第五百三十七話 小未名?どっかの王!?
落とし穴から難なく脱出し、罠に向かって突き進む。
奴の背中と元迷子のマッチョマンを見つけるまでに時間はかからなかった。
何故なら、建物の壁を蹴って蹴って蹴って上に進み、屋根に上って見下ろしながら捜したからだ。
「見つけたぞ!リベルと……
…罠なんか捨ててかかって来い!」
『そう言えば名前聞いてないよね。』
数多姿族の方の名前を聞いていないことを思い出したが、些細な問題だ。
「もう見つかっただと!?
落とし穴はどうした!」
「上から降りてきたことと名乗ってなかった事には触れないのか…」
数多姿族(筋肉)にツッコむリベルはぐったりとしている。
その傍らに先程の食べ物があることから、恐らくここまで運んできて疲れたのだろう。
注目を集めるためだろうが、そこまで大量に盗む必要はあったのだろうか。
「落とし穴?
結構浅かっ……どうせならもっと深く作れよ!」
「何故お前に言われなければならない!?」
セルフドップラーがフラッシュバックし、敵の罠に対してアドバイスを送ると言う奇行に走ってしまった。
「そ、それより、お前は自分の立場を自覚しているのか?」
「立場?」
動揺している人間に言われても説得力が無い。
別なところに原因があるのはともかく。
「そうだ!こちらにはコイツがいる!
こいつがお前の正気を蝕む事は先程思い知ったはずだぞ!」
あ。
「ハッ!
お、俺がかか考え無しに突っ込んできたと思うのか?
え、え~と…き、筋肉ゴリラマン!」
動揺しすぎた。発想が小学生以下、いやむしろ未満のあだ名しか思いつかなかった。
「なかなかに良い呼び名だが、俺にはマフォーという名前があるのでな!残念ながら却下させてもらう!」
が、本人は満更でもないらしい。ついでに名前が発覚した。
皮肉でなく純粋にそう思っていると微かな気配で知ってしまいげんなりする。
センスねえ…あ、俺もか。とっさとはいえ。
「人を何だと思っている…!
禍々しい別の何かと勘違いしてないのか…」
マフォーの扱いもあってか、徐々に邪悪な気配が大きくなっていく。発生源は言うまでもない。
今しかない。
俺は静かに目を閉じていき、集中する。
まだだ…もっとできるはずだ…!
「どうした?やはり辛いか?」
現在は目をきつく閉じているので、その様子を辛いと捉えたのだろう。煽る声が聞こえる。
それとは裏腹に俺の正気は無事だ。少しずつ削られてはいるが、ごっそり削れるような事は無い。
どうやら気配察知の調整は成功らしい。特訓の甲斐があった。
「辛い?何がだ?」
余裕たっぷりの笑みを作り、出方を窺う。
実際は集中力をかなり使うので、余裕と言える余裕は少ない。
逆に言えば、少なからずある。
「なに…?
さっきまでのお前はどうした?何故そんな態度でいられる?」
先程とのギャップのせいか、動揺しているらしい。
さっきは戦闘中だったので対抗策を使えなかったが、今は雑談中だった。茶番中とも言う。
「人間って言うのはな、一瞬一秒常に変化し続けてるんだ。
一瞬前の俺と今の俺は別人…今こうして話している間にも変化するものさ。」
「ぬぬぬ…良い事っぽい事を言ってごまかしやがって…」
かっこつける余裕すらある。
慢心している、という自覚すら出てきている。これではどこかの王だ。
「ものすごくムカつくなこいつ…!」
最初の丁寧な言葉遣いはどこへやら、少し前からだが粗暴になってきた。
それと同時に邪悪な気配も強くなってきているわけだが…俺の正気に大ダメージを与える事はない。
とはいえ正気を削られているのは事実。早くノックアウトさせなければその内まずい事になる。
「そろそろ始めるぞ、負ける準備はできてるか?」
「必要無い!」
その言葉が発せられるのと、マフォーが拳を振り上げて突進を始めたのは同時だった。
フォーム自体は子供の姿の時と変わらなかったが、速さも力も段違いだ。
さすがにその拳をまともに受けるのはまずいと判断し、拳の軌道を読んでかわす。
気配察知のサポートが無いというのは少し心もとないが、元より頼り切って戦っていたわけではない。
続いて振り切った拳がターンし、裏拳に変化する。
少々予想外だったものの、しゃがむことでかわす。ついでにひじに拳を一発。
「しまった…」
次の瞬間に後ろに飛びのき、それに気付くのが遅れてしまった事にポツリと漏らす。
裏拳の後に左足が迫ってきた事に気付いた俺はひじへの攻撃を中止し、蹴りの軌道上に障壁を創って飛びのいたのだ。
遅れて障壁を創って防御したのだからそのまま攻撃を続けて居ればよかったのだ。
「いってええええええええ!?」
…マフォーが予想以上のダメージを受けている。障壁を思いっきり蹴ったからだろう。
案外飛びのいておいて良かったのかもしれなかった。
作者のどーでもいい実話
安売り
作者は帰宅中、スーパーに寄って買い物をしていた。
目的のものを手に取り、ついでにと寄ったお菓子コーナーで2つのクラッカーが目に留まり、どちらを買うか悩んでいた。
(ふむ…一つ150円のビスケットっぽいクラッカーか、300円くらいの純粋なクラッカーか…)
食べたい、というだけなら後者のクラッカーを選んでいたが、もう片方の“安売り”の三文字がそれを邪魔していた。
どちらにするか悩んでいると、ふとこんな言葉が湧き上がってきた。
『お前は安売りに惑わされるような安い男だったのか?』
その言葉にハッとした作者は高い方のクラッカーに手を伸ばしかけ、結局どちらも買わずにせんべいを買って行った。
1、2分の葛藤はどこへ行ったのやら。
(…あ、これとこれ安売りだった。ラッキー。)
そして、目的のものが安売りで少し機嫌が良くなりましたとさ。
…どーでもいいですね。
たまには初心に帰ってみようかと思ったらこれだよ!




