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犯罪代行所 殺人依頼承ります

作者: 森野 真

「犯罪代行所 殺人依頼承ります」


そのホームページには真っ白な背景にギザギザの見える荒い字でそのように書かれていた。信頼性の無い言葉はなおも続く。

「ご依頼のありますお方は下記の番号にお電話をお願いいたします。犯罪内容・動機等を確認の後、料金のご相談に移らせていただきます。なお、動機等に嘘、偽りがあった場合はあなた様の命をもって償っていただきます。」

良くって通話不能、悪ければ海外とつながって高額な通話料の請求。最悪なのは試しに話してみたら弱みを握られ脅される。何にしてもまともな人間ならばここに電話はしない。しかし、依頼の電話は頻繁に鳴った。

「もしもし。」

「お電話ありがとうございます。こちら犯罪代行所でございます。」

電話に出たのは丁寧な口調の若い男だった。

「夫を殺して欲しいんです。生命保険で5000万入るはずなのでそこから1000万払います。」

「申し訳ございません。こちらでは営利殺人の方はお断りさせていただいているんですよ。あしからずご了承くださいませ。」

反論する間も与えず電話は切られた。




ジリリリリ

ジリリリリ


またしても電話が呼びかける。

「お電話ありがとうございます。こちら犯罪代行所でございます。」

「殺して欲しい男がいるんです。娘を殺した憎い男です。警察に捕まって裁判を受けましたが懲役はたったの15年でした。私はどうしてもそれが許せないのです。」

「わかりました。では400万でその男を殺します。指定の銀行口座へお振込みください。入金の確認が取れ次第抹殺いたします。」

「…殺し終えた後に連絡などは貰えるのでしょうか?」

「いえ、お客様とのコンタクトは最小限にするために、後日のご連絡等は行っておりません。」

「…、それでもかまいませんが、その男が殺されたら、報道や何かでわかるような殺し方にしてくれませんか?」

「申し訳ございませんが、リスク回避のため、事故死、病死、行方不明など形で処理する事が多いので、今の報道状況を見るにお客様が知りうる事はお出来にはなりえないと思われます。」

「…だとしたら、本当に殺してくれたかどうだかわからないじゃないか。保証は無いのか!」

「保証ですか?」

おそらく顔色一つ変えずに電話対応をしていた男はここでクスリと笑った。

「お客様、今話している内容は殺人でございますよ。一級犯罪です。犯罪者に保証を求めるなど、申し訳ありませんがナンセンスとしか言いようがありません。あなた様の依頼ですと400万で私どもは確実に殺します。しかし、あなた様はそれを知るすべを持たない。もしかしたら詐欺かもしれない、だとしてもあなたはその男を殺したいですか?もしかしたらその男はもうすで死んでいるかもしれない。それでも、あなたはその男の死を確実にする為に400万を払えますか?あなたが一番に望むものはその男の死ではないのですか?その男を殺すためにどれほどのリスクを背負えますか?私どもがしている質問の本質はそういった事でこざいます。保証がなければお金を出せない。その程度ならば後で後悔する事になるでしょうから止めておいた方がよろしいと思われます。依頼をするということはあなた様も、あなたが恨む男と同じ犯罪者になるという事なのですから。」

「………。」

長い沈黙。

「おそらくではございますが、お客様の本当に望むことはその男の命では無いのではないでしょうか?お客様が心の奥底で望んでいること、それは、復讐。なのではございませんか?だとしたらここはある意味全くの逆の場所でこざいます。ここに依頼して私どもがその男を殺したとしてもきっとお客様の気は晴れずにずっといない犯人を憎み続ける事となりましょう。いくら憎んだとしてももういない犯人。ある種の無間地獄でございます。その辺りの事を良く考えた後に、当社の力が必要なときはどうぞまたお電話をくださいませ。」

そう言って男は電話を切った。あたりが沈黙に包まれる。電話の波が引いたようでしばしの静寂のときが訪れた。先ほどの依頼者は男を殺す為に今一度電話をかけてくるのだろうか?それとも自らの手で復讐をするのだろうか?もしくは思いとどまるのだろうか?今はまだわからない。



軽い気持ちで書き始めたら夜中までかかった。あぁ、水羊羹が食べたい。

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