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第五百八十二話 行かない方が良い?悲恋の行方!?

 あれから3日経った。

 令音はあの日から姿を消し、日蓮ともあれっきり会うこともなかった。


『はぁ…』


 靴を履き替えていると、一つのため息が聞こえた。

 このため息の主は俺のもう一つの人格、瑠間だ。


(そう落ち込むなよ。

 やっと今日の授業が終わって自由になったんだ。ちょっとはこの解放感を味わわないか?)


『……』


 やっぱりダメか。

 あの日から瑠間はずっとこの調子だ。

 他の皆にも令音が消えたことは言った。三者三様、十人十色で反応は様々だったがどれも彼女の消失を惜しむものばかりだった。

 が、瑠間ほど落ち込んでいる者は誰一人いなかった(日蓮は会ってすらいないので分からない)。

 なので何度も何度もこうして励まそうとしているのだが、まるでうまくいかない。ぬかを釘で打つような感触にはもううんざりしてきた。


「はぁ…」


 瑠間のため息が俺にもうつる。


「また瑠間を励まそうとしてたの?」


 憂鬱までうつりそうだと思っていると、同じく靴を履き替えている光がそんなことを言ってきた。

 ため息で全て分かったらしい。最近瑠間に元気が無いことを喋っていたからだろう。


「ああ、そんなところだ。

 どうにか元気を付けられるといいんだけどな…」


「それなら明日、デパートに来てくれない?日曜日、私に❝内緒で❞行ったところ。」


 ちょっと根に持っているのだろうか。❝内緒で❞をやたら強調している。

 別に意図してハブったわけじゃないので許してほしいが、それを言っても意味は無いだろう。


「俺がか?」


「アンタが行ってどうするの。

 もちろん瑠間と入れ替わって、ね?」


「それは良いんだけどな…尚更思い出させないか?」


 そのデパートに令音との思い出がある以上、今の瑠間は絶対に蒸し返して落ち込み始めるだろう。

 もしかして、なにか対策でもあるのか?


「安心して、私にいい考えがあるから。」


 一気に不安が押し寄せてきた。

 行かせない方がいいかもしれない。


「あ、もし瑠間が来なかったら俊太と一緒に異世界の森でサバイバルね。」


「分かった絶対連れていく。」


 どうやってそんな状況に持ち込むんだよ、というツッコミはこの時頭から消し飛んでいた。






 今日は私の気持ちをそのまま映したような曇天だ。

 数日前に沈み、未だ浮かんでこない私の心に引きずって光と待ち合わせたデパートへ向かう。


「おはよう。この時間なら集合時刻に間に合いそうね。」


 玄関を開けたら光が居た。


『おい、待ち合わせしろよ。』


 今日は干渉しないと前もって言っていた守がついツッコむほどのボケだったらしい。守が言いたかっただけかもしれないけど。


「……デパート集合だよね?なんで家の前(ここ)にいるの?」


「待ち合わせ場所に2人で向かって悪いなんて誰も言ってないけど?

 それに、もしかしたらすっぽかされるかもしれないなって。」


「守に念押しされたからそれは無いよ。」


 俊太とサバイバルは私も嫌だ。俊太が余計なことをしてピンチになる状況が容易に想像できた。


「ならいいけど。

 早く行こう、間に合わなくなるかもしれないから。」


 間に合わなくなる?このくらいで遅れる程の余裕じゃないはずだけど…

 まあいいかと疑問を打ち消して、先に行った光に付いて行った。







「そこに隠れて。」


 目的地に着くなり、待ち合わせをしていると思えないセリフが飛んできた。

 言われるがままにそこにあった自販機の影に隠れ、光が指さす方向を見る。


「あれって…日蓮?」


「そう。

 ……ちょっと静かにしてて。」


 なんでいきなり人を観察することになったんだろう。

 でも、日蓮があの後どうなったのかは知りたかった。

 令音が消えた後、ゆっくり遠ざかっていく哀愁漂う背中は見ていられるものではなかった。


「……落ち着きが無いね。」


 日蓮をしばらく観察して、抱いた感想がそれだった。

 腕時計を見たかと思えば携帯電話を取り出し、少し操作したかと思うと辺りをキョロキョロと見まわし…挙動不審だ。


「……令音が居なくなったから壊れちゃったの?」


「日蓮は正気よ。そろそろ…」


 腕時計を見ながら言う光。

 何がそろそろなんだろう。


「来た!」


 日蓮が何かに気付いたように顔をある方向に向ける。

 そこには令音が…え?


「令音!?」


 目を擦ってもう一度見る。

 しっかり見るとそこに居たのは令音じゃなかったけど、どこかにそんな面影がある女の子だった。


「もう日蓮は立ち直ってるけど、アンタはいつまで引きずってる?」


「………」


 私より辛いはずの、日蓮はもう立ち直ってるんだ。

 なのに私はいつまでもズルズルと…

 認めよう、彼女はもう未練を断ち切って成仏したことを。

 止めよう、別れの辛さをいつまでも引きずるのを。

 出会いがあるなら別れがある。別れがあるなら出会いもある。

 照れくさそうに頭をかく日蓮を陰から見ながら、もう彼が悲しい恋をしないように祈った。

 翌朝、ルーマを追いかけるのを止めるといった趣旨の手紙が我が家のポストに届いていた。

ついで話


ルーマへの恋も悲恋かもしれませんね。

ルーマは架空の存在です。

今回、日蓮がそれを知ることはありませんでしたが、もしルーマが瑠間だと知ってしまったら。

瑠間をルーマと知覚できなくなり、ある意味では二度と会えなくなってしまいます。

サンタクロースみたいな感じですかね。サンタが親だと知ると親が変装したサンタを見ても…

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