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第五百三十八話 鬼だ?落ち着いてないアピール!?

徐々に遅くなる更新。

「まさかそれは能力かっ…」


「まあな。さっきも見ただろ?」


「なるほど、さっきのは魔法じゃなかったから魔力切れになる心配も無いということか…」


 リベルから聞いていなかったのだろうか。

 いや、そんな時間は無かったか。本来祭りに居るはずのリセスを狙ったのであって、リセスに成りすました俺を狙ったわけではないのだから事前に説明する事は出来ない。


「能力持ちとは厄介だ。

 でもな、俺にも力があるんだってことを忘れてねえか?」


 痛みから立ち直ったらしいマフォーが先程と同じように拳を振り上げる。

 ただの拳で障壁を打ち破るとか、そういうことを言いたいのだろうか。


「学習しないな。

 ただのパンチじゃこの壁は破れないって分かってるだろ?」


 拳の軌道上に障壁を作り出す。

 拳は障壁に阻まれ、その先の俺には…


「どうかな!?」


「何!?」


 届いた。そして当たった。

 障壁は破られていない。

 そのはずなのに、マフォーの拳は速度を落とさずに障壁を通過した。まるですり抜けたかのように…

 その原因はマフォーの拳を見て分かった。


「拳に穴…?」


 拳に一瞬小さな穴が見えた。

 その穴は徐々に狭まっていき、最後には消えていた。


「忘れたか?俺は数多姿族。

 どんな姿にも姿を変えることができる。こんな単純な芸当なら、一瞬でも充分可能だ。」


 拳は実際に障壁をすり抜けていた。拳に穴を空けるという形で。

 …障壁を巨大にすればすり抜けられないだろうか。


「オラァ!」


「ほい。」


「ぐああ!」


 防御成功。

 拳に穴を空けてもさすがに2メートルの壁まではすり抜けられなかった。


「くそっ…まだだ!まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!」


 ドンドンと言う音が壁から聞こえる。拳を必死に叩きつけまくっているらしい。

 だが壊れる気配は無い。このままこの壁に隠れていれば勝手に自滅するんじゃないだろうか。


「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだぁ!」


 徐々に壁にひびが入ってきている。

 このままでは割られるだろう。涙ぐましい努力だ


「オラァ!!」


 ひときわ大きな声がしたと思ったら壁が粉々に砕けた。

 既にマフォーは肩で息しており、心なしか筋肉が膨張しているようにも見えた。


「おーお疲れさん。

 ほい、もう一枚。」


「ぬがああああああああああああ!!」


 だが無意味だ。

 たまらずマフォーは叫んだ。

 鬼だ。

 自分でも思った。


 バキィン!


「はあ!?」


 次に叫ぶのは俺の番だった。

 さっきまで何発も攻撃して壊していたと言うのに、今は一撃で壊された。

 壁の向こうから現れたマフォーの筋肉は明らかに肥大化しており、今の一撃がまぐれでもなんでもないことが分かった。


「ウ゛オ゛オォォォォォォォォォ!!!」


 マフォーは空気が震えるような雄たけびを上げ、その拳を振り下ろす。

 それを後ろに跳んで避け、障壁を階段のように上へ上へと創ってそれを昇っていった。


『普通に声出しても空気震わせてるって言う事実にはノーコメント?』


(んなこと言ってる場合か!

 なんだアイツ、暴走でも始めたのかよ!?)


 ふと、嫌な予感がしてちらりと後ろを見る。


「オオオオオオォォォォォォ!!!」


 憑いて狂うマッチョが一人居た。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


「オオオオオオォォォォォォ!!!」


 その恐ろしさに鳥肌が立ちながら大声で叫ぶ。

 なにが恐ろしいって、全てが恐ろしい。特に顔が。

 変幻自在なあのマッチョの顔は、いつの間にか埴輪のような何かと化していた。何も見えない闇の中のような真っ黒な目と口が恐さを助長している。

 今晩辺り夢に出てきそうだ。またトラウマが増えてしまう。


「来るな来るな来るな来るな来るなあああああああああああ!!」


「オォォ!!」


 障壁をいくつも出して進路を阻害しようとするが、それを壊すために速度を緩めないので気休めにもならない。

 あんな化け物、どう対処しろと……


『まだ試してない事があるんじゃない?』


「お前ほんっとうに冷静だな!!

 俺がもしやられたら自動的にお前も道ずれになるんだぞ!?」


『知ってるし、実は私そこまで落ち着いてない。

 でも、まだあれは試してないじゃん。』


「あれってなんだあれって!

 もったいぶってないで教えろ!マジで!!」


『気が動転して思い出せないんだよ!』


「そこで落ち着いてないアピールすんなあああああああああああ!!」


 ズシン、と言う音がすぐ後ろで聞こえた。

 その音に振り向き、既に拳が頭上にあることを認識した。

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