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第五百五十七話 呼び捨てはデフォ?メタいNPC!?

 

「そう言えば、さっきマルタの声にも誰かの声が重なってたような…

 それももしかして…」


 雲行きが怪しい。

 こんな状況を作り出しておいてどうかと自分でも思うが、ここで俺が弁明しようとすればますます怪しまれるだけだ。

 分かりやすく言うと、喋って動けるおもちゃがそのことを隠しているのにうっかり喋って…みたいな。


「え、えっと…そう!

 さっき特殊なNPCって言ったけど、なんか会話できるらしいわ!」


 動揺が冷や汗を介して伝わってくる。

 苦しい言い訳にすらなっていないが、これが通るかどうか…


「会話できるNPCなんてこのゲームに居た?」


「俺も聞いた事は無いな…」


「現に存在してるんだからしょうがないんじゃない?」


「…それもそうか。

 他のゲームの中では、AIをプログラムに組み込んである程度会話ができるNPCも居るらしいしな。」


「へー、そんなNPCもあるんだ。」


 NPC扱いされる事に思うところはあるものの、生身の人間だと言っても信用されないだろう。

 仮に信用されたとしても、異世界がどうとか、そう言った込み入った事情も話さなければならない。

 それも億劫で信用されそうにない話なのでNPCの立場に甘んじる事にした。


「自己紹介が遅れたな。俺は守だ。」


「偶然か?やっぱりおま」


 マルタにタカミのアッパーが炸裂する。そんなに必死になって何を隠してるんだ。


「俺っ子ね…

 私はソウカ。」


 知ってる。さっき消去法で導き出した。


「お…俺はマルタだ…」


 知ってる。さっき呼ばれてた。


「私はタカミ。」


 知ってる。

 特にお前は何ヶ月も前から。


「そういうことで、よろしく。

 で、タカミ。あんたが受けてる守のクエストを手伝えばいいの?」


 いきなり呼び捨てかと思ったが、NPC扱いされている事から当然かとすぐに納得した。

 俺の知り合いはというと、津瑠を除き、現代では主に俊太の影響で。異世界では元々らしく、皆呼び捨てをデフォにしている。

 俺としてもさん付けには慣れそうに無いので、ありがたいことなのかもしれない。


「いえ、実を言うと守のクエストは進め方が分からないからできないわ。

 でも、クエストが終わるまで付いて来るみたいだから別のクエストに行かない?味方として戦ってくれるみたいだし。

 最近は私も含めた皆でも苦戦してるからね~」


 勝手に決められていたが、今回ばかりは安請け負いするつもりは無い。

 このゲームの世界の魔物はよく分からないが、もし死んだらどうなるか分からないので止めて欲しい。というのもあるが…

 なにせタカミみたいな現代ではチートな奴が腐るほど居る(であろう)世界だ。その敵も必然的にレベルが高くなり、現に今タカミは苦戦を強いられていると言った。

 リアルでは猛威を振るったタカミ程のステータスでも、死ぬ時は死ぬだろう。タカミは生き返るからそれでも問題ない。あるけど。

 ただ、俺は生身の人間で命は1つしかない。つまり…


 実は今、俺は超危険な場所に居るのだ。


 どうにかしてこの決定を覆さなければ、俺の命が危ない。

 考えろ…この状況で使えそうなものを…ステータス、メニュー無し、ゲーム…

 …ゲーム?そうか。


「戦いか。

 戦えないわけじゃないが、護衛を頼む俺じゃ同行しても足を引っ張るだけだな。

 俺はその間待たせてもらう。」


 勝手に護衛系のクエストだと言い張って同行を拒否した。

 護衛系のクエストは護衛する人物が死んだら失敗となる。そんな感じのクエストもこのゲームにはあるだろうと考え、思いついた作戦だ。

 心の中で得意げになっていると、タカミが視界から消えた。

 背後から攻撃の意思をもつ気配を察知した俺は振り返り、迫っていた拳をなんとか避ける。


「…これだけ強いのに?」


「シ、システムだから仕方ない……」


「もう一発くらいたい?」


「分かった分かった分かった。」


 両手を上げて降伏する。


「メタいNPCだな…」


 もう何も言うまい。

 俺は早くもNPC扱いに慣れてきたらしい。

 心の中でツッコミを入れても、誰かがその意思を反映してくれるわけじゃない。

 脳内の否定が全く無駄な事だと割り切れてしまった俺は、黙って歩き始めた3人に付いて行った。

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