第六百五話 何様のつもり?アムアイ人外!?
青い球が割れた場所から青い光があふれだし、倒れている守を包む。
その全てが守に吸収されるように消えるまで、数秒も必要としなかった。
ゆっくり立ち上がる守。
しかしその体に魔力は無い。それを感じさせないほどスムーズに立ち上がった彼に驚きを隠せない彼女。
「貴方の魔力は回復してないはずだけど?」
「そうだ、回復はしていない。
しかし、それが何だ?些細なことだろう。」
倒れる前とは、いや、起き上がる直前とは纏う雰囲気が全く違うことに気づく彼女。
しかしそれは何か新たな作戦のためだろうと思い、気にせずにくってかかる。
「些細なんかじゃないわよ!
アンタどうせまともに動けないんでしょ!?そんな状態で私の邪魔が出来ると思うの!?」
魔力は生き物の生命活動を補助するため、多かれ少なかれ、どんな生き物にも必要なはずなのだ。
些細なはずがない。
それを知っている彼女はからかわれていると思い、怒りを沸かせる。
「出来る。
魔力があろうがなかろうが関係ない。というより、必要ないと言った方が正しいか。」
「もっとましなハッタリをかましたら!?
どんな生き物でも、生きていく上では少なからず魔力が必要よ!
貴方は人間どころか生き物ですらなくなったわけ!?」
「そうかもしれない。だが、そうでないのかもしれない。」
「さっきから人をからかってなんなの!?」
「からかってなどいない。
全て真実だ。」
その顔には感情が映っていなかった。
想いも何も込められていない言葉に気圧され、その反動もあってか彼女の怒りは更に燃え上がった。
「貴方はからかってるつもりは無いかもしれないけど、ムカつくのよ!
第一なにその口調!?何様のつもり!?」
「何様、か…
神様、とも少々違う、人間様でもない…
そうだな。人外様とでも言ったところか。」
その一言で彼女のなにかが切れた。
彼女の目の前を覆い尽くす白い光が守を包み込む。
(これで完全に消えた、終わりね…)
達成感と同時に訪れる虚無感。
いつも周りの人間を遠ざけていた彼女にとって、友達と呼ばれるものに一番近かった存在。
ある意味では最も親しく、最も憎んでいた存在。
その消滅に思うところが無いわけがなかった。
(もしかしたら、これが寂しいっていう感情なのかもしれないわね…)
僅かな時間感傷に浸り、すぐに引き戻す。
彼女には新たな世界を創造し、管理すると言う仕事が残っている。
誰に命じられたわけでもない、彼女自身が選び、課してきた仕事が。
「どこを見ている。」
(そんなまさか…あり得ない!)
振り返れば膨大な魔力に飲まれ、消失したはずの守が居た。
「なんで居るの!?確かに今消えたはずなのに…」
「さっき割った青い球。
あれには膨大な神の力が封じ込まれていたらしくてな。それを全て吸収したおかげで俺の能力は新たな進化の扉が開かれた。」
「まさか、さっきのも能力?
進化した障壁で防いだってこと?」
「今のは障壁ではない。
魔力は破壊する性質を失う、そんな法則を創っただけだ。」
「法則…?
性質と性能を創れる能力が進化したってこと?」
「理解が早いな、その通りだ。
もっとも、お前を倒すことにおいてその能力はもう使わないがな。」
「そんなに強い能力を使わないで勝てるっていうの?」
「ああ、進化した障壁の能力だけでも充分戦える。
ヒントを言おうか。障壁は密度、体積、全てが思い通りで破壊不能の❝神壁❞に進化した。」
「意外と進化のベクトルは普通なのね。
ただ壊れないだけなの?それだけで私を倒せるの!?」
「そうだ。
これからどうやってお前を倒すか、当ててみるがいい。
これ以上のヒントは無い。せいぜい頑張って考えることだ。
もっとも、当てたとしてすることは一つだが…」
彼女は考える。
守が言っていた能力の意味を。自らの滅び方を。
「……時間切れだ。」
上に指を向ける守。
指の行先を見た彼女は絶句した。
見えたのは光一つ無い漆黒。
夜空などではない。宇宙も星もまだ創造されていない。
ならばあれは何か。それを教えたのは転がっていたシャワーや湯船の欠片。
上に引き寄せられるように浮いていく。
次第に速度は上がっていき、そのうち2人以外の物質が全て上に引き寄せられていった。
「何?」
「お前、ブラックホールって知ってるか?
太陽を超える質量の恒星が一生を終え、できた超重力の天体だ。」
「………」
「驚いて声も出ないようだな。
密度、体積が自由ならとてつもなく重い障壁を創り出せば、後は万有引力の法則に従い強力な重力が発生する。それがあれだ。
そろそろ、俺たちも…」
ふわり、と2人の体が浮く。
スピードは徐々に上がっていく。
「いや……」
「ああ、俺だって嫌だ。
誰だって嫌だ。死ぬのはな。」
「いや、いや、いや…い」
「黙れ。」
首トンで彼女の意識を刈り取る。
その直後に守は今までまとっていた雰囲気を解き、演技を止めた。
「……ふう。
どうだ?ちょっとは絶望感が出てたか?」
『バッチリじゃないでしょうか。』
彼女の意識が無くなったことにより、この世界を包む結界が消滅したことを確認した守は女神に話しかける。
女神の力が回復したこと、結界が消滅したことによりテレパシーが可能になったため、女神もそれに応じる。
「女神様、コイツはどうする気だ?」
『魂ごと消滅させるつもりでしたが?』
「…おっかないな。せめて記憶を消して野に放つとかそんな感じにしてくれないか?」
『はいはい、分かりましたよ。
なんとか彼女を生かして、かつこんなことが二度とできないようにすればいいんですね?』
「それで頼む。
……まさかとは思うが、これで世界が救われたわけじゃないだろうな?」
『いえ、全世界の危機は継続中です。
世界のエネルギーは既に乱れ、このままではあらゆる世界に行くはずのエネルギーが霧散してしまいます。』
「それに関しては俺に考えがある。」
『なるほど、新しい能力ですか…
しかし、いいんですか?
その方法では、今後しばらく別の世界に渡ることができなくなりますよ?
また自由に行き来できるようになるまで、二年後か、数百年後か…全く分かりませんよ?それでもいいんですか?』
「今世界が滅びたら元も子もないだろ。
確かに、あいつらに会えなくなるのは寂しいけど…元の世界にも太郎や光、俊太に居図離…他の友達や家族が居る。
だから大丈夫だ。」
『……そうですか。
ところで、疑似ブラックホールは良いんですか?』
「ああ、それなら問題無い。
人体は重力の影響を受けない法則を創ったからな。この世界だけだけど。
無重力なら障壁で足元をちょっと押すだけで等速直線運動によって徐々に速度が上がる。それで吸い込まれてるって錯覚させてただけだ。」
『……いつでも俺ルール出来るということですか。
本当に神に匹敵しますよ?その力。
というか、守さん自体が神に片足突っ込んでますけど。』
「あの球、神の力が詰まってたんだろ?
だったら女神様が……待て。やっぱりそうなのか?俺は名実ともに人間を辞めちまったのか?アムアイ人外?」
『早く世界を救いに行ってください。滅んじゃいますよ。』
「分かってるよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
守は叫びながら彼女が創り出した世界の外へ飛び出していった。
世界を救う為、友と家族を守る為。
次が最終話となります。
…多分。




