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第五百七十六話 疑惑の祈り?言葉は途切れた!?

 人質騒動が明けた翌日。

 俺たち3人はタムの家で一泊し、暴徒ファンを引き付けた褒章を受け取ろうとしていた。


「えー、ではこれから褒章贈呈を執り行いまーす。」


 タムの声はやや気だるげだ。スポーツマンというタイプでも無いので昨日の疲れが残っているのだろう。


「まずギーナから。おめでとう。」


「ありがとう……何コレ?」


「異世界ドタバタ騒動記でギーナが最も活躍した一巻。」


「要らない!」

「ストップストップ!魔法込みは死ねる!」


 魔法で威力を上げてまでたたき返したかったのだろうか。

 確かにギーナはあの本を一度読んでいた。多分あまりの恥ずかしさにもう読まないと誓ったのだろう。俺もそう誓った。


「両親には見せなくても」

「見せないわ!」


 ギーナの腕から射出された本は割と必死に避けたタムの横を通り過ぎて壁にヒビを入れた。

 あと少し早ければギーナの手から本が消滅し、突然壁にヒビが入ったようにしか見えなかっただろう。一般人からすれば。


「じゃあ、ギーナには褒章なしと言うことで…」


「……もうそれでいいわ。ほとんど何もしてなかったし。」


 褒章を完全に諦めたらしいギーナは大きなため息をつく。

 ここで何かを言っても良い物が出てくることは無いと踏んだのだろうか。


「次、守。

 …能力に目覚めた機会をあげたからそれでチャラってことで。」


「はぁ!?」


 完全に面倒臭がっていることが分かってしまった。

 昨日人質に捕られても頑張って騒動を収めたって言うのに…!


「まあまあ、わざわざ性別変えなくてもあのチート能力使えるんだから。」


「それとこれとは…」


「じゃあ、何かした?ファンを引き付けるための努力を。」


「………」


 何も言い返せなかった。

 顔が変わっていたために高壁守として認識されず、デマを流しただけで他には何もしていないのだ。

 褒章は諦めることにした。

 あと、性別を変えられる障壁は帰ったら即刻消すことも決めた。もう2度と創る気も無い。


「最後、俊太。」


「おう!」


 一番の功労者、俊太。

 俺が受け取る訳ではないが、褒章に期待がかかる。


「俊太には………」


「……」


「……この中のどれがいい?」


「あ、じゃあこれだな。」


 タムのちょうど後ろにあった棚から一枚の紙を取り出し、俊太に見せた。

 なんか締まらないな。


「俊太が主人公の小説に決まりましたー!」


「やったぜー!」


 俊太が主人公……俊太の意味不明な思考の一端がのぞけるのだろうか。

 正常な思考が出来なくなったり、正気を無くしたりとかしそうだ。もし薦められても読まないぞ、俺は。

 タムがそんな状態にならないことを祈っておこう。俊太が増殖したら大変だからな…


「何してるの?」


「祈り。」


「はあ?」


 ギーナからの疑惑の視線が突き刺さった。







「じゃあ、小説が出来たら俊太に届けるから。」


 世界を移動できる障壁を持ったタムが言う。

 俺の手にも同じ物が握られている。俺が持っているのは新たに(?)目覚めた能力と障壁を創り出す能力を組み合わせて創ったものだ。

 今まさに、俺たちは現代に帰ろうとしていた。何故かギーナも。


「ああ!頼んだぜ!」


 俊太が主人公の小説は今から作るらしく、タムが書き上げたら俊太に直接渡すことになった。

 なのでタムにもあの障壁を持たせなければならない。だからもう1個創り、障壁の合計は2個となった。


「後で私にもお願い。」


 訂正、3個になります。


「あ、そうそう守。」


「なんだ?」


 何か言い忘れていたらしい。昨日のお礼でも言いたいのだろうか。


「永遠かもしれない別れがあっても、諦めないで。」


「え?」


「ギーナにはこう言っておこうかな。

 待ってたらいつか来る。きっとね。」


「何が?」


「いずれ分かるよ。いずれね。」


 タムからの不穏なセリフを聞いて少し怖くなった俺は、逃げるようにこの世界を去った。


「この言葉は、昨日の褒章。

 きっと役に立」


 言葉は、そこで途切れた。

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