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隣の席の君は。  作者: 平 五月
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「おはよう」の報酬

 教室に入る前に、荷物を背負ったままトイレの鏡の前に立つ。


 未だに揺らぎそうになる心に喝を入れるため、少し強めに心臓のあたりを二回叩く。


 今日こそは・・・・今日こそは絶対に小田さんに挨拶をする!


 より一層の決心を固めてから教室へと向かう。


 たった一言「おはよう」と挨拶するだけだというにも関わらず、僕の心臓はいつになく駆け足に鼓動を刻んでいた。


 教室のドアを開ける。


 窓際から二列目の一番前の席・・・つまり僕の隣の席で、彼女は今日も本を読んでいる。


 軽く深呼吸をしてから自分の席へと向かう。


 そして彼女の席の前を通り過ぎるとき・・・


 今だ!


「小田さん、おはよう」


 言えた!ついに言えた!


 声も震えてなかったし、顔にも自然な笑みを浮かべることができているはずだ!


 そんな自分を褒めるような、そうであって欲しいと願うようなことを考えていたが、彼女からの返事がない。


 自分の席に座りながら不安になりつつ彼女の方を窺うと、彼女は何かおかしなものでも見たかのように呆気にとられた顔で僕の方を見ていた。


 どうすれば良いか悩んだが、僕はもう一度彼女に挨拶をした。


「あの・・・おはよう、小田さん」


 すると彼女もハッと意識を取り戻したように


「・・・おはよう、相川くん」


とそっと囁くように彼女が挨拶を返してくれた瞬間安堵とともに、何とも言えない恥ずかしい気持ちがこみ上げてきて、僕は特に意味もなくカバンの中を漁り始めた。


何やってんだ僕は・・・。


 挨拶をすることができれば彼女との距離が一歩縮まると考えていたが、どうやらそう簡単なものではないらしい。


 今更なんでこんなことをしてしまったのかという後悔が押し寄せてくる。


「寝不足は解消できたの?」


「・・・・・え?」


 不意に彼女に尋ねられたので僕は上手く聞き取ることができなかった。


 そんな僕に彼女は続ける。


「昨日、宇野田君と話していたじゃない。寝不足気味だって」


 どうやら僕は後悔する必要はなかったらしい。


 挨拶は僕に彼女との会話の機会を与えてくれたようだ。


「うん、昨日早めに寝たおかげで今日はもう大丈夫だよ。」


「そう。もうすぐ中間テストだし、授業はちゃんと受けておかないとね」


 それだけ言うと彼女は読書に戻ってしまった。僕にもっと話術があれば話を広げてもう少し長く話していられたかもしれないが、今は勇気を持って挨拶をした自分を褒め称えるべきだろう。


「よう、相川。今日は元気そうだな。」


「あぁ、お陰様でな。宇野田の忠告通り昨日は早く寝たから」


 昨日寝た時間はいつもと変わり無い。


 だから僕がいつもより元気そうに見えるのは違う理由だろう。


 そして挨拶の素晴らしさを改めて知った僕は心に決めた。


 明日からは毎日彼女に「おはよう」と挨拶することを。


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