれてコタツでゼンザイをご馳走になるのか。まったく意味がワカラナイ。
とりあえず、寒くなってきた気もするので、言われるがままコタツに入ってゼンザイをいただく。少し焦げ目がついて表面はパリっと中は柔らか~いお餅に、熱々の甘~い小豆。うん、美味しい。
「……で、私死んだの?」
「イキナリその質問ですか。
ええ、打ちドコロが悪かったようですねぇ」
「えーっと、あんまり聞きたくないけど、お風呂でだよね?」
「ほうれふれ」
神様の口からお椀の中まで、びよーんと長くのびた餅が繋がったままで返事してくる。イケメンなのにザンネンな神様だ。
「つまり?」
「もきゅもきゅ、もぐもぐ、ごくん! そのうち、すっぽんぽんで発見されるでしょうねぇ」
「……」
「御愁傷様です」
「にっこり笑って言うな!」
「まあまあ、今さらどうしようもないですから、落ち着いて」
それはそうだけど、もうちょっと気の毒そうにするとか、同情するとかしたらどうなの! まったく、他人事だと思って!
まぁ怒ったところで、どうしようもないのは事実。履き倒してサイドに穴が開いたまま、なお使い続けている履き心地重視で色気皆無のおばちゃんパンツ姿とか、トイレの真っ最中でなかっただけマシだと思うことにしよう。そもそも一人暮らしだから、発見が遅ければ全裸など気にもならないくらいアレな状態かもだし。
あ、自分で考えててどんどんブルーになってきた……。
ちょっと乱暴に湯飲みを手に取り、お茶をズズーと啜る。
あ、このお茶も美味しい。って、あれ? 死んでるのに食べたり飲んだりできるし、味覚もあるって変じゃない?
まぁいいか。他にも充分イロイロ変だし。ふぅ。
「それで、私はこれからどうなるの?」
「ダリアードに転生してもらおうと思ってます」
転生! おー、やっぱりそう来たか!
だったらホントに、例の本を読むまで待ってて欲しかったな。まぁ、酔ってお風呂で転ぶなんてアホな不注意で死んだのは私だから、誰に文句を言えたものでもないんだけど。
ダリアードか。どんなとこなんだろう? っていうか、これから何をさせられるんだろう? まぁ折角神様と話せるんだから、上手く交渉して有利な能力とかもらわないとね!
読んでいただきありがとうございました!