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第五百八十七話 よくわからないこだわり?ただ一人の味方!?

 牢屋を出た先は廊下。

 正方形のタイルを敷き詰めたような殺風景な道を歩いていく俺とピエロ魔物。


「なあピエロ魔物、名前とか無いのか?」


「ピエロとは心外な。

 私はピエロではなくクラウンでしゅ。」


 ……どう違うんだよ。

 よくわからないこだわりをもっているな。


「ピエロはクラウンと違って笑い物、つまり馬鹿にされているのでしゅ。

 私の顔には涙のマークがありましぇんよね?あれは馬鹿にされながら笑わせているという意味らしいでしゅ。」


 ピエロ魔物改め、クラウン魔物の意外な博識ぶりに素直に驚いた。

 というか、どうやって人間の知識を得ているのだろうか。サーカスのバイトでもして人間社会に溶け込んでいるのか?


「で、名前は?」


「ありましぇん。」


 無かったのか。

 いくら人型とはいえ、魔物は魔物ということか。


「クラウンでいいでしゅよ、名前なんて欲しくもないでしゅ。」


「そうか。」


 クラ太郎とかいろいろ考えてたのに。


「それより、なんで途中にあった扉を全部無視してるんでしゅか?

 もしかしたらアイツのところに通じているかもしれましぇんのに。」


「罠だったらどうする。」


 開けた瞬間に鉄球が飛んでくる、入った瞬間床が崩れる等、何が起きてもおかしくは無い。

 例の彼女は妙に仕掛けに凝った手紙、魔力を吸われる鉄格子を作れるのだ。どんな罠が仕掛けられているか分かったものではない。


「罠、でしゅかぁ。

 確かに、扉を開ける等の明確なスイッチで発動させる罠もありましゅが…」


 カチリ


「私だったら床を踏むとかの分かりづらいスイッチで」

「みたいだな。」


「……んん!?おやぁ!?

 高壁守!?」


「下だ。」


「いわんこっちゃないでしゅね…」


 床のスイッチを踏み、落とし穴を発動されたらしい。

 とっさに障壁で足場を創って事なきを得たものの、もし落とし穴以外の危険な罠だったら対処できただろうか。


「床はもう信用できないな。障壁の上を歩くぞ。」


「なかなかぶっ飛んだ対策でしゅね。」


 床の上に障壁を創り、完全に覆ってその上を歩く。能力が無制限に使えるからこその荒業だ。


「でも、まだ安心するのは早いでしゅよ。

 張られた糸に引っかかったり、」


 ピン


「とっさについた壁にスイッチがあったり。」


 カチリ


「まだまだ気を付けないといけないところは…

 …何をしてるんでしゅか?」


「お前のたとえ話が全部本当になって驚いてるってところか。」


 糸に引っかかって鉄球が落ちてきたり、壁に手をついたら矢が飛んできたり。

 もしかして、俺の行動じゃなくてこの魔物の言葉がスイッチになってるんじゃないだろうか。


「鉄球も矢も障壁で防げたものの、結構危なかったな。

 アイツも恐ろしい奴だな、俺の行動を全て読んでるような罠の配置をして…」


「……本当に気を付けるべきは我々の行動かもしれましぇん。

 もし我々の行動が全て読まれているなら、裏をかくように行動するのが一番でしゅ。」


「そう簡単に言うけどな。

 具体的にはどうするつもりなんだ?」


「あえて罠に見える場所に飛び込む、というのも良いかもしれましぇん。

 例えば今まで全部無視してきたこのドア。それをかたっぱしから開けていくんでしゅ。」


 一見罠に見えるが、実はそれが正しい道。

 ひねくれた仕掛けを取り入れているゲームではそれが通じるだろうが、現実にそうとは限らない。

 ましてややり直しがきかないのだ。一度のエラーで死ぬかもしれないのにトライアンドエラーを試す訳にはいかない。

 しかし。


「ずっと立ち止まってるわけには行かないか…!」


 こうしている間にも例の彼女は計画を進め、完成させようとしている。

 時間は無い。


「まあ、そういうわけだ。

 まずお前がどっかテキトーなドアを開けてみてくれ。」


「え゛。」


「誰から言われるでもなく、自分で考えて自分で出した意見なんだ。

 それを人に言えるくらいの自信と、実行する度胸もあるんだろ?

 だったらまずお前がやってくれ。お前がドアを開けて何もなければ、俺もドアをかたっぱしから開けていく。」


「………わ、わかったでしゅ。」


 クラウンは汗をにじませながらドアノブの一つを握る。

 慎重にゆっくり回し、その手が滑るようになった後勢いよく扉を開ける。


「………」


「…………」


 とっさに障壁を創り身を守ろうとする。

 しかし覚悟していた衝撃はいつまで経っても襲ってこなかった。


「ど、どうやら正解みたいでしゅ…」


 障壁を❝二つ❞消滅させる。


「どうやら、お前もなんともなかったらしいな。」


「はい…その、助かったでしゅ。」


 障壁で守ったのは俺だけじゃない。クラウンも一応守っておいた。


「今は俺の相棒だからな。

 手を組んでることを忘れてたのか?」


「いや…忘れてはいましぇん。」


 現状コイツはたった一人の味方。

 ここがどこなのか分からないので他の皆は助けを求めようにもできないし、助けを求められる誰かがいるかもわからない。

 増援も期待できない状況だ。そんなときにかつての敵だからと言ってばっさり切り捨てることはできない。


「さて、この部屋を調べてみるとするか。

 お前は待ってろ。俺一人で調べるからな。」


「私も行った方が」

「意見も度胸もお前に出してもらったんだ。このままじゃ俺は役立たずだろ。」


 クラウンを残し、いつでも逃げられるように扉を開けたままにしてその先へ一歩踏み出す。

 見えるのは白い壁、白い天井。明かりが無いのに何故か闇は無い。

 …部屋を見回している途中だった。


「なんだアレ…は?」


 部屋の外からは見えなかった、壁や天井に繋がれた鎖。

 その内側にある何かと、それにかぶせられたような白い布。

 そしてその何かが、人の形をしていることに気付いたのは。

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