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第五百三十五話 詰み?スケールが巨大!?

「う…うぅ…」


「立つ事すらできない、か?」


 目をきつく瞑っているはずなのに、暗闇から何かが這い上がってくるかのような光景が見えるような感覚がある。

 頭に浮かぶのは這い上がってくるそれが生み出す破壊…

 正気が蝕まれていく中、わずかな理性を使いこの状況から抜け出す方法を考える。

 気配察知を制御出来る程の余裕は無い。

 とはいえ、動けない訳でもない。

 ならすることは一つ、リベルから一刻も早く離れるだけだ。


「お?もしかしてその状態で戦う気か?」


 ゆっくりと立ち上がると、そんな声が飛んできた。

 どうやら戦う気でいると誤解してくれたらしい。おかげで少しは逃げやすくなっただろう。

 走る準備が整ったら一気に後ろへ走る。

 走っている間に暴走してしまうかもしれないが、そこは賭けだ。

 完全に立ち上がり、脚に力を溜める。


「来いよ、叩きのめしてやる!」


 力の充填が終わる。

 その瞬間一気に振り返り、思いきり走った。

 沸き上がる狂気を抑え、出せる限りのスピードを出す。


「逃げるのか?卑怯者!」


 他のことは何も考えられない。たった今掛けられた言葉すら理解できていない。

 どこまで逃げればいいか、いつまで走り続けるのかも分からない。

 ゴールのないマラソンをしている、そんな不安が狂気を後押ししていた。


『カンガエルナ、アバレロ。

 キノオモムクママニナ。』


 そんな幻聴も聞こえてくる。

 決して耳を傾けないようにし、ひたむきに走る。

 抑えろ、ここで暴れるわけにはいかない。ここで暴れたら祭りが…

 それだけじゃない。

 リセスに扮している今、住民が暴れたと認識するのは俺ではなくリセスだろう。

 そうなってしまった後に暴れたのはリセスではないと言っても聞き入れる人がどれほどいるか、どちらにしろ王家の威信に関わる。

 それを認識した瞬間、俺の心は大きなプレッシャーに押しつぶされそうになった。

 一国家の命運を握っている、この依頼を受けた時点でそれを認識すべきだった。


「覚悟しな、お前はもう逃げられない!」


 ふと振り向くと、間近に手が迫っていた。誰の手かは明確だ。

 もう、終わりなのか。

 捕まえられてしまえば戦闘は避けられない。戦闘が始まってしまえば破壊衝動を抑えることは不可能。

 詰みの二文字が頭をかすめる。

 …いや、まだ希望はある!

 こんな時、以前ならどうしていた?

 もっと弱かった、あの時の俺はどうやって追っ手から逃げていた?

 思い出せ、なんとしてでも。

 この町だけじゃない、この国の危機を回避するために……!


「捕まえ…!?」


 思い出した俺はとっさに障壁を創り出していた。

 突然現れた巨大な壁は、破られる事も無く突進してきた者を阻むことができたようだ。






 しばらく走ると、まだ騒がしい町の中に居た。どうやら裏通りを抜け出せたらしい。

 日の光が安らぎを与えてくれる。

 さしものリベルとその愉快な仲間でも、さすがに人目の多いところで騒ぐ事は無いだろう。


『よくあの状況を打開できましたね。』


 女神様は突然やってくる。脈絡も何もあったもんじゃない。


(ん?女神様か。

 結構久々な気がするな。)


『最近は忙しいですからね…ちょっとした事情で。』


『ちょっとした事情?』


 返したのは俺ではなく瑠間だ。

 瑠間が言わなくても俺が勝手に首を突っ込んでいただろう。意見が合っていて良かったと思わなくも無い。


『ええ…最近あらゆる世界からエネルギーが急速に減っていまして…』


 やばい、薮蛇だった。

 スケールが巨大すぎる。世界がどうとか突然言われてもよく分からない。

 ただ、一つだけ分かる事があるとすれば…


『…なんか分からないけど、もしかしてやばい事?』


『もしかしなくても、でしょう。

 そのエネルギーが無くなったら世界は消滅しますよ?』


 世界が消える。全くもってちょっとしたどころの話ではなかった。

 そんな一大事ってレベルじゃない一大事を、こんな一介の小市民に過ぎない俺たちに世間話するみたいな体で話してもいいのだろうか。

 徐々に理解し、焦りつつある心を鎮められればいいな程度の期待でため息を一つついた。

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