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第五百五十八話 なんとなく凄い?もう課金でもしてろ!?

 タカミ達は大きな町の大きな建物に入り、壁に掛けられていた大きなボードから一枚紙を取りカウンターに持っていった。

 推測だが、建物と言うのはよくファンタジー物にあるギルドのようなもので、大きなボードはクエストボード、紙は依頼書のようなものなのだろう。

 町に入ってからと言うもの、町を行く者のほとんどが俺に視線を向ける。メンタルが特別弱いわけではないのに萎縮してしまいそうだった。

 今、俺たちは先程受けたクエストをこなすために町に出た。ようやく降り注ぐ視線から解放され、人心地ついた。


「アンタも大変ね。」


「何が珍しくてそんなに見られるんだ…

 顔とかもいじれるんだろ?別に美男美女だから注目されるとかそんなことは無いはずだ。」


「しれっと自分の顔は良いって言ってないか?」


「だって俺は元からこんな顔だったわけじゃ………あー、違う違う。間違えた。

 そうじゃなくて、ちょっとナンパが多かったから理由を友達に聞いてみたら顔だって言われたんだ。」


 顔変えられたとか言ったら面倒な事になりそうなので取り消す事にした。

 よく分からん設定持ってるNPCだと思われるならともかく、NPCじゃなくて生身の人間だとばれたら…

 運営に通報され、存在を抹消されるとかそんなこともありそうだ。


「ああ、カーソルも翼も無いからじゃない?

 天使の世界っていう設定だし、NPCも翼持ってるから。」


「通りで…」


 奇異の視線を向けられるわ、死ぬ危険が高いわ。

 良い事をいくら探しても悪い事しか出てこない。早く元の世界に帰りたい。


「大丈夫、アンタならここの魔物でも倒せるって。」


「徒手空拳でか?」


「……はい。」


 タカミが無言で武器を取り出し、手渡してきた。

 魔法少女のステッキみたいな奴を。

 べしりとその手から叩き落す。


「受けとらねーよ。」


「ひどい、似合うと思って渡したのに。」


「引っかかると思うか?」


「あー!ソレって幻のマジックロッドじゃない!?」


「タカミ!いつの間にそんなの手に入れてたんだ!?」


 そんなに大騒ぎするほどのものなのか?これ。

 確かにコスプレ用のネタ装備としては使えそうだが…


「見た目はともかく、性能は太鼓判を押せるわ。

 なにせ、攻撃力が装備者のステータスの合計によって決まる最強格の装備。

 鎧とかの防御力も含まれるから、装備次第ではぶっ壊れ性能を発揮するわ。」


「俺普段着なんだけど。」


「装備者のステータスの二倍になる、超レアな防具をフルセットで渡すわ。

 攻撃力の合計は…素のステータスの十倍くらいになるわね。もの凄いチートよ。」


 なんとなくその凄さが伝わった。

 そういった説明をされた後では説明の前と違って見える。人間の不思議な性だ。

 ただ、同時に疑問に思うこともある。


「…なあ。

 ならなんでお前が着ないんだ?」


「え…」


 ふと浮かんだ疑問を口にすると、タカミは突然フリーズした。そんな高性能の装備、手に入れたら見た目はどうあれ装備しているだろう。

 かなり痛いところを突かれたらしい。マルタとソウカも顔が引きつっている。


「デメリットはなんだ?」


「て、手に入れにくさ…」

「本当にそれだけか?」


「………見た目が痛い、外せなくなる、体力の最大値が十分の一になる、即死技が絶対効く」

「装備できるか。」


 デメリットだらけじゃねーか。

 目を思いっきり逸らしながら答えるタカミをバッサリ切り捨ててやった。

 やはり力には代償が付き物なのだ。その法則は現実だろうがゲームだろうが変わらない。


「もう装備はいい。行くぞ。」


「はーい…」


 しょぼくれたタカミを尻目に先へ進む。

 先に待ち受ける強敵を警戒しながら。







「くっ!」


「マルタ!」


 マルタが大きな盾で魔物の魔法攻撃を防ぎ、よろめく。

 ソウカが魔物の攻撃後の隙を狙い、魔法による火の玉を飛ばす。


「ブルッ!」


 攻撃は命中し、翼が生えた黒い馬…通称ダークペガサスが怯んだ。


「任せなさい!」


 更にその隙を狙い、タカミがアッパーの要領でハリセンを上に跳ね上げ、馬の顎を引っ叩く。

 パアン!と大きな音が鳴った。


「おまけだ!」


 ついでに俺がしっかり踏み込んで放った拳を横腹に叩きつける。

 少し横に吹き飛び、黒い馬は完全に動きを止めて消失した。

 後には何も残らない。


「結構役に立つな、クエストクリアまでってのがもったいない。」


「徒手空拳でこれなら、武器を持たせたら…私達のレベルを超えちゃうかもね。」


 褒めすぎだ。

 これまで何度か行った戦闘で分かったが、やはり武器の有無と言うのは相当響くようでどうしても俺の攻撃は武器を持っている3人の攻撃に劣ってしまう。

 体力とかゲーム要素が関わったせいというのもあるかもしれないが、1人で戦っていたらいくら時間を掛けるか分かったもんじゃない。


「いい加減観念してあの装備つけたら?

 罠とかで分断されて、私達が居なくなったらどうするの?」


「じゃあ普通の装備紹介しろよ。外せない装備とは違って返せるしな。」


 一度外せない装備とやらを装備してしまえば、いつまで外れないのか分かったもんじゃない。

 最悪現代に戻ってからも外せないかもしれない。この世界に居る時限定でも十二分に嫌だというのに、そんな悪夢に耐えられるとは思えない。


「分けられるような装備なんて店に売ったに決まってるじゃない。

 持ってる予備も、何が起こるか分からないからとっておきたいし…」


 分けられない装備を押し付けようとしたのかこいつは。

 幻の装備と言っていたので、売るのも忍びないというのなら分からないでもないが…


「なにかとお金を使うゲームだからな。そればかりはコイツに同意する。」


「私も。」


 他2人にも同意された。余程金が必要なゲームらしい。

 もう課金でもすればいいんじゃないかな。

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