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第7話 たった一人の生存者

今回の話は割とシリアスが入ります。それとどっかで見たようなシーンなのはご愛嬌。それでは始めます

ドレイク船長の大騒動の後、僕たちは小島から一目散に退散し海上へと遁走した。アクシデントはあったもののジュリアンの狙撃能力を測る事が出来ただけ良しとする。ドレイクはどうやら先程の一件で懲りたのかどうか分からないが、一度イル・サン・トゥルーガ島へ帰港するらしい。


「港に帰るんですか?」


「ああ、そうだ。さっさと帰ろう」


そう言ったきり船長室に引きこもってしまった様子だ。

どうやら思った以上に先程の襲撃にビビっているのだろう。自業自得だ色情魔。

僕は甲板で見張り役を務める事になった。とは言ってもただ海上を見つめていれば大体何とかなる。船を見つければ知らせればいい。そんな甘い考えに浸りながら水平線の向こうを眺めているのであった。

この時はまさかあんな悲劇を垣間見ようとは夢にも思っていなかった。



日が少し傾き始めた頃、見張り役が終わり僕は船長室へと顔を出す。どうやらドレイクはこの数時間でメンタルを全回復させたらしくいつもの様なフランクな笑みを浮かべて大テーブルの椅子に鎮座している。


「見張りご苦労さん。それにしてもお前さんには驚かされてばかりだ」


近くの椅子に腰かけるとドレイクはゆっくりと口を開いた。


「船舶強襲に、銃の取り扱いも完璧だ。どうやらNavySEALsとやらはプロフェッショナルの集まりの様だな」


「その中での落ちこぼれですがね」


すかさず補足。ドレイクは軽く笑みを浮かべて受け流す。


「いやぁお前さんの腕は非常に高い。こう言っちゃあれだが、お前さんもしかして十分な戦果を発揮できなかったんだろ?」


見透かすようなドレイクの瞳に僕は一瞬たじろぐもののすぐに平静を取り戻し、いつもの調子で答える。


「いや、それほどでも無いですよ……」


「じゃあ船から奪取してきた積み荷は誰が奪ったんだ、お前さんだろ?」


それは事実。しかし自分は落ちこぼれだ。辛うじてSEALsに縋り付いていただけに過ぎない。だが皆がこう言う。


キャプテン・ドレイクの懐刀と。実際には同じ土俵に立っていないからこんな事が言えるのだ。


「ええ、そうですが……」


「お前さんの活躍はよく見させて貰ったよ。そこで私から提案があるんだ。お前さんを――」


その時だった。マストから耳をつんざかんばかりの警鐘が鳴り響く。


「緊急事態だ!繰り返す、緊急事態!手の空いている者は大至急甲板へ集合せよ!」


緊急事態?敵艦と戦闘が起きるというのか?ともかく異常を確かめるしかない。


「何が起きた?」


僕とドレイクはほぼ同時に甲板へ駆け上がる。異変にはすぐに気がついた。何かが焦げたような刺激臭と黒煙があたりを舞っている。その異変の元は


「おい……マジかよ……」


誰かがそう呟いた。目の前で起きている事が一瞬、夢ではないかと錯覚した。だがこれは夢ではない。紛れも無い現実だ。


一隻の大型帆船が炎を吹き上げている。大規模な火災が既に甲板上部にまで到達している様で最早火を消し止める事は叶わないだろう。隣にいるドレイクは眉一つ動かさず無言のまま船を見つめている。


「ジュリアン!ジュリアン・ボニー!」


刹那、ドレイクが吼えた。それを察したジュリアンが僕らの下へと駆け寄った。この緊急事態であってもドレイクとジュリアンは平静を保っている。


「お前達二人に頼みたい事がある。あの船を捜索出来るか?」


突然の命令に僕は思わず首を傾げた。あの船に一体何をしに行こうと言うのだろうか。


「何故です?」


「あの船の旗を見りゃ分かる。フォート公国の船だ。それに――」


声を荒げてドレイクが続ける。燃え盛る船にはフォート公国の旗が辛うじてはためいていた。


「何があったのかを見て来て欲しい。誰かさんによる攻撃か、ただの船の火災か、ともかく生存者がいればここに救助してくれ」


「了解」


僕とジュリアンは捜索の為にゴムボートとMP7A1を準備した。だが、それだけでは足りない。

あの船を捜索するのにはどう考えても通常装備で行けるとは思えない。

それに何時沈没するかも不明だ。下手をすれば捜索中に沈没する可能性がある。


そうと理解するや否や僕はあの戸棚へ向かいあるものを取り出した。

黒い2着のダイバースーツと箱状の循環呼吸器。SEALsの水中装備における必需品とも言える。


一着はそのままここで装備する。循環呼吸器を前面に装着し、ジュリアンの下へ向かいもう一つの循環呼吸器とダイバースーツを手渡した。


「こいつは!?」


「潜水装備です!僕向こう向いてますんで着替えて下さい!」


お着替えシーンを凝視しようものなら恐らく数秒後にはサメの餌になる。ジュリアンの豊満な胸は拝みたいが緊急事態なのでまた今度。服の擦れる音が艶かしい。畜生……性欲に抗うという事は人類の業に抗うという事なのだ。


「着替え終わったぞ。この箱も前に装着すればいいんだな?」


着替え終わったジュリアンへ顔を向ければそこにはダイバースーツを着込んだジュリアンが立っているのは当たり前として、ダイバースーツが密着しているため豊満な胸がダイレクトに浮かび上がっている。


えっと、循環呼吸器着けないで下さい。おっぱいが拝めません。もっと見せて下さいお願いします。

――チクショォォォォ!!!

