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第3話 初仕事は掃除から

第3話 初仕事


不思議な運命の巡り会わせというべきか、僕は私掠船に乗り込むこととなった。

船はイル・サン・トゥルーガ島を出港し風下へ針路を取る。行先は分からないがとにかく居場所があるという事は感謝すべきだろう。


初めの仕事は決まって雑用なり何なりをやらされるものだが僕は船長室にてキャビン・ボーイをやらされる事となった。何故かと言えば「個人的に」話がしたいらしい。


通常、新入りにそこまでの好待遇は滅多に無いのだが。

ヴィクトリア・ドレイクが聞きたい話の種ならいくらでも持っている。

しかしそんな事を考えている余裕はなさそうだ。


「悪いなぁ。こんな部屋で」


「片付けましょうよ!ドレイク船長‼」


見たところ部屋はマホガニー材が惜しげなく使われ、調度品には所々純金で作られた細工などが仕立て上げられている。

だが、それを越してこのゴミ屋敷というにふさわしい散らかりようは部屋の品を著しく下げている。


この生活用品が四方八方に散らかっている様を見れば誰だってそう思う。

まず初めに船長室の清掃から取り掛かる。SEALs時代、正確に言えば基礎水中爆破訓練にて部屋の清掃は教官から嫌というほど直された。


まずベッドのシーツを直角平行に折り畳む。これが出来なければシーツが部屋から吹っ飛ばされる羽目になる。僕は何度直されたことか……


――NavySEALsで学んだ部屋の清掃技術がこんな異世界で役に立つなんて……


改めてハウスクリーニングの重要さを実感させられる。


続いて散らかった服の整理。これも丁寧に行う事。

例えばしわがあったら教官から海に叩き落されます。うん、まじめにやろう。


まずは四方八方に散らかった服をかき集めて一か所にまとめる。やり方が完全にゴミ掃除と変わらなくなって来ている気がする。


「あー服は折り畳まなくていいよ。適当で」


そう言ってラム酒をラッパ飲みする僕の船長ヴィクトリア・ドレイク。

正直ながら今すぐにでもラム酒瓶を叩き割って掃除させてやりたいくらいムカつくんですけど。


気持ちを抑え一か所にまとめた服を近くにあった押入れへ放り込む。


「よくやった。それでこそキャビン・ボーイだ!」


ラム酒を一気飲みし、ふらついた挙動でグッドポーズするドレイク。


――よくやったじゃねえ!


いい加減にしろと思いつつも服を押入れに放り込んだことで割と船長室が綺麗になった気がする。一応船長室は元の品の良い室内へ戻った。


「ふう……」


一通りの作業を終え、僕は近くにあった椅子に腰を下ろす。改めて船長室を見返して見ると広々とした室内の中央に大テーブルが据えてある。ここで船長他一同が食事をとるはずだったに違いない。



