第五百八十一話 残されたピンチ?315のデート!?
「さて、ようやく本題に入れますね…」
光が去ってしまった後。
私に残されたのはピンチだけだった。
「守さん、もしかして貴方は…」
隠し事をしているのはもうバレている。
下手なごまかしが通用するような相手だったらいいけど…
「また何かに憑りつかれましたか?」
「え?」
一瞬何を言ってるんだろうと思ったけど、一言前の言葉から察した。
「もしかして、別の人格に気付いてる?」
「気付くも何も、雰囲気も口調も全く違うことからしてそう考えるのが自然かと。」
確かにそうだ。
演技中ならともかく、守は私みたいな喋り方を絶対にしない。
顔のコンプレックスのせいで。
「私は憑りついた幽霊じゃなくて、色々あって出来ちゃった新しい人格。
皆は瑠間って呼んでる。」
「瑠間さんですか…そう言えば以前、そんなことを消が言っていたような。」
今思い出したのかな?
展開次第では私が成仏させられてたかも。死んでないから出来ないけど。
「……そろそろ話を戻しましょう。
先ほどの邪気は」
「日蓮!?」
チャイムを聞きつけたと思われる令音が来てしまった。
ちょっと遅かったのは気になるけど、いずれにせよ最悪のタイミングだったことには変わりない。
「……念のため伺います。
彼女以外の霊はここにいらっしゃいますか?」
「って、前のお坊さんだったの。
ここには私以外の霊は居ないの。」
しかも事情を知らないがために正直に答えてしまった。
「そうですか。
ではあの邪気は貴女が…」
「邪気?私が?」
どうやら令音は自分から邪気が出ていたことに気付かなかったらしい。
視線をこちらに向ける令音に、私はうなずいた。
「はい。
この家から悪霊の邪気を感知しました。
他に霊が居ないのであれば…令音さん。貴女しかいないのですよ。
悪霊になりかけている霊は。」
「私が、悪霊…?」
言われなければ、私だって信じなかった。
それなのに本人がすぐに信じられる訳が無い。何も変わってないように見えるんだから。
「貴女が悪霊になってしまう前に、成仏させる必要があります。
急な話で気の毒ではありますが、今ここで…」
「ちょっと待って!」
声の主はここから去ったはずの光。
やっぱり、さっきのアイコンタクトはそういう意味だったんだ。
「令音の成仏、ちょっとだけ待って。
令音には今、しなきゃならないことがあるの。だからせめて、それが済むまで…!」
「私からもお願い!
ここで令音が成仏しちゃったら、日蓮も、令音も未練が永遠に残り続けちゃうから!」
「………」
目を閉じ、少しの間考えるお坊さん。
「……いえ。
いつ悪霊になるか分からない霊を放置しては危険です。
私だけならともかく、瑠間さん、光さん、貴女方にも被害が及ぶかもしれない。
そして、それは令音さんが望むことではないでしょう…厳しい言い方ですが、それでもそう言い続けられますか?」
言葉に詰まる私たち。
誰も望まない事態になることを恐れて、何も言い返せない。
「令音!!」
その時だった。
彼が息を切らして玄関に駆け込んできたのは。
「一目惚れなんかであっさり心変わりしちゃってゴメン!
でも、令音がここにいるって分かって僕は…!本当の気持ちに気付けた!!」
「日蓮…
私もゴメン…先に死んじゃって、約束をダメにしちゃって。
そしてありがとう、死んだ私をそこまで想ってくれて。
でも、もうおしまい。私はあとちょっとで悪霊になっちゃうの。
だから今、成仏させてもらうところだったの。
もう終わりにしよう。ここであきらめなくても苦しいだけ」
「そんなことない!
きっと僕が…僕が令音を悪霊になんかさせない!
幸せにすれば、悪霊なんかにならなくて済むだろ?」
「日蓮…」
「今答えて!
僕と付き合ってほしい!
たとえ死んでも…その気持ちは変わらないから!!」
「………」
いつからか、令音を成仏させようとしていたお坊さんも2人を温かい目で見守っていて、私たちは2人を見守る傍観者と化していた。
「うん、いいよ。」
日蓮の顔が綻ぶ。
2人はどちらともなく手をつなぎ、一歩、一歩と歩き出した。
3歩…1歩…5歩と不規則に、しかし確実に令音の体は透けていく。
そして、道路に出て数歩歩いたところで…
彼女は、完全に消滅した。




