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第五百七十八話 嘘はいけない?真実とは逆!?

 

「そ、そこの貴女!」


 そろそろ洗いたいからと言って謝罪を強制終了させようかと思っていると、どこからか声をかけられた。

 さっきと同じ声だ。でも、どこかで聞いたような…


「あの、ルーマさんですよね!?」


「そ、そうです…」


 懐かしい名前が出たな、と思うと同時にこの人が誰なのかを思い出した。

 前にラブレターを出して学校の図書館で告白してきた人だ。かっこつけて恥ずかしがってたからちょっと印象に残っている。


「やっぱり!貴女にずっと会いたかったんです!

 転校先ではどうですか!?彼氏はもう居るんですか!?」


 …どうしよう。

 間違ってないからとっさに肯定しちゃったけど、人違いとか言うべきだったかな?


「……えっと、どうなんですか?」


「あ、ゴメン、ちょっと考え事を…何?」


「彼氏の方はもう居るんですか?」


 ……ハッ!

 ここで彼氏が居るって言えば諦めてくれるんじゃ?

 いや、世の中そう甘くない。

 守と人格が分かれる前、かつて読んでいた創作物では大抵面倒なことになってる。

 それに、証明するために必要であろう彼氏の代役も問題だ。俊太や太郎辺りに頼もうとしても守がそうはさせないだろうし、守は顔が似すぎていて兄妹だろうと言って信じてくれないかもしれない。

 よって。


「……居ないけど。」


 私は正直に居ないと言った。

 嘘はいけないよね。


「な、なら俺と…」


「瑠間、ペンキが乾きかけてる。早く帰りましょう。」


 今日のお礼、ってわけじゃないだろうけど、ギーナが助け舟を出してくれた。


「あ!そうだった!

 ゴメン!急いでるから!!」


 カサカサになりかけている髪のことを思い出し、何かを伝えようとしている彼を放って急いで帰った。







「瑠間~、お客さ~ん!」


「待って~!」


 お風呂で悪戦苦闘しながらペンキを落としていると、お母さんから声を掛けられた。

 素早く着替えて生乾きの長い髪をバスタオルで巻く。ペンキが付いた髪なんて見せられる物じゃない。


「あの、これ落としてました!」


 先程の彼だった。

 何を落としたかと思って見ると、ペンキの缶だった。


「………」


「え、えっと…素敵な帽子ですね。お返しします。」


「それ、帽子じゃなくてペンキの缶なんだけど…」


「え!?

 あ!本当だ!」


 頭にかぶってはいたけど、なんでペンキの缶と帽子を間違えられるんだろう。

 嬉しいのは分かるけど、せめて金属の感触とかペンキの匂いとかに気付こうよ。


「実は、さっき上からそれが落ちてきちゃって。」


「中身は無かったんですか?」


「あったよ。だから今それを落としてたんだけど…」


「あ…すみません!早く帰ります!

 また後程ー!」


 ドアを開く音と閉じる音の間隔は1秒の半分にも満たない程早かった。せわしない人だ。

 …あれ?また来るの?


『家が分かって内心ガッツポーズでもしてるんだろうな…

 俺と代わってくれ。二度と来ないようにトラウマを植え付けてやる。』


(一応親切心でついて来たんだから、そこまでする必要は無いんじゃない?)


『変に甘くすると気があるんじゃないかってつけあがりそうだろう。

 アイツからは勘違いヤローの匂いがする…家バレと言う危険な状況に置かれた今、手段は選べない。』


(手段を選べるくらいの余裕は持ってた方が良いよ。

 でなきゃ判断を誤ることだって…)


「瑠間、ペンキは落ちたかい?」


「え?まだだけど…」


「ならあたしが落としてあげるよ。ついてきな。」


「あ、お願い。」


 その後、母さんが魔法で髪と服に着いたペンキを完全に落としてくれた。

 以前異世界で粘液を被って、髪がベトベトになった時に習得したらしい。魔法便利すぎる。






 翌朝。

 勤労感謝の日の振り替え休日と言うことで今日は休みだ。

 特に予定も無い。平穏な一日になればいいな。


「ルーマさーん!」


 やっぱり。

 部屋の外から聞こえた声は昨日と同じ。私の平穏は家出して迷っているのだろうか。


『瑠間、今からでも良い。代わってくれないか?』


(良いけど、まずはその怒りを収めることから始めてもらおうか。)


 今の守なら怒りに任せて恐ろしいことをするに違いない。表に出ていたら青筋を立ててとびかかっていたところだろう。


「はーい、なんでしょうかー…」


「あれ?髪の色が…」


 あ。

 そうだ。ルーマは銀髪っていう設定だった。

 昨日はペンキでそう見えなくも無い状態になってたけど、今は真っ黒だ。


「……あ、ルーマ?

 名前似てるから間違えちゃって…」


 似てるどころか間伸びてるかどうかだけど。


「ああ、そうなんですか。

 それにしても…ルーマさんに似てますね。」


「そりゃ同一…従妹だからね。」


「なるほど…」


 危ない危ない。


「ところで、ルーマさんは…」


「昨日外国に帰ったよ。」


 目の前にいるなんて言えないし、染髪料が無いのでいなかったことにしておく。


「遅かった…」


 がっくりとうなだれた。

 ちょっと悪いけど、後は帰ってもらおう。この人のことを良く知っている訳じゃなきゃ、仲も良いわけでもない。


「ルーマのことは残念だけど、もう帰って」

「ちょっと待ってください。」


 …ん?


「貴女、本当にルーマさんじゃないんですよね?」


「うん。

 私は瑠間。」


「……それにしては顔も雰囲気もそっくりすぎるのでは?」


「何が言いたいの?」


「ルーマさん。

 わざわざ髪を黒く染めたって、バレバレですよ。

 瑠間は架空の人物。本当は貴女がルーマさんなのでは?」


 …真実とは逆だね。

私の夏休みは…明後日までだ…!

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