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第五百四十八話 混乱一直線?甘さは欠片も!?

 とにかく、女神様の解析も終わっていない事も分かった。

 キッチンを見ると、料理の手伝いをしているのであろうタカミが目に入った。チラッと見えた大きく切られた人参やジャガイモを見るに、今日はカレーかシチューなのだろう。

 料理の段階からして、夕食まで少しは時間がある。自室に戻ってのんびりするとしよう。

 今日たまった疲れを少しでも癒して、また明日親友達の暴挙を止めなければならないのだ。

 少し昼寝でもするか…


「だ~れだ。」


 背筋が凍った。

 部屋に入ろうとした瞬間、いきなり視界が真っ暗になり女性の声が聞こえた。

 親友達は家に居て。タカミと母さんは料理を作っていて。

 一番こんなことをしそうな津瑠も、家には帰っていた。そもそも津瑠の声ではない。

 ギーナやフラルも向こうの騒動を収めるのに必死のはず。わざわざ救援を要請したぐらいだ。それから抜け出せるとは思えない。

 じゃあ誰だ?

 俺の家に入れて、なおかつ俺の気配察知にも引っかからない奴は…?


「ちょっとはびっくりした?」


 びっくりどころか心臓が止まりかけた。


「いつまで無言のつもり?」


「……お前、誰だ?」


「やっと何か言ったと思ったらそれ?

 記憶喪失にでもなったの?」


 記憶喪失も何も、そんな記憶は元から無い。


「仕方ないわね。

 私は…あの女神から追われてるあらゆる世界からちょっとずつエネルギーを貰ってる、張本人。って言えば分かる?」


 また心臓が止まりかけた。

 今、そんな全ての元凶である人物に目隠しをされている。

 恐怖を、隠しきれなかった。


「別に今すぐアンタを始末するとか、そんなんで来たんじゃないからそう怯えなくてもいいわ。」


 そうでなくとも怯えるわ!

 と言いたいところだが、言葉がのどから先に出てこない。


「ちょっと身内が勝手に突っ走っちゃってね、あんた達に迷惑かけたみたい。」


 身内?

 恐怖に支配されかけている心を振り払い、冷静さを取り戻した頭で考える。これほどの情報を聞き逃すわけにはいかない。


「別に、散々迷惑ってレベルじゃないくらい迷惑かけてるから、今更こんなことの1つや2つでわざわざ謝りに来たりはしないんだけど…

 身勝手な部下が私を無視して勝手に動くって言うのはちょっと気に入らなくてね。」


「何が…言いたい。」


 乾いた口でなんとか言葉をつむいだ。

 少しの間が空く。

 そして、彼女は続けた。


「アンタの望みどおり、単刀直入に言うと。

 私もその事件の解決、協力させなさいってこと。」


 ありえない人物から、ありえない言葉が出てきて。

 俺の頭は混乱一直線だった。







「はぁ~?

 元凶っぽい奴から協力するって言われたぁ~?」


 疑心以外の何もこもっていない顔と声で問い詰められる。

 元凶が居なくなってからも呆然と立ち尽くしていた俺は、夕食へ呼びに来た母さんの精神分析チョップを受けて正気に戻った。

 その後、夕食を摂りながら事情説明。現状に至る。


「疲れてるんじゃない?」


 心は小学生のはずのタカミにまで嫌味ったらしく言われる始末だ。


「だね、休んだ方がいい。飯食ったらちゃっちゃと風呂入って寝な。」


「いや、本当だ。」


 俺の心に刻み込まれたあの恐怖が幻覚や妄想の類だとは思えない。

 そもそも、元凶にトラウマを植えつけられたわけでもないし、あれほどの恐怖を感じた覚えも無い。

 フラッシュバックと言おうにも、元の記憶が無ければそうとは言えない。


『私が証人になっても良いですよ。

 確かに、守さんは彼女にだ~れだ、をされてました。』


「あ、アレ見られてたのか!?」


「アンタ、突然の登場に慣れすぎじゃないかい?」


 女神様の唐突な登場にはとっくに適応している。

 これで毎回驚いていては寿命がいくらあっても足りない。


「だ~れだ、って、何のことだい?」


『バの付くカップルに良く見られる行為です。

 主に待ち合わせして合流した時に行われます。』


「そんな真面目に用語の解説をしなくても…

 守からは目隠しされたって聞いたけど、それがその、だ~れだだったのかい?」


 否定はしない。

 ただ、あれほど恐ろしいだ~れだがあると言う点を除けば。甘さなど欠片も無い。


「お父さん浮気~?」


「誰がお父さんだ。

 俺には奥さんどころか彼女も居ないんだぞ。津瑠の告白は断ったきりだし。

 だからその目を止めろ。浮気ばかりの情けない父親を見るような目は。」


『タカミさん、そんな目で見ないであげてください。

 守さんにとってはいきなり悪の親玉が目隠しをしてきた時の様なものだったのですから。』


「は~い…」


「様なもの、じゃ無くてそのものだ。そこは訂正させてもらう。」


「まあ、大変だったんだね。今日はもうゆっくり休みな。

 大丈夫、その親玉ってのも女神様とやらが居るから何回も来れるわけじゃないだろうし、もし出てもお前の母さんが守るからさ。」


 無くなりかけていた夕食の最後の一口を飲み込み、ご馳走様とだけ言って食卓を後にする。

 そこから寝る間まで、母さんの言葉通り悪の親玉は来なかった。


「せめて悪の親玉って呼ぶの止めてくれない?

 例の彼女、とかでもいいから。」


 寝る直前、幻聴が聞こえた。

 女神様の警備ザル…いや、アレは幻聴だった、そうだった。

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