第五百六十八話 獲物になった?後悔させられない!?
「う…あ…」
「おお守よ、死んでしまうとは情けない。」
「死んでないわ。」
目覚めてすぐにこの漫才だ。
心配の声すら無いことに寂しさを覚えながら起き上がる。ここは…タムの家だろうか。
…ん?
「なんでタムがそのネタを…」
「ちょっと現だ…ゲンダっていう友達がね。口癖みたいに言うもんだから…」
随分と日本人っぽい名前だ。
ひょっとして俺の家の近所に……いや、ちょっとまった。タムの目が少し泳いでいたような…
「それより、頬は大丈夫?腫れてるけど。」
タムに言われ、頬のヒリヒリとした痛みに気付く。あのギーナの張り手で少し気絶していたのだろう。
普通あんなに吹っ飛ぶなら歯が折れたりするのだろうが、頬の痛み以外何も無い。謎だ。
「もう少し手加減してくれ、本当に。」
「悪いとは思ってるけど、なんか素直に謝る気分になれないわ…」
ギーナの言わんとすることは分からなくもないが、いくらなんでも八つ当たりで脳震盪か何かを起こさせないでほしい。
「多分だけど、ここにいる限り似たようなことが何回も」
「「身が持たない…」」
俺は肉体的に、ギーナは精神的に。
「……ん?俊太は?」
いつもならここで茶化してくるはずの俊太が居ない。
居たらもっと早く会話に混ざっていただろう。そういう奴だから。
「俊太なら村中を歩き回ってるはずだよ、もっと人気者気分を味わってたいんだろうね。」
「本当に頑張ってるわね~」
囮という名目を忘れていそうではあるけどな。
「2人も頑張ってね。報酬は弾むよ。」
「報酬?」
「こんな大仕事、無償でさせる訳無いじゃないか。
もっとも、現時点では俊太が一番活躍してるから…」
「守、今から私達は敵よ。」
「ほう、物語では最強の主人公補正に勝てると?」
「見せてあげるわ、主人公補正を超えるヒロイン補正の圧倒的なパワーを!」
タムは俺たちのことをよくわかっている。何故なら例の小説の作者だから。
なので恐らく報酬は俺たちが欲しいものがくみ取られ、選ばれているに違いない。
それを理解した俺とギーナは、暴徒を取り合う獣と化した。
「……うまくいきすぎて恐いな。」
二匹の獣が走り去っていくのを見届ける。
きっと2人は俊太が引き付けたファンを大きく上回るファンを引き付けてくれるのだろう。
そして、アイツもきっと…
「まさか、ね。」
僕の想定が正しければ、あの3人だけでは無理だ。
その時は僕も…
「腹、くくるしかないか。」
来るべき時への覚悟を決めるべく、部屋に戻った。
深く深呼吸をし、ホコリ一つ見当たらない部屋と机の上にある原稿を意味もなく見る。
「嘘をついたことは後で謝るけどね。全てが終わってから。」
意味もなく出された声は、誰の耳にも届くことなく消えていった。
主人公補正と啖呵を切ったものの、今やそれは無い物となっている。
それに気付いたのは暴徒の群れに向かっている最中だった。
奴らを引き付けるためにはこの見た目をなんとかしなければならない。そこで俺が考えた策は…
(おーい女神様ー!どうせ聞こえてんだろー!!)
心の声はすべて筒抜け。とうに分かっていることだ。
(ちょっとこの前みたく性別変えてくれー!頼むー!)
この姿ならともかく、女の姿なら認知はされているはずだ。例の小説でも性別が変わった主人公は登場した。
また、その時しっかり皆をだましてもいる。羞恥故に。
『返事が無いね。』
(ああ…これじゃただの痛い奴だ…)
『心より下なら問題無い。
表には態度すら出てないから大丈夫だと思うけど?』
そうだった。
だが、女神様からの返答が無いのは気になる。女神様になにかあったのだろうか?
それとも…
『意図的にスルーしてる?』
かもな。
後で覚えてろ、絶対に後悔…後悔させるようなことが出来ない。
『しかも下手すれば手痛いカウンターを貰うしね。トラウマ級の。』
女神様の手も借りられず、主人公補正も無い。もう早く帰りたい。
「覚悟してろよタム…!」
ふと現実逃避をしようとしたところで、暗い感情を持った気配に気付いた。




