第五百八十九話 無いったら無い?非情すぎる現実!?
「話を戻しましょうか。
彼女は世界を創っている世界は完成間近です。
しかしいくら方法を持っていても、創造及び維持のエネルギーは彼女一人では到底補えません。」
数秒生じたおふざけモードから一転、いきなり真面目になったので俺も切り替える。
「なら、どうやって世界を創ったり維持したりしようとしてるんだ?」
エネルギーが無ければ創れないし、維持も出来ない。
例えるなら無人島で電化製品を作れる機械だけ持っているって感じか…
無人島に電気なんて走ってないから、当然電化製品は作れない。
よしんばなんとか作っても、電気が無いため電化製品は動かない。
だが彼女はそれを創り、維持しようとしている。
「守さんの例えを借りて説明すると、どこかから電気を引っ張ってきているからです。
そして、そのどこかというのが…」
「世界樹ってことか。」
なるほど、話が見えてきたぞ。
あと、もう心を読まれてることはツッコまないからな。
『世界樹から無理やりエネルギーを引っ張って来てるってことだよね。』
「そうです。
そして、世界樹はエネルギーの流れ。その流れを強引に変えられてしまえばどうなるか…」
「……どうなるんだ?」
「世界樹の形が変わります。
流れを強引に変えられただけでも各世界に行き渡るエネルギーは大きく変化しますが、世界樹の形が変わってしまうと何が起こるかわかりません。
最悪の場合、世界樹が拡散、消滅して全世界の供給エネルギーが無くなって…全ての世界もまた、世界樹と同じ末路を辿ることになるでしょう。」
頭に流れ込んでいた映像が途切れ、暗闇しか見えなくなったので目をゆっくりと開ける。
「ということは、俺たちは世界の危機に立ち向かってることになるのか!?」
「そうなってしまいますね。
本来なら人間の、いえ、全生物の知らぬところで我々神々が解決しなければならない問題なのですが…
我々は自分の世界をエネルギーの流れの変化から守ることに必死ですからね。やむを得ず、神以外の救世主を選定しました。」
「その救世主ってのは、まさか…」
「はい。
守さん達です。」
あまりにも重いプレッシャー。
使命を知らず、認識すら出来なかったそれが一気に押し寄せてきた。
だが、不思議とパニック状態にはならなかった。
今までの体験が、それを抑えてくれたのだ。
「……今まで、俺たちは振り回され続けてきた。
俊太や世界の意思、異世界での出来事…それは全部、無駄じゃなかったんだな。
その為の旅なんだろ?」
「いえ、そんな意図は欠片も」
「世界の意思には感謝しないとな。」
この時ばかりは本当にそう思えた。
『女神様の言葉で、その気持ちにちょっと曇りが』
「些細な問題だ。」
本当に無駄なことは、無いのだ。
「思いっきり自分をごまかし始めましたね…」
無いったら、無いのだ。
『必死だね。
それより、その救世主って私たちだけ?たった一人でなんとかしろなんて、かなり無茶な話だと思うけど。』
「確かに、貴方達一人だけでは少なすぎます。
しかし、別の平行世界でもこちらと同じように守さんが異世界に送られ、優秀な能力持ちに育っているはずです。」
なるほど、俺たちは平行世界の俺自身と一緒に戦うことになっているのか。
「もっとも、私の力はあの鎖に大分吸い取られてしまったようで助けを呼ぶことすらできませんが…」
マジかよ…いや、待て。
こっちから知らせなくても、向こうから来ることは無いのか?
「ここを誰かが見つけることは無いのか?」
「無いでしょう。
先程の映像は、分かりやすくした…いわばイメージです。
この世界は巧妙に隠されていて、この場所に気付く可能性はほぼ無いでしょう…
なにせ、我々神々が何年も虱潰しに探しているというのに、見つからないのですから。」
「……?
ちょっと待て、それじゃあまるで、俺たちは…」
「おや?言ってませんでしたか。
我々は今、彼女が作り出した未完成の世界に居るんですよ?」
聞いてねえよ…!
じゃあ、本当に外部からの助けは絶望的ってことか…
非情すぎる現実だ。
「……女神様。」
「………」
「俺に、世界が救えると思うか?」
「……貴方一人では、厳しいでしょう。」
ふと、思うより先か口に出していた質問。
返された否定を聞き、絶望しかけたその時、信じられない言葉を聞いた。
「しかし私も加われば、可能性は高まるでしょう?」
幻聴かと顔を上げると。
強い眼差しを宿した女神様の目が、心に沸いた疑問を否定していた。




