第五百八十五話 聞き逃したもの?姑息な手を!?
「女の子相手に叩きのめすなんて、言い方が野蛮過ぎない?」
ぶっちゃけると俺ももっとほかの言い方が無かったのかと自分のボキャブラリーに問い詰めたい気持ちになっている。
それをおくびにも出すつもりは無いが。
「語彙力が無くて悪かったな。
でもな、お前もちょっとやそっと止めたぐらいじゃ止めないだろ?」
「分かってるくせに訊くの?」
コイツが達成間近の計画を止めろの一言で本当に止める訳が無い。
だからこそ、ただ倒すだけではダメだ。二度とそんなことをしないようにするためにたた…懲らしめなければならない。
『あの、守さん。私はまだ彼女の』
「後で聞くから待ってろ。」
女神様が何かを伝えようとしているが、それを聞くのは彼女を懲らしめた後だ。それからでも遅くあるまい。
説明を受けていた先程とは既に空気が変わり、殺伐としている。隙を見せれば一瞬でやられるかもしれない。
「……戦う準備は良い?私はいつまでもここにいれるほど暇じゃないから。」
どのようにして時間を調べたのかは知らないが、そんな問いかけを投げられる。
「お前を見つけた時から出来てるさ。」
「そう。
でも場所を変えない?騒がれるのも面倒だから。」
「そうだな。」
口には決して出さないが、敵ながらそういう配慮はありがたい。
「じゃあこれに入って。私についてきなさい。」
例の彼女はごく自然に世界の歪みを創り出し、その中に入っていった。
場所の変更については異議が無い俺は素直に後に付いて行った。
「……まあ、ちょっとは想像してたけどさ。」
世界の歪みの先、そこで愚痴る俺が居た。
良い配慮とかは世界の歪みを抜けてから思うべきだったと後悔しながら、目の前の鉄格子を掴む。
横に引っ張っても、縦に引っ張ってもびくともしない。それどころか、触れているだけで力が抜けていくような…
「放した方が良いわ。それにずっと触ってると、魔力切れになるから。」
「あぶなっ!?」
慌てて手を放す。力が抜けたような感覚は気のせいではなく、この鉄格子に魔力を吸われていたからなのか。
「どう?まんまと罠にはまって捕まった気分は。」
「最悪だよ。」
姑息な手を…力尽くなりなんなりでさっさと脱出してやる。
例の彼女に付いて行った先は牢屋だった。何故か彼女は牢屋の外にいるが。
「どんなトリックを使ったらお前だけ外にいるなんて状況になるんだよ…世界の歪みの出口は変わらないはずだろ?」
「目にも止まらない早業ですり替えた。説明終わり。」
単純明快、シンプルで分かりやすい答えだった。一瞬で世界の歪みを発生させることが出来るらしい。
「あ、一つ忠告するけど。
その牢屋、入ってるのはアンタだけじゃないから気を付けてね。」
「は?」
くるりと後ろを振り向く。
暗闇しか見えなかったが、その中からいくつもの視線が突き刺さっているような気がして寒気が足から頭へ走り抜けていくのを知覚した。
「さっきも言ったけど、私には時間が無いから。ここらでお暇させてもらうわ。」
「させるか!」
とっさに障壁の槍を作り、鉄格子の隙間からやや離れた彼女に狙いを定めてまっすぐに投げる。
「刺さると思った?」
槍の軌道上にあった足を引かれて外れた。
裏をかいたつもりで足を狙ったものの、やはり駄目だったか。
「後ろよ。」
去り際に彼女がぽつりとこぼした独り言。
背中に衝撃が走り、鉄格子に頭をぶつけ、肩に痛みが走ったのはそれを聞き届けた直後だった。




