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第五百五十六話 そうか丸太?同情で泣ける!?

 眩い閃光に閉じていた目をあけると、そこはどこかの草原だった。

 目の前には俺に袖を摑まれているタカミが居る。


「……付いて来ちゃったみたいね。」


「ああ、そうだな。」


 袖から手を放し、地面に腰を下ろす。

 見上げると真っ黒のはずの空が青く…


「って、もっと驚きなさい!

 アンタ、今ゲームの世界に居るのよ!?」


「そうは言っても、異世界と何が違うんだ?

 結局はこの世界も異世界…何も特別な事は無いだろ。」


「世間一般からすれば充分特別なんだけど?」


 平行世界やギーナ達の世界、時には過去に行ったこともある俺にとってはもう慣れっこなのだ。

 多分ちょっと前の俺でも俺ならはいはい異世界異世界とか言って軽く流せる。寝て起きたら景色が…でパニックになっていたあの頃が懐かしい。


「来れたなら帰る手段はあるだろ。」


「一方通行って知ってる?」


「……世界の意思がなんとかしてくれるだろう。多分。」


「急に他人任せになったわね…

 あ、そうだ。そこから飛び降りれば帰れるかもしれないけど?私もそこから来たから。」


 タカミの指の先を見る。

 そこは草原が途切れており、その先は空だった。

 覗いてみると切り立った崖と、分厚い雲が見えた。


「遠慮しとく、死ぬ。」


「そりゃそうよね。」


 タカミはここを飛び降りて異世界に不時着したと出会った時に聞いたが、よくそんな度胸があったものだ。

 もっとも、タカミの場合はゲームオーバーで済み、俺の場合は人生のゲームオーバーで命が終わるからかも知れないが。

 俺、ここから落ちたタカミに頭ぶつけてたような…た、多分アレだろう。タカミがどこかで落ちるスピードを落としてくれたのだろう。飛べるし。

 何気なくポケットに手を突っ込もうとする。

 が、何かに引っかかって手が入らなかった。


「感触からして紙かなにかか…ゲッ…!」


「何?」


「え、ああ、いや、なんでもない…

 それより、どれくらい時間が経ったのかとか調べなくていいのか?何ヶ月も経ってるかもしれないだろ?」


「あ、そうだった。帰ってきたなら時間調べないと…」


 危なかった。

 俺たちに引っ付いてきたこの手の中の危険物をポケットにしまう。読まなければ問題は無いはずだ。


「良かった、飛び降りた直後あたりか~…」


 タカミはそれほど時間が経過していない事を、俺は二重の意味で安心する。

 そして可能な限り時間経過の話題に集中する。ポケットの中の危険物の存在を忘れるために。



「お~い!」


「タカミ~!!」


 どこかから声がした。

 呼びかけるような大声、少し遠い場所にいるのは分かるが辺りを見渡してもタカミと俺以外は誰も居ない。


「あれ!?ソウカ!マルタ!」


 そうか!丸太!

 …どういうことだ?

 タカミが上を見て手を振っている。つまり上に誰かが居る。

 2つの人影が見える。あの2人はソウカとマルタというのだろうか。

 やがて2人は地に降り、その容姿がはっきりした。

 1人は筋肉ダルマ、もう1人は…まあ、女子だな。

 ここはゲームの世界、加えてタカミに親しげに話しかけていることを鑑みるに、あの2人はゲームのプレイヤーでタカミのゲーム仲間と言ったところだろう。


「ログインしてるなら言ってくれればいいのに~。」


「ゴメンゴメン、ちょっと色々あって…」


 ログイン…ネットゲームか何かか?

 そして何故俺を見る。


「ん?何故タカミの」

「あー!この人ね!この人はちょっと特殊なNPCだから!あんまり気にしないでマルタ!!」


 有無を言わせぬ圧力で筋肉ダルマのマルタに迫るタカミ。

 マルタの方が背は高いはずだが、それでも気圧されている。

 大男が女子に気圧される…傍から見れば異質な光景だ。

 それにしても、勝手に人をコンピューターか何かで動くノンプレイヤーキャラクターにしないで欲しい。俺は俺だけの意志で動く生身の人間なんだぞ。


「へー、随分可愛いNPCね。

 同伴みたいだけど、どこのクエスト?」


「かわっ…」


 バシリと音を立てて口にタカミの平手が叩き込まれる。

 マルタじゃない方…ソウカの言葉を否定したかったがどころではなくなり、口を押さえながら痛みに耐える。


「え、えーと…実際のところ良く分からなくて…

 ほら、このゲームではよくあるでしょ?知らぬ間に条件を満たして、勝手によく分からないクエストが受注されてる奴!」


「ああ…それじゃあ仕方ないかー。」


 別に止める理由無いだろ。何故叩いた。


「もっと条件をはっきりさせて欲しいよな。このゲーム。」


「アンタはもっと性別をはっきりとさせなさいよ…」


「「うるせえよ!!」」


 俺が言われたと思っていたらマルタも答えていた。

 これでもかという程筋肉が自己主張しているというのに、どこに女らしさがあるのだろうか。


「ああ、アンタは知らなかったわね。コイツリアルでは可愛い男の子やってるから。」


「オカマみたいな言い方すんな!ちょっと顔が子供っぽいだけだ!!」


「完全に美人のソレだけど?

 ついでに筋肉がつかない、太らない。顔も含めて全部母親譲りじゃない。」


 マルタじゃない方…ソウカか。

 ソウカがマルタに止めを刺す。


「ちょっと母親譲りの顔の男だっていいじゃないか…!

 姿アバターが自由なこの世界、せっかくだから格好だけでも男の中の男になりたかったってのに…」


「なあ、さすがに身内同士とはいえかわいそうになってきたぞ。

 あと、妙にこの筋肉ダルマに親近感沸いて悲しくなってくるから止めてくれ。今の俺なら同情で泣ける。」


 久々の再会でテンションが上がるのは分かるが、ネットゲームにしては身内ネタを晒しすぎている。

 リアルで友人やらなんやらの関係があるのは分かるが、他のプレイヤーが小耳に挟んだらどうする気なのだろうか。


「NPCが状況に合わせて喋った…?」


「どういうこと!?この会話さえも運営の想定内って事!?」


 何故先程タカミに叩かれたか、今更ながらその理由が分かった。

 ゲームのNPCって、いつも決まったことしか言わないよな。

書くのに時間が掛かった…ロングだからか?

そうだ、ロングだからだ!(自問自答)

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