「初めてにしちゃ上出来だ。素晴らしい」


そう言われましても。この部屋の惨状をここまで復興させた事自体が奇跡同然何ですがそれは……



「お礼のラム酒だ。ほらよ」


ドレイクが戸棚から取り出したラム酒を投げて寄越す。


「どうも」


軍で酒を飲むのはご法度だがここは私掠船。コルクを開けて一口頂く。マイルドな甘さが口の中で広がるのを感じて僕はさらにラム酒を飲んだ。


「旨いか?ガイアナの15年ものだ。私もお気に入りでね」


そう説明するが否や再び戸棚からラム酒を取り出すドレイク。酔いが回っているのか千鳥足でベッドへダイブした。ボフンと羽毛が空を舞い、部屋のあちこちに四散する。


さっき片づけたばかりなのに……

呆れるしかない。この船長。


「ウェルナー君。私が何者か知っているかね?」


ベッドに寝転がったドレイクが急に酔いの冷めた口調で話し始めた。


「はい?」


何を言っているんだろうかこの人は。

僕が疑問に思っているとドレイクがベッドから跳ね起きた。


「だ~か~ら~、私が何者かって事だよ」


「私掠船って言ってましたっけ」


「そう、私掠船。まあ国家により敵船拿捕行為が許された船って訳だ。この私はフォート公国から私掠免状を承って敵国であるサーペント王国から何もかも頂いてるって訳だ」


なるほど、つまり前世でいうところのイギリスによる私掠行為と同じ事を行っていると言う事か歴史をかじれば大体分かる。


しかし僕のいる場所は過去の世界ではなく現代に似た異世界。

始めは少し戸惑ったが英語が通じるなら意志疎通に困る事は無い。


「サーペント王国は今や9つの海の覇権を握ってる。そんなところに現れたのが新進気鋭のフォート公国って訳だ」


そういうとドレイクは航海地図を取り出し長テーブルへ広げる。その大陸の端の島国には英語でフォート公国と書かれており、大陸側にはサーペント王国と書かれている。


僕は一目で構図を理解できた。スペインとイギリスによる覇権争いと似通っていたからだ。大体1600年代のイギリス海外進出と同じだ。


「だがサーペント王国は通称魔術師大国と言われるまでに魔術師の人材は豊富だ。どんなに質の良い魔術師がフォートに10人いたとしてもサーペントに質の悪い1000人を投入されれば結果は見える」


説明を総括すればこうだ。サーペントは持ち前の魔術師を使い世界の覇権を握った。そこに二枚舌のクソッタレな島国フォートがそこに割り込んでいるという事か。分かりやすい。だが似ているとはいってもすべてが似ているという訳ではないらしい。先程ドレイクが述べた魔術という言葉だ。


「それで、魔術師っていうのは何なんでしょうか?」


「魔術師というのはまあ言葉通り魔法を操る人間の事だ。属性によって異なるがな。例えば私は火、土、銀の三大元素を用いた魔術を使う事が出来る。例えばこんな感じに」


ドレイクは煙草を口にくわえ右手人差し指に小さく火を灯し、煙草を吹かす。


「他には魔力を行使して自然現象や物理的現象を引き起こす……こんな感じだな。ああ、そうだ。忘れてたよ、渡したいものがある」


何を思い立ったのか、戸棚の中のラム酒をすべて取出し、それを確認してもう一つの取っ手に手を掛けた。つまりこの戸棚は二重扉になっていると言う事か。


「いいから、この戸棚を開けてみろ」


「はぁ……」


言われるがままに戸棚の取っ手に手をかけ、ゆっくりと扉を開け放つ。

その時だった。金属製の何かが僕の目の前に落下してきたのだ。


「うわっ!」


そんなはずが無い。こんなものがどうしてこの世界に存在しているのだろうか……

僕は目の前の光景が信じられなかった。


目の前に落下してきたのは自動小銃(アサルトライフル)HK416だったのだから。半信半疑で僕はそれへ触れる。


何度も扱ってきた感触だ。間違いなど無い。それにカスタマイズは僕がSEALs時代に使っていたものと何ら大差が無い。


ホロサイトとブースターは正常に稼働する。フラッシュライトは夜間相手の目を眩ませるのには十分すぎる性能だ。


レーザーサイトは使い所が分からないが今のところは装着しておいて損は無い。


更に戸棚から装備品が溢れ出る。デジタルグリーンの迷彩に彩られた戦闘服(コンバットシャツ)とLBT社製のプレートキャリア、最後にエアフレームヘルメット。


「お前の仕事道具だろ?預かっておいた」


振り向くとドレイクが不敵な笑みを浮かべてハンドガンを渡す。僕はマガジンを装填し、スライドを引いた。


「はい……」


――やる事は分かっている。この船に乗った時からその覚悟も出来ている。

今日から僕は、海賊だ。


ウェルナー・ブルックリンの海賊としての人生が幕を開ける。


ここまで見て下さった皆さん。ありがとうございます!

ご意見やご感想をお待ちしています。

とりあえず毎日投稿出来るようにしていきたいと思います。

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