何を考えているんだ僕はいい加減にしろ。こんな事ならドレイク船長に頼み込んで一発やらせて貰えば良かった。少なくとも任務に集中できる。バカか。


「はいそうです」


何とも味気のない回答。ジュリアンは体の前方に循環呼吸器を装着し、準備は完了だ。


二人でボートに乗り込み燃え盛る帆船へ向け、波を蹴立てて前進する。


「ひどいもんだな。あの辺一帯が全部火の海だ」


どうやら火災は内部に積まれていた石油にも引火を起こしたらしい。海の上に油が浮かんでいるのが分かる。重油の刺激臭と僅かながらに感じられる死肉の焦げた臭いが鼻を突いた。


「何処から乗り込めばいい?」


「分かりません、船を回ってみましょう」


僕の指示通りにジュリアンがゴムボートを操縦し船の右側面へ近付いた。何があったのかはすぐに分かった。弾痕があった。それも一発では無い。


何千発もの弾痕が船の右側面に穿たれていた。何者かによる攻撃である事は誰の目から見ても明らかだった。


「こいつは一体……?」


「間違い無い、誰かがこの船を強襲したんだ。乗ってみよう、何か分かるかもしれない」


焦燥感と恐怖が胸を締め上げる。だがやるしかない。HK416を肩に下げ右側面からはしごを伝って甲板へ登る。


火の海になっている甲板を素早く通り過ぎ近くにあるドアから船内へと向かった。

船内に入り、ふと僕はつま先に違和感があるのに気がつく。何かぬめりとしたものがつま先にまとわりついているのだ。足元をフラッシュライトで照らす。そこには赤黒い液体がつま先を濡らしていたのだ。


「くそ、何があったって言うんだ……」


ジュリアンの声音からも恐怖の色合いが感じ取れる。間違い無く船内の人間は殺されている。そしてその予測は間もなく的中するところとなる。


恐らくバカンスを楽しんでいたであろう乗客達が手足を投げだしたように地面に倒れていた。

その胸に一つの花を咲かせて。


「銃撃……?」


誰もかもが一撃で殺されている。しかも抵抗した様子は何処にも見当たらない。


「誰がこんな客船を襲ったんですかね、ジュリアン?」


「あるとすれば、バッカニアの連中だろう。何処の政府にも属さず自分の私利私欲の為だけに略奪行為を行っている。しかも奴らにはルールは無い」


クソ野郎共がと彼女は小さく吐き捨てて銃口をドアに向けた。


「今誰が……?」


「どうしました?」


「誰かがいた。恐らく生存者だ。行ってみよう。私が前だ」


「了解。僕は後方を警戒する」


何かがいた。というのならば今回の情報が得られるかもしれない。覚悟を決めて船のさらに奥へ向かう。階段を降り、再びフラッシュライトを点灯。下層部の廊下は既に浸水が始まっている。


恐らく持って後1時間が限界と言ったところか。そうなれば循環呼吸器を使って生存者を捜索するほかない。廊下には左右の客室から流れ出した調度品が行く手を阻む。


「くそっ!邪魔だ」


調度品を脇へ押しやり再び前進。客室内部も一応だが確かめておく。万が一だがクローゼットやベッドの下に身を隠している場合があるからだ。一つずつ確認していく。だが生存者の姿は無い。


「右側客室クリア。ここには誰もいない」


「こっちもだ。お前、見間違いじゃないのか」


反対側の客室の捜索を終えたジュリアンが訝しげな視線を向ける。見間違えではない。影の形も消失した方向も僕らが来た側の影とは異なるものだったからだ。


「見間違えではないと思います」


「ならもう少し探そう。ウェルナー、この船が沈没した時の脱出ルートは考えてあるんだろうな?」


「何の為にこの循環呼吸器を持ってきたと思ってるんです?」


コンコン、と循環呼吸器を小さく叩いた。万が一ボートでの脱出が不可能となった場合、自力で海面に上がる他は無い。更に言えば人が息を止めていられる時間もそうそう長くは無い。だからこそ循環呼吸器を使うのだ。


ガレキをかき分け、時折流れてくる腐乱死体を脇へ押しのけ前へ進む。少し歩いたに倉庫と書かれた看板を発見する。その先は行き止まり、とすれば生存者はここに逃げ延びたのだろう。


扉は閉ざされていた。その先に何があるかは分からない為突入態勢をとる。ドアの取っ手側に僕が張り付き、反対側にジュリアンが張り付く。


「行くぞ」


突入と共にフラッシュライトを点灯、見える範囲に不審なものは無い。しかし積み荷が光を反射し奥まで届かない。どうやら進む必要がありそうだ。


「私は右側から探す」


察しの良いジュリアンはすかさず右側面の積み荷の隙間へ滑り込みフラッシュライトを照らし捜索を開始した。僕は左側から捜索開始。積み荷は至って普通のものばかり、何故こんな客船を襲撃したのだろうか。考えてみればますます一連の襲撃について矛盾点が多くなっていく。


僕ら私掠船は積み荷を確保するために船舶への奇襲攻撃を行うのだが、バッカニアとて積み荷や金になりそうなものを略奪するだろう。しかし積み荷は整然と並んでいる。荒らされた形跡はどこにも存在していない。


――どういうことだ?


