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第五百六十三話 軟着陸(物理)?殺意高いスタッフ!?

レポートやらなんやらで…堪忍して!

決して漫画が面白かったからサボってたわけじゃないんです!全てはレポートが悪いんです!

…申し訳ありません。お見苦しいところを。

 小さくなっていく吸血鬼が移動を始める。

 どうやら追撃に来るつもりらしい。自分で吹っ飛ばしておいてそれを追いかける様はなんか間抜けに思えた。


「仕方ないな。」


 障壁でクッションを創り、勢いを殺して軟着陸(物理)する。

 壁の無い空間だったので、どこまで吹っ飛べるかというのを確かめたかったのだがそうも言っていられないらしい。


「その余裕に満ちた態度…

 実に腹立たしい!」


 今なら何をしても吸血鬼アイツを怒らせる自信がある。

 助走(走ってないけど)の距離が長くなったからか、それとも更に怒りが高まったせいかは分からないが、吸血鬼の移動速度は先程の突進よりも速い。

 速度が上がっているが障壁で防ぐのは困難だ。さっきの回避には余裕が見て取れたので、恐らくまた回避されて終わりだ。

 ならば…俺も回避するしかない。

 さっきは防ぐことに集中しすぎて避けられなかったが、避けることに専念すれば…!


「もう一度食らうがいい!」


 引き付けろ…中途半端な位置で避けようとしても進路を補正されて攻撃を受けるだけだ。


「貴様もこれで終わりだ。」


 吸血鬼はその鋭い爪を伸ばすように前に突き出す。


「ここだ!」


 俺は素早く乗っている障壁から飛び降りた。


「何!?飛び降りただと!?」


 真っ白なので地面の位置は分からないが、相当の高さであることは確かだ。

 そんな場所から飛び降りたのは意外だったのだろう。


「よっと。」


 もっとも、足場を自由に創れる俺にはどんな高さでも関係ないが。


「おのれ…!」


 吸血鬼が鋭角ターンとかしてきたら終わりだったこの作戦、割と賭けだった。

 なんとか勝ててホッとしたが、俺にのしかかる大きな問題は消えていない。

 決定打が無いのだ。

 もしこの場にデュアやルソードが居れば、近づいて切るという決定的なダメージが入る手段がある。

 しかし、2人(2本?)は今いない。俺の能力は便利ではあるが防御寄りの能力だ。しかもそれを活用した攻撃はそこまで効いていない。

 ならどうやって…


「小賢しい…

 ならばこの一撃で全てを終わらせてくれる!!」


 深い思考の世界に膝まで浸かったところで、吸血鬼の声が耳に入る。

 その掲げられた手にあるのは黒い炎。

 この世の怨念、嫉妬…暗い感情をかき集め、凝縮したようなひとつの球はその禍々しさを増している。

 膨れ上がることは無いようだが、それがかえって恐ろしい。


「消え去れええええええええええええええええええ!!!」


 手から離れた暗い球は、凄まじい速度を持って俺に向かってくる。

 体感時間を延ばし、身体能力を最大まで高め、ありとあらゆる手段を使ってどうにかその球を避けることに成功する。

 見えない地面にその球が接したとき、白い空間が黒い爆発に染め上げられた。







「フン…ようやく終わったか。」


 吸血鬼は白い地面に降り立ち、背中に付いている蝙蝠のような羽を休ませる。

 見下ろすは黒髪の少年。地面に這いつくばり、身動きの一つもする気配が無い。


「散々手こずらせてくれたようだが、敗者は敗者。

 地面に這いつくばる姿がお似合いだ…ん?」


 吸血鬼は少年から少し離れた場所に何かが落ちていることに気付いた。

 それを手に取り、観察を始めた。


「ふむ…何かが書かれているようだな。

 ご協力感謝する…何?」


 何かの罠か?

 そんな思考がよぎり、少年の姿を一瞥するがやはり様子は変わらない。


「貴様は死んでいても脅かしてくれるな。

 不愉快だ。死体くらいは残してやろうと思ったがそれすら要らぬようだな……!」


 全身が痺れる感覚に襲われる。

 少年が何かをした形跡は無い。なのに何故?

 その思考が完了する前に意識が無くなり、薄れゆく意識の中雷雲が彼の目に映った。

 次の瞬間、雷鳴が白い空間を包み込んだ。






「でかい音だったな、耳が…」


 とっさに障壁と障壁結晶でシェルターを創っていなければ、さっきの爆発で肉体ごとこの世から無くなっていた。

 そんなもしもが想像に難くない。本当に危なかった。


「世界の意思、吸血鬼が強すぎる。」


『そういうことはゲームを作ったスタッフに言うと良い。僕は強さの設定までいじっていない。』


 殺意が高いスタッフだな。


「タカミ達もよくこんなゲームができるな。」


「アンタはともかく、プレイヤーでしかない私達は死んでもコンテニューするだけだから…

 それより、大丈夫だった?ちゃんと生きてる?」


「死んでたらこんな会話できてねーよ。」


 生きているか、というのはなんとなく変な質問に思える。

 死んだ人間にその問いをしても死にましたなんて言えないからな。死人に口なし。


「良かった…」


『しかし、なかなかに見事な倒し方だったな。

 まさかあのアイテムを読ませるとは…』


「別に?

 決定打が無かったから有効利用しただけだ。」


 吸血鬼に読ませたアレは、例の彼女の置手紙だ。

 読むのを中断すれば電気ショックで気絶させ、最後には雷を落とすとかいう鬼畜なアイテムだが、こうして利用すると便利といえる。


「で、タカミ。気は変わったか?

 今ならアレもちょっとほしいと思うだろ?」


「要らないわよ!

 大体条件厳しすぎるんじゃない!?文字が読めるほどの知性がある敵に、どうにかして読ませるなんてほぼ無理よ!!」


「実際できてただろ。今。」


「そうだけど!」


『もっとも、今更欲しがってもあの紙は…』


 吸血鬼が居た場所を見る。

 そこに吸血鬼が居ない…のはこのゲームの仕様なので気にしないが、問題は手紙だ。

 雷が落ちて黒焦げになっている。もともとあれが手紙だというのは見せられただけではわからないだろう。

 しばらく焦げた紙を観察していると、徐々に薄れて消えていった。


「……そうだった!

 世界の意思、ドロップアイテムは!?」


『守を送り届けた後に送る。

 まずは君達に別れを告げる時間を与えよう。』


 別れを告げる時間、か…意地悪なのか親切なのか。

 元の時代に帰ったらもうタカミとは会えない。

 そう思うと寂しいが、出会えば別れる。誰もが知っている必然だ。

 何、死んだわけじゃないんだ。そう落ち込まなくてもいいじゃないか。

 タカミはこれからも…元気に暮らすさ。

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