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第9話 メアリー・リード

ネイビーシールズパイレーツは去年のものとは多少展開が変わります。

ドレイクと別れた後、僕は一人医務室へ顔を出す。どうやらメアリーはまだぐっすりお眠りの様子だ。ベッドの隣の椅子へ座りこみ彼女の顔を覗き込む。


短く切った金髪にまだ幼い顔立ちの少女がそこに眠っていた。歳は僕とあまり変わらないだろう。


「んん……」


「気が付いたか?」


彼女はぼんやりとした表情で部屋を見回し、僕へ顔を向ける。


「君は……」


「おはよう、メアリー・リード。僕はウェルナー・ブルックリン。君を助けた人だ」


「ありがと、ボクを助けてくれて」


その笑顔は底無しなまでに美しかった。本来の彼女はきっとこんな感じで客船の乗客に接待していたのだろう。普通の人間として静かに暮らせていた筈だ。


「どうも、こちらこそ感謝するよ」


だが運命は容赦なく彼女を日常から引き離した。客船がプロの集団に襲撃を受けて衛兵どころかバカンスを楽しんでいた乗客、乗務員もろとも皆殺しにしたのだ。そして彼女だけが生き残った。そんな境遇に僕は同情の念を覚える。だが同情したところで何も変わりはしない。


「君はこれからどうしたい?」


それはドレイクがかつて僕に言った言葉。何も見えなかった自分にドレイクがくれた道しるべ。


「ボクは、もう……何も無いんです。生きる場所も、術も、全部……」


その弱弱しい声音が数か月前の自分と重なる。SEALsとして生き、そして死んだ自分には目の前にあるのは真っ暗な世界だけだった。


「あの時に奪われましたから」


「そっか……」


日常が破壊される恐怖と言うモノを僕は誰よりもよく知っている。911、マドリード、ロンドン、パリ、惨劇は何度も目の当たりにして来た。日常がどれだけ大切かという事はそこで始めて判る。自分が生死の境にいる時最も当たり前の日々を望むというものだ。


「自分に出来る事なんて、何一つ無いんです」


「それは違う。何一つ無いわけじゃない。これからだって出来る事はある」


そう言えば希望を持てるとでもいうかのように僕は彼女へ語り掛けた。


「私に出来る事って?」


彼女の手を握り、僕はゆっくりと口を開いた。


「僕たちと一緒に、戦うかい?」




数日後


この島でいつまでものんびりしているわけにはいかない。僕はこの世界に来てからほとんど基礎的な射撃訓練を行っていない。腕が落ちてジュリアンに抜かされるのはごめんだ。

そんな訳で僕は島の港町から反対の草原に簡易的な射撃場を作った。的は木の板に人型を書いたもの。それを10メートル、50メートル、100メートルと次々に並べていく。

これである程度の射撃演習は行える。

銃に関しては僕のHK416とP226ハンドガン、ジュリアンのSR-25、MP7A1しかない。支援攻撃用として分隊支援火器か汎用機関銃が欲しい所だがあの戸棚からは最近銃弾しか出てこなくなった。レオナルドに頼れともいうんだろうか。


ともかく始めなければ。ここまで持ってきたのは240発。訓練するには十分すぎる量だ。装備品を全て装着し、HK416にマガジンをセット。目の前の木の板を見据えて銃を構える。


発砲。サプレッサー独特の空気の抜けるような発射音と共に弾丸は胴体部分に命中した。そのままもう一発発砲。2発の弾丸が同じ場所を貫いている。

「ダブル・タップ」と言う射撃術だ。同じ場所に2度射撃することにより標的を確実に即死へ追い込む。頭部を狙わなかったのは標的として小さい頭部を狙うより胴体に当てる方が容易だからと言う事もある。どれもSEALsで習った基礎的な射撃術だ。


続いてトランジション。これはプライマリーからセカンダリーに武器を切り替える時に使う射撃術だ。とは言ってもプライマリーの弾が切れたら素早くセカンダリーを抜いて発砲するだけ。だが相手が発砲する前に撃たなければ意味は無い。その為に出来る限り素早くセカンダリーを引き抜く必要がある。これも高度な技術を要求される。


まず自分のプライマリーであるHK416を弾が切れるまで撃ち続ける。弾切れを確認し、腰のホルスターに右手を回しセカンダリーのP226引き抜き、的の心臓部分へダブルタップ。


「ふぅ……」


基礎射撃を終え僕はセーフティを掛け、地面へ腰を下ろす。一つの的ではあるが連続して命中させるというのは割と集中力を使う。一度休憩として草原に寝転がる。眼前には青い空が広がっていた。


「はぁ……」


脳裏にあの底無しの笑顔が去来する。


――彼女を誘ってよかったのだろうか?


僕の中に妙な感情がこみ上げる。それはドレイクやジュリアンたちと過ごしていた時には全く感じなかった感情だ。


メアリー・リードは普通の少女だ。謎の集団に襲われる前は。だが今は違う。あの後彼女はイエスと口にした。自分の意志で戦う事を選んだのだ。


「あ、あのう」


耳元から声が聞こえる。声の下へ振り向くとそこには男装したメアリー・リードが僕の顔を覗き込んでいる。


「うおっ!どうしたんだいきなり」


驚いて跳ね起き、身なりを整えるがもう遅い。僕の慌てっぷりにメアリーはクスクスと微笑んでいる。


「ボクも戦うって言ったでしょ。だからウェルナー君に射撃を教えて欲しくて、ジュリアンさんに聞いたらここにいるって言ってたから」


なるほど、彼女は本気と言うわけか。ならば今すぐにでも始めたいところだ。


「分かった。戦う気ならば、本気で行こう!」



訓練開始


まずメアリーに教える事は、銃の基本的な構えからだ。僕のHK416を彼女に渡している。

立射の際には肩幅程度に足を広げ、肩に銃床を当ててハンドガードを左手でしっかり握り

目線は常に的へ向ける。これが立射。ある程度教えれば構えは自然と身につくものでメアリーはスムーズに立射の構えに移行出来るようになった。


「こんな感じ?」


「そう、それでいいよ。じゃあ次だ」


次に教えるのは射撃。戦場は主に船の甲板や船内を想定している。

近距離戦闘は素早さと正確さがものをいう。つまりメアリーには近くの複数の的に対して素早く、正確に射撃するための技術を叩きこまなければならない。その為3つの大きさの異なる的に撃たせ、彼女の射撃精度と素早さを測る。


「撃て!」


「了解!」


タン、タン、タンと3発の銃声が響いた。しかし3つの的のうち、命中しているのは1つのみ。


「あ、あれ?当たってない……」


「銃口と自分の目線を平行にくるように意識してみたらどうかな?」


「分かった。やってみるよ」


再チャレンジ。今度は速さではなく精度のみを測ってみる。今度は少しスローペースで

射撃。再び3発の銃声。時間こそ遅いが標的に確実に命中している。


「これで大丈夫かな?」


「問題ないよ。ターゲットには命中している」


「良かったぁ」


ほっと胸をなで下ろすメアリー。まだ終わってはいませんよ。


「貸して、ちょっとお手本を見せるから」


次に僕が銃を構え先程の3つの的を1秒足らずで撃ち倒して見せた。一応元SEALsなので近距離戦闘から狙撃まではお手の物だ。


「凄い……」


「ここまでやれればプロも同然だけどゆっくりやっていけば大丈夫。そこからどんどんペースを上げていく感じでやってみれば君の腕も上がるよ」


「ありがと、頑張ってみる」


一年間も間を開けてしまい申し訳ございません。今後とも見ている方がいらっしゃれば私の励みになります

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