「乗客を皆殺しにして積み荷はそのまま……妙だな」


明らかに金目当ての襲撃とは思えない節があまりにも多い。この時代にテロリズムという概念があるとしても政治的意図を誇示するには至らない目標だ。


そして何よりも一撃で相手を仕留めているという事。何千発もの弾痕。そういえば海賊掃討作戦以前に臨検を何回か行ったことがある。その時にブラックホークが船の側面に張り付き、ドアガンナーがいつでも撃てるぞと半笑いを浮かべていたことがあった。


発砲はしなかったがもし撃たれればまさしく今の状況と何ら変わらない光景が広がっていただろう。プロフェッショナルがこの襲撃に関わったことは間違いない。


ふと人影がフラッシュライトの光に映った。間違いは無い。生存者はいる。僕はそう確信して積み荷の奥の右側面へ前進し、銃口を向けたその時


「撃たないでぇッ!」


ライトに照らされた金髪のボーイッシュな子が壁の端で震えていた。大体僕と同じくらいの年齢だ。少女の悲鳴に僕は構えを解き、彼女へ手を伸ばす。


「君達、ボクを殺しにきたんでしょ!?」


「違う、君を殺しに来た訳じゃ無い。大丈夫だ。大丈夫」


HK416を背中に回し、怯えきった彼女の手を握る。暖かな温もりが生きている何よりの証しだ。


「ジュリアン!生存者が見つかった」


「分かった。ボートを取りに行く」


ジュリアンも生存者の姿を確認し倉庫を出て脱出に備えボートを準備しに向かった。


「君達は彼らの仲間じゃないの?」


「仲間?誰の事だい?」


「四つ目の怪物達が君が持っているそれを持って来て客船を攻撃したんだ……ボクはこの船で勤めていたから内部構造もよく分かっていたから何とか逃げ延びる事は出来たけど……あいつら暗い所でもまるでボク達の位置が分かっているかのように撃ってきたんだ。きっとヴァンパイアがボク達の船を襲ったのかもしれない」 


必死に自分の置かれていた状況を彼女は怯えていながらも懸命に絞りだした。

彼女の言葉、そして弾痕、思い当たる点があった。あくまで仮定の話であるが。


もしもそうであれば、そうだと確信したら。僕は圧倒的に不利な立場へ置かれる事になる。


そんな先の仮定よりもこの少女を助ける事が先決だ。


「君、名前は?」


「メアリー・リードです」


「僕達と一緒にくるかい?」


彼女へ希望を投げかける。彼女は小さく頷いた。そうと決まれば行動は速い。彼女の手を握り倉庫を出て甲板へと足を進める。直後巨大な振動と共に船が急速に浸水し、がれきが甲板への退路を閉ざした。


「クソッ!やられた。何処か脱出ルートは……」


最悪の状況だ。循環呼吸器があるのはいいが肝心の脱出ルートがどこにも見当たらない。

そうしている間にも水位はどんどんと高まっていく。


――落ち着け、どこかにルートがあるはずだ。


探していると水中のガレキの下側に人が一人分入れる隙間が見つかった。最早考えている時間は無い。一刻も早くここから逃げなくては。


「メアリー、泳げるか?」


「大丈夫です。泳ぐことなら」


メアリーが頷くと僕はレギュレーターを口に咥え、ガレキの隙間へ入り込む。先程入ってきたルートを確認すると幸い塞がれている様な箇所は見つからなかった。再度メアリーの下へ戻る。


戻ったはいいが水は天井ギリギリにまで達していた、一刻の猶予も無い。


「脱出ルートは塞がれていない。このまま行こう!」


「分かりました!」


メアリーと僕はガレキの隙間を抜け水没した階段を上がり上部船室の水面へ顔を出す。しかし上がったとはいっても既に水は腰ほどまでに迫っている。


上部船室を何とか走り抜け甲板へ脱出する事に成功した。ゴムボートに乗り込んだジュリアンが僕らを待っていた。


「よし、ジュリアン!この子を先に頼む」


ジュリアンはまずメアリーを抱きかかえゴムボートへと乗せ、続いて僕を抱き抱える。


「ああ、割と重いなお前……」


そうジュリアンは耳打ちし、ドレイクの船へと舵を向ける。

帆船がゆっくりと海中深くへ没して行くのであった。

明日か今日中に短い話を投稿すると思います

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