第五百八十四話 美しく奇妙?壊された幻想!?
あの試練が、全て例の彼女の計画の阻止のためだった。
その計画がどのようなものなのか、全くわからない。
しかし、どのような手を使っても止めなければならないほどの恐ろしい計画であること、その一点だけははっきりと分かった。
「彼女の計画は、目的はなんなんだ?」
『それを話す前に、説明しなければならないことがあります。
目をつぶってください。』
言われるがままに目をつぶる。
「……まだか?なにも映らないぞ。」
「そうね、早くしなさい。」
お前も目をつぶってるのかよ。
『もうすぐ映ります。』
そのセリフが終わると同時に見えてきたのは白。
真っ白な空間かと思い、後ろを向けば真っ暗な空間が広がっている。
「どうなってんだ…?」
『その答えは少し離れてみればわかります。』
「離れる?これは壁か何かなのか?」
その疑問の問が否であることはすぐに分かった。
無限に広がっていると思われていた白い何かの両端が、徐々に見えてきた。
そこで、先ほどから白い何かから離れていたことに気付いた。あまりにも大きすぎてそれに気付きさえしなかったのだ。
『これは壁ではありません。
これは…』
離れる速度が増していき、ついに白い何かの全貌が見える。
「これは…樹か?」
一本の、巨大な樹だった。
樹からは一本の枝が伸びていて、枝分かれしながら伸びている。
『はい。しかしただの樹ではありません。
その樹の枝の先を見てください。』
分かれた枝の先には、全てブドウのようなものが付いている。
ブドウの一粒一粒は、キャンバスに絵の具を滅茶苦茶にたらしたような奇怪な色合いだ。
しかし何故か美しいとも思える。故に見れば見るだけ奇妙だという感想が濃くなってくる。
「美しくて奇妙、美妙ってことか…」
『美妙、というのはなんとも言えない美しさという意味らしいですけど。』
「そんな言葉があったのか…で、あの美妙な物体は一体なんだ?」
『世界です。』
「はぁ?」
信じられない単語が飛び出してきて、自分の耳を疑う。
耳元で手を叩いてみる。耳は正常だ。
じゃあ信号を受け取る頭がおかしくなったのか?
『私は確かに今、世界と伝えました。
あの粒の一つ一つが世界なのです。』
「嘘だろ!?あのブドウみたいなやつが!?」
自分でもそんな言いぐさは無いだろうと思うが、驚きのあまり紛れもない本心が口から飛び出てしまった。
じゃあ何か?ここはその世界の外側みたいな場所なのか?
『当たりです。』
なんか当たった。もうしれっと心を読まれていることは何も言わない。
『察しが良いですね。
これは世界を実らせる巨大な樹。
そして、我々…この樹の存在を知る者はこの樹を❝世界樹❞と呼びます。』
世界樹。
試練が終わった後のつかの間の日常の中で、一度だけ異世界の皆に尋ねたことがある。
しかし誰に訊いても知らないの一点張り。フラルに至っては逆に教えてほしいと言われてしまったほどだ。
俺の…というか世間一般のイメージとしては、異世界にそびえたつでっかい神秘的な樹だろう。
それが、実際には世界という果実を実らせる樹だったとは…
『……驚きましたか?』
「ああ、それもある。
けど、残念だって気持ちもある。」
『残念?』
「ファンタジーの世界に行けるんだ。一度は登ってみたいと思うだろ。」
『………』
白けてしまった。
登山級の木登りとか、滴や葉っぱで死者蘇生できんじゃね?とか、そんな幻想をぶち壊された身としてはこの追い打ちは痛かった。
『……話を戻しましょう。
この世界樹は、先ほどから樹という表現を用いていますが、厳密には樹ではなくエネルギーの流れです。
どこかからあふれ出ている、膨大という言葉では到底表せない無限大のエネルギー。それが世界に流れていく様が樹に見える為、樹と呼んでいます。」
要は、でっかいエネルギーの流れが樹みたいに見えるから樹と呼んでいるということか。
二年経って進化した俺の頭は、一見して意味不明なこの単語の羅列を理解できている。
二年前に同じ話をされたらおそらく理解できなかっただろう。これが新たにため込んだ経験とファンタジー関連の知識がなせる業だ。
『その世界の集まりをもっとよく見てみてください。』
ブドウをよく観察すると、粒が不揃いであることに気付いた。
更によく見ると、しぼんで消えたり、新しく出現したりしている小さな粒があることに気付く。
『世界が消滅したり出現したりしているのは、世界に与えられるエネルギーの流れに乱れが生じているからです。
乱れたエネルギーは世界が必要とする充分なエネルギーを届けなくなり、代わりに別の世界を余分に創り出してしまいました。
それを、世界の意思が拾った人間に特別な力を与えて不要な世界を消してバランスを保たせていたのですが…』
「保てなくなったのか。」
「はい。
エネルギーの乱れは次第に大きくなり、ついにバランスが取れなくなってきてしまいました。
なので、そのエネルギーの乱れを作っている元凶をなんとかしようとして作り出そうとした最強の能力持ち。
それが守さん、貴方なのです。」
二年の時を経て、話がようやく見えてきた。
「なるほどな。」
『そして、その元凶というのが…』
「ここまで話されたら分かるさ。
とりあえず、今すべきことは…」
視界が切り替わる。
そびえたつ白い樹は無くなり、代わりに街灯に灯された狭い空間と…
「ノコノコとわざわざやられに来た、その元凶さんを叩きのめすことだろ?」
例の彼女の不適な笑みが見えた。
「終わったんだから目を開けろよ。」
「あ、そうなの?」




