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居ない。

作者: 火矢クハチ

 新宿から電車に乗ったはずなのに、40分もたつと人はまばらになり、電車は暗闇の中をひたすら走る大きな箱になる。

1時間もたったら、本当に人が居なくなってしまう。さっきの喧噪が嘘だったかのように、虫の音が、車輪がレールでがたがたなる音しか聞こえない。

僕はこの時間が嫌いだ。まるで生きている心地がしない。ちょっと意識を飛ばしてしまえば、どこか知らない世界に飛ばされてしまう気がする。

だから僕は、塾の帰り、いくら疲れていても目を見開いている。外を見ないようにしながら、僕は床だけを必死に見つめる。


 暗闇が手を伸ばしてくる気がする。誰も人が居ないから、暗闇は弱く臆病な僕をいとも容易く虐めることが出来るだろう。窓の外には、知らないおじさんの顔が浮かんでいる気がする。

この電車には誰も居ない気がする。僕独りだから、電車は自分の目的を忘れて、どこにでも行ってしまう気がする。

 誰にも定義されない電車、どこに続くかわからない電車。脂汗が垂れてくる。電子音声が電車内でのマナーを伝えてる。誰に伝えているのだろうか。


 僕はパニックになりそうになって、電車内を駆けた。後ろには誰も乗っていない。前には車掌さんがいるだろう。

 一目でもいい、人を見たい。僕は駆けて行った。


 居なかった。この電車は誰も乗っていなかった。だれも居ない電車。定義されていない電車。

 僕は目を瞑って鞄に顔をうずめた。目をつむっても、目の裏から知らない白いおじさんの顔が浮かび上がってくる。

ボンヤリしていたそれはだんだんはっきりとして、おじさんの目は真っ黒で、口の中は真っ黒で、それがだんだん増殖してくる。


 ぼくは目を開いた。天井の青白い蛍光灯が見える。僕は外を見る。物凄いスピードだ。一瞬で沢山の駅が通り過ぎていく。


 古びた、小さく錆びれた無人駅。同じ形をしていて、そのどれも、駅名が書かれていない。



『2017年8月21日』『東京の少年が行方不明』『次のニュース』



 真っ白い霧に覆われた車窓。暗い車内。電気は消えて、僕はこの世界に閉じ込められている。

黒い人影が、外を歩き、僕の事を見つめてくる。顔も無い、目も無い。これは残像か、それとも亡霊か。

僕は無表情で涙を流す。苦しみに慣れる事は無い。

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