第五百四十二話 なんだこの超展開?上手く言えない!?
祭りの後、王様…いや、アング・アンカーは姿を消した。
表情を一様に驚愕に染めた人々の様は、まるで時が止まってしまったかのようだった。
人々は王が去ってしまった事を悔やんだ。当の本人は惜しまれたことすら知らないだろう。
なお、反逆者2人についてだが…マフォーは姿を消してしまった。どこに行ったかは見当もつかない。
リベルはアングの言葉で自らの行いを悔い、王城に自ら出頭するらしい。
「…超展開。」
「訳分かんねえよ…」
リセスに報告するため、王城へと戻ってきた俺たちだが…纏っている空気は重い。
3人からすれば、いや、一部を除いたあの場の人間からすればまるで意味が分からないだろう。
祭りを楽しんでいたら。
いきなり王様が出てきてあなた達を騙しましたと言って。
王様辞めます。
なんだこれは。
「守。
知ってることを洗いざらい全部、リセスにも話なさい。」
「当たり前だ、なんのために戻ってきたと思ってる。」
この3人に事情説明は済ませている。後はリセスだけだ。
無論、この件について隠し事をするつもりは無い。隠すべきことなど何も無いからだ。
「皆さん。」
リセスを捜して廊下を歩いていた俺たちの後ろで扉が開き、そこから捜し人の声が聞こえた。
「リセス。
ちょうど良かった、実は」
「知ってます。お父様が…王ではなくなったことは。」
そう言って差し出してきたのは数枚の紙だった。
手に取った瞬間はなんと書いてあるかはさっぱり分からなかったが、ギーナが紙に触れると内容が読めるようになった。どうやら翻訳魔法を使ったらしい。
『リセスよ。
まずはお主に嘘の用事を言いつけ、無駄足させたことを詫びたい。すまなかった。
今日は例の祭りの日であったが、リセスの友人に代わりに出てもらうことにした。無論、リセスとしてな。
言い訳をさせてもらえば、わしはお主を失うのが恐ろしかったのだ。
旅ではお主の頼もしい友人達のおかげで安心して帰りを待つことができたが、もし彼らがいなければ…
わしは、わしが生きている内にお主を狙う者を1人でも多く無くしたい。
その為に、リベルを説得するつもりである。
娘の友人を餌にするのは心苦しいが、あの名剣に選ばれたのなら大丈夫だろう。
さて、ここからが本題だ。
わしは民を偽った。これは許されるべき罪ではない。
故に、わしは王を辞める。
そしてリセス、お主を新たな王とする。
ここで投げ出すような、実力不足で勤まらぬような生半可な教育を施したつもりは無い。お主ならできる。
困った時は今の王をずっと近くから見ていた、お主の母を頼るといい。
わしは、罪滅ぼしではないが旅に出る。
そして、必ずこの城に戻ってきて、今回の件に対して直接謝る。その頃にはお主が立派な女王になっていることを信じておるぞ。
何度でも言おう。お主ならできる。
アング・アンカー』
紙には幾つもの皺が刻まれていて、文字がぼやけているところもあったが、内容はこのようになっていた。
まだ濡れている部分もある。
「……新しい王として、頑張ってね。
私から言えるのはこれだけ。元気でね。」
「え?もう行くのかよ!待てよ~!
あ、頑張れよ!」
「…頑張って。応援してる。」
3人は言葉数少なく出口へ向かう。
「……守さん、なんですか?」
「いや、ちょっとな…
こんな時に気の効いた言葉の一つも思いつかないってのがもどかしいって言うかな…」
今更多くの言葉も必要無いことは分かっているが、上手く言えない。
「皆さんが言っていた言葉でも良いんですよ?」
「…まあ、アレだ。
頑張れ!」
3人に追いつくために走る。
早くしないと確実に置いて行かれるからだ。追いつく前に転移されたらあっという間に置いてけぼりだ。
…あ、だから3人ともここに残ってたのか。俺やリセスと別れた後すぐに帰らずに。
走っていけば出口はすぐだった。すぐそこで3人が手を振っている。
「ええ、頑張ります。」
城を出る直前、そんな声が耳を通り抜けていったような気がした。
『…実は私が言ってたりして。』
(台無しにするんじゃないよお前は。)




