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第五百八十話 暗い心を鎮めろ?本当に焦ってる!?

 令音が居たのは一部の異世界組が寝泊まりしていた空き部屋だった。

 一時期この家の人口密度が圧倒的に増えたため、物置状態だったこの部屋を片付けて何人かは寝転べるスペースを作っていた。

 異世界組が帰った今はというと、実質令音の部屋になっている。

 一応現代組だし、事情が事情だけに元の家に帰る訳にはいかなかったからでここに居候するしかなかったからだ。


「令音…」


 光が何かを言いかけて口を閉じる。

 家具一つ無いガラリとした部屋の隅っこで座っている令音。

 顔は膝で隠れて見えない。その上カーテンを閉めているため部屋全体が暗い。


「こんな日が来るなんて、全く思ってなかったの。

 あの日、死んだことを思い出してからは…」


 令音は顔を上げぬままそう言った。

 重い空気が充満する。既に暗い雰囲気がますます暗くなる。


「え、えーと…重く考えすぎなんじゃない?

 私だって、待ち合わせの約束に遅れちゃったことなんて何回もあったし、俊太が勝手に取り付けた下らない約束を何回も蹴ってるし…」


「それはいつでもできるような簡単な約束なの。

 でも、私の約束はもっと難しくて、もっと大切で…」


「そんな約束を破ってしまった自分が許せない、ってこと?」


「分からないの。」


「え?」


「約束を破ってしまった自分が許せないのか、それとも運命が許せないのか。

 自分でも分からない…怨む物が分からないの。」


 令音から禍々しいオーラが出てくる。

 見ただけでぞっとするようなこれは一体何?


「べ、別に怨む必要は無いんじゃない!?

 過ぎちゃったことを気にしすぎても前に進めないだけよ!?」


 光が必死にごまかそうとしている。慌てすぎて早口になってる。

 それを見た私は、早く令音を止めないといけないことに気付いた。何かは分からないけど、このままにしてはいけない。


「そう!

 そんなこと気にするより、日蓮になんて謝るか考えたら良いんじゃない!?

 お互いに謝って、仲直りしよう!」


「………」


 令音のオーラが消える。

 どうやら令音の心を鎮めることに成功したらしい。


「それは名案だと思うの。」


 伏せられていた令音の顔が上げられ、笑顔が浮かんでいたことに安堵する。

 何だか知らないけど危機は去った…


「じゃあ、私たちは日蓮を呼んでくるから。」


「よろしく!」


 令音の見送りを受けながら部屋を去る。


「ねえ、ああは言ったけどどうやって日蓮を呼ぶの?」


 私を追うように部屋を出た光が追い付いてきて訊いてくる。

 それに私はこう答えた。


「ちょうど今それを考えてたところ。」


「ノープラン!?」


 …今の声が令音に聞こえてないと良いけど。


「大丈夫。きっと日蓮はまたここに来るよ。」


「なんでそんなことが言えるの!?

 もしかしたら落ち込んだまま来ないかもしれないのに!」


「このまま引き下がるような人じゃないよ。あの人は。

 日蓮のしつこさなら私と守が知ってる。」


 嫌な知り方だったけどね。

 私たちは何もせずに待つだけで良い。日蓮が来た後も2人の行く末を見守るだけだ。


「なら、なんで絶対に来るって言わずに連れてくるなんて言っちゃったの?」


「向こうから勝手に来るって言うより、私たちが連れてくるって言った方が鎮まりやすいかなーって。」


 さっきは必死だったからとっさにそんな嘘をついてしまった。

 けど、黒いオーラも収まって、令音も前向きになってくれたから結果オーライってことで。


「……裏目に出ないと良いけど。」


 フラグ染みた光の言葉を聞き流して、いつの間にかついていた部屋に入った。

 果報は寝て待て、ゆっくり待つことにしよう。






「本当に来た…」


 チャイムの音が聞こえて、光はそう言った。

 少し得意げになりながら玄関に向かう。


「何かございましたか?」


 そこに居たのは日蓮ではなく、以前お父さんが紹介してくれたお坊さんだった。


「えっと…それは私のセリフだと思うんだけど…」


 いきなりそんなことを言われても答えようが無い。

 と言うか、お坊さんの方が何かあったから来たんじゃないのかな?


「おっと、そうでした。少々焦ってしまったようです。」


 全然焦っている様子が無い。本当に焦ってるの?

 と思ったけど、気配はそれと同じものではなかったことに気付いてその思考を取り消した。


「それは良いけど、何かあったの?」


「おや、貴女は…」


「守の友達の光。」


「光さんですか。話は消からかねがね聞いておりました。」


「前、令音と守を引きはがしたお坊さんよね?守から聞いてたわ。」


 お父さんから…まあ、幼馴染だし聞いててもおかしくは無いか。


「それで、何かあったの?」


「実はつい先程、この家から邪気が発生したことを感知しまして。

 その理由をもし知っているのなら、教えていただきたい。」


「邪気…?」


「はい。

 どうも悪霊が放つ物に似たていたのですが…」


 まさか……


「もしかしてさっき…あ!」


「何かお気付きで?」


 隣を見てみると、迂闊な発言を仕掛けた主の頬を一筋の汗が伝うのが見えた。

 邪気、悪霊と聞いて心当たりと言ったら一つしかない。

 しかしそれを言ったら令音はどうなるか。相手はお坊さんだと考えればそれは火を見るよりも明らかだ。


「じ、実は家に大事な忘れ物をしてたのを思い出して…」


 こんなのでごまかせればいいけど…


「ではどうぞ。」


「どうもご親切に…」


 靴を履いてさっさと玄関から出ていく光。

 チラリと一瞬だけ私を見て、また歩き出して行った。

 …ごまかすどころか状況悪化してない?人数減ったんだけど。

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