第五百五十五話 戦慄を覚えない?今すぐ!?
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ひとしきり驚いた後、ひとまず腰を下ろしてリビングでタカミに事情を聞いた。
なんでも、昨日夢の中で世界の意思からタカミを送る準備ができたという話をされたらしい。
空間だけならともかく時間もとなると、さすがの世界の意思も苦戦するらしい。
それに加えて例の彼女の暗躍により対処に追われ、その準備をする時間すら奪われたのだとか。
今まで忙しいと言っていたのは例の彼女絡みだったらしい。その話をタカミの口から聞くとは全く思ってもいなかった。
最近例の彼女はピエロ魔物を追っかけまわしていたため、そのおかげでタカミを帰す準備をする時間が取れたとのことだ。
「お前に聞くのもなんだとは思うけど、あえて言わせて貰う。
本当にタカミを帰還させる準備をしてて良かったのか?もっと他にしなきゃいけないことは無かったのか?」
「私は元々この時代に居ちゃいけない人間だから。
早く帰さないと、って前々から思ってたらしいわ。実行の機会が無かっただけで。」
その機会を今まで潰してくれた例の彼女を恨めばいいのか、礼を言えばいいのか。
皆が居て、もちろんその中にタカミも居て、時折空気になる奴もいたけどだからこそあれだけ楽しかったのだろう。
その中から別れなければならない奴が出るのは寂しい。
特に、タカミは未来の人間だ。今の俺が会いに行く事は出来なくなってしまう。
「まあ、あんた達との生活は楽しかったわ。
行き来できるならまた来たいくらい。」
普段ならありえない台詞で、戦慄を覚えるのだろうが…それは無い。
精神操作で幼くされていたタカミを見ていたからだろうか。それとも、永久かもしれない別れが辛いからなのだろうか…
「…そうか。
もし…できればでいい。
お前の能力で時間を超えられるんだろ?時々顔を見せてくれないか?」
僅かな期待を込めて提案する。
「それは…無理。」
返答は期待を打ち砕くものだった。
「だって、歴史を変えちゃうかもしれないから…そのせいで私が消えたら、アンタ達は悲しむんじゃないの?
ちょっとしたことで、意識もしてないのに余計な行動をして未来が思わぬ方向に変わる。そんな物語もあるわ。」
バタフライエフェクト。
小さな蝶の羽ばたきが台風を起こすとか、確かそんな話が由来だったような気がする。
意味としては小さなきっかけで大きな出来事を起こる、という事だ。
今でこそ影響は無いが、ただでさえ未来から来たタカミに接しすぎてしまった。
なのにまたタカミが来て…となれば今度こそ決定的な何かが変わってしまう危険性もある。
故の返答だったのだろう。
「私なら大丈夫よ。
自発的にこっちに来る事は絶対無いから。」
タカミは俺に自信がこもった瞳を向ける。
それもそれで少し寂しいが、仕方ないことだと割り切るしかない。
妙に自信があるのは気になるが、タカミが来て歴史が変わる心配をする事が無いことは安心するべきだろう。
「ああ、分かった。
ところで、その自信は何処から出てくるんだ?」
「だって未来には……危ないわね!?本当に歴史変える気!?」
「え、いや、なんか…悪いな。」
何故怒られたんだ。ちょっと気になった事訊いただけなのに。
「早く帰らないと本当に歴史が変わっちゃいそうだから、今すぐ帰るわ!」
「は!?今すぐ!?」
立ち上がったタカミを止めるべくテーブルに手を着いて立ち上がり、服の袖を掴む。
「せめてもう少し待ってくれ!皆を呼ぶから別れくらい」
「いいから早く帰らせて!聞こえてるんでしょ!!」
後半の世界の意思に向けた言葉が届いたのか。
次の瞬間には視界が白く染まっていた。




