表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
586/630

第五百六十二話 次元が違う不要さ?砂が無いのに!?

「もうクリアか、楽なクエストだったな。」


「そりゃ一回も戦闘が無かったらね…」


 昨日はクエストをクリアするのに散々苦労したが、今日は歩くだけだったので楽だった。

 ようやく帰れるという事実は、大きな安心感と寂しさを俺に与えた。


『守、分かっていると思うが、タカミとはもうお別れだ。』


「ああ…」


 タカミとの別れ。

 少し酷い目に遭わされてきたこともあったが、居なくなるとなれば寂しさを覚える。

 最近デレが入り始めたというのもあったかもしれないけどな。


『台無しだ。』


「ああ、悪かっ…心を読むな。」


「?」


 当然心を読めないタカミはこの話についてこれない。

 話を戻す。


「タカミ、またいつか」

『お別れはもう少し先だ。』


「?」


 もう少し先?

 クエストはクリアしたと言ったのは世界の意思だ。なのにまだ何か残っているというのだろうか。


『守。

 君は帰還に貢献した人間にふさわしい褒章を渡さずに帰るつもりか?』


「…え?」


『どの道、このゲームのシステム上クエストの報酬は必ず与えなければならないからな。

 何かタカミに渡してやるといい。』


 褒章も何も、今の俺は何も持っていない。

 なのでタカミに渡すものも…あ、一つだけあった。


「そうだな。

 タカミ、悪かったな。手伝ってくれたのに何も渡さないで帰ろうとして。」


「別に期待はしてなかったけど…貰えるものは貰っておくわ。そういう主義だから。」


「そうか。

 なら受け取ってくれ。」


「なにこれ?紙?」


 ポケットから取り出したのは一枚の紙。

 タカミはそれを広げ、一瞥すると懐疑を抱いたかのような目を向けてきた。


「アンタ、これまさか…」


「そうだ。

 読み切らなかったら電気ショックの後に雷が直撃する書置きだ。」

「要らないわ!」


 紙を投げ返され、それを受け取る。


「おいおい、これは世界に一枚しかない貴重な紙なんだぞ?」


「そりゃそうでしょうね!どこの誰だろうがこんなもの作らないから!!

 でも需要が無いのよ需要が!!」


「クエストクリアして何貰えるのかと思ったら報酬が別に要らないものだったってことはよくあるだろ。落ち着け。」


「次元が違う不要さよ!」


 次元が違うは言い過ぎだ。何かの役に立つかもしれないじゃないか。


『…さすがに報酬で誰の目から見ても需要が無い物を渡すのは看過できないな。』


「そうよ!もっと言ってやって!!」


『ではタカミ、今君が欲しいドロップ品はなにかね?』


 タカミの便乗に答えた世界の意思の言葉から、嫌な予感がした。


「え?ドロップ品?なんで魔物限定?

 そうね…吸血鬼の牙とか?今作りたいアイテムの材料にあるんだけど、吸血鬼討伐のクエストが期間限定だったからもう無くて…」


『では、今から守一人に私が用意する吸血鬼を狩らせる。

 無事守が吸血鬼を倒すことができればクエスト報酬としてタカミに吸血鬼の牙が大量に渡る。さあ、始めよう。」


「は?え?ちょっと待て。まだ俺の準備は終了しちゃいないぜ?」


 俺の心の準備が始まってすらいない状態で戦闘開始の宣言をされ、真っ白な空間にタカミの姿が無くなった。


「フン…極上のディナーに仕上がってくれよ?人間。」


 代わりに少し遠くから現れたのは全身黒ずくめのマントを羽織った男だった。

 あれが吸血鬼なのだろう。


「…急展開には慣れたつもりだったんだけどな。」


 ようやく心の準備が完了する。

 どうあがいても吸血鬼との戦闘は避けられないのだ。なら考えることは一つ。

 奴を倒す、それだけだ。


「余程苦労があった人生と見える…同情する。

 すぐに息の根を止めて辛い人生を終わらせてやろう。ありがたく思え。」


「誰が。」


 地を蹴る。

 既に問答は無用。互いの力をぶつけ合う時は、もう始まっているのだ。

 吸血鬼の弱点に暴力など存在しないが、ダメージは与えられるはずだ。


「速さを乗せても無駄、効きはしな…!」


 吸血鬼の眼前まで迫った俺は、勢いを殺さずにそのまま通り過ぎた。

 そこで急制動をかけ、足払いする。


「くっ…!」


 ダメージは入っていない。

 しかし、体のバランスを崩すには充分だった。

 ここだ。


「ガハッ!」


 障壁で上に突き上げる。

 背中を強打した吸血鬼は空気を吐き出し、空中で無防備な状態を晒した。

 すかさず追撃をかけるため、障壁を伸ばして吸血鬼をはたき落す。


「フン…」


「何!?」


 伸ばされた障壁をひらりと避ける吸血鬼。

 何事も無かったかのように空中に留まる吸血鬼を見て、俺はあることを失念していたことを思い出した。


「こいつも飛べるのか…!」


 作品によっては飛べないということもあったので、あまり意識していなかった。


「さて、今度は俺の番だな。」


 飛んでいる吸血鬼が空から魔法を放つ。

 ほぼ隙間は無い。避けるのは困難だ。

 大きな爆発音が響く。謎の砂煙が充満する。


「もう終わりか?」


「何がだ?」


「なっ…!」


 砂煙から俺が出てきたのが予想外だったらしい。吸血鬼は驚愕を顔に浮かべていた。


「俺にとっては避けるより防ぐ方が簡単だ。」


「減らず口を…黙っていろ!」


 水平に振られた腕を足場にしていた障壁を蹴って跳躍し、回避する。

 ついでに吸血鬼の頭を蹴りつけ、また足場を形成する。


「……」


「俺の誇り高き頭を踏みにじっただと…!許さん…許さんぞ貴様!」


 吸血鬼の怒りのボルテージが上がっていく。

 猛スピードで迫ってくる吸血鬼の威圧感が最初よりも格段に上がっているのがわかる。


「そうはいくか。」


 突進する吸血鬼の前に障壁を創る。


「無駄だ!」


「なっ…」


 突進で障壁を破壊された。

 しかし、まだ策はある。


「これならどうだ!」


 突進する吸血鬼の少し前に障壁結晶を創り出す。


「甘い。」


 いとも容易く避けられた。

 障壁結晶は普通の障壁よりも硬いが、その代わりに創り出すスピードが遅い。

 一瞬かそうでないかの違いでしかないが、時にそれは命取りになる。


「がふっ…」


 白い空間の中で吸血鬼が遠ざかっていくのが分かる。

 他に流れる景色は無い。妙な感覚だ。

 俺はいつまで、飛んでいるのだろう。漠然とそんなことを思った。

吸血鬼…プライド…そう言えば最近見た映画で…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