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第五百二十一話 間に何が?まだ食ってない!?

「守!」


「うわっと!?

 なんだいきなり!?」


「いきなり?さっきからず~っと呼びかけてたでしょうが!」


 突然耳元で叫ぶな…と言いたかったが、どうやら向こうにとっては突然じゃないらしい。

 女神様との会話に集中していて、全く聞こえていなかった。

 そう言えばさっきから数回声に出ていたような…


「き、きもちわりぃ…」


「あんたが水飲めなんて言うから、俊太がこんなことになっちゃってるじゃない!

 ちょいちょいおかしなこと言ってたし!なんだったの!?」


 ぐったりと床に横たわっている俊太を見て考える。

 水飲め?そんなこと俊太に言って……ああ、そう言えばさっき声に出てたな。

 …って、まさか水飲めって言ってからずっと飲んでたんじゃないだろうな。バカ正直に。


「俊太、よ~く覚えておけ。

 水中毒って言ってな。水を短時間で大量に飲むと、最悪死にかねないとか」

「もう言ったわよ!でもその時にはこの有様よ!」


 あ~…手遅れだったと。

 この状況において、俺が出来る事はただ一つだな。


「……俊太。」


「……」


 呼びかけると、ちらりとこちらに視線を向ける。


「…ゴメンな。」


「何かするのかと思ったら謝るだけ!?

 早く俊太をなんとかしなさい!!」


 その後、罪悪感はあるため森まで運んで背中を叩く事でスッキリさせた。叩く→スッキリの間に何があったかは言わない。

 その後は恨めしげに視線を送ってきたが、無視させてもらうことにした。悪いとは思っている。


『じゃあなんかお詫びでもあげたら?』


 なるほど、じゃあ机の上にあるこの料理を差し出すとしよう。アルコールの匂いがするけど。








「…ところで守よ。

 先ほど聞いた話によると、海に落ちたらしいのう。」


 俊太に料理を進呈したところで、料理を取り皿に運んでいると長に話しかけられた。

 まだ一口も食ってないのに…


「え?ああ、そうだが…」


「普通死ぬぞい?どうやったら助かったんじゃ?」


「ああ、シャチの獣人って言ってる奴に助けられて」

「なに!?シャチの獣人にじゃと!?」


 長が驚いたことに驚いた。


「…なんだ?アイツに恨みでもあるのか?そんな顔して…」


「…いや、わしは特に恨んではおらん。

 ただ、お前さんの口からあ奴のことが出てくるとは…」


 わし“は”か…


「シャチの獣人と言えば、この島には一人しかおらん。

 しかしそれは秘匿されており、そ奴を知っているものもこの島のごく一部しかおらん。」


「秘匿する意味はなんだ?」


「聞かれんでも言うから黙っておれ。

 あ奴は昔、この島を支配しようとする連中と手を組んでおると噂されておって」

「違う!あの人は絶対そんなことしない!!」


 長の話を遮ったのは津瑠だった。


「…津瑠、と言ったか。

 そんなことわしだって知っとるわい。」


「ならなんで…!」


「わし一人がそう思っても、他の者はどう思うかと言うのは話が違う。

 無理も無い、あ奴は侵略者と度々話をしていたそうじゃからの、それが島全体に広がり…というわけじゃ。

 わしは何か理由があってのことじゃろうと思って訳を聞こうとしても、突き放して終わり。今訊いても恐らく答えてはくれまい。

 あ奴が悪しき心を持っていないのは分かる、きっとわしを自分から遠ざけて、わしにまで疑いの目を向けられないようにでもしたかったんじゃろうな。」


「この島を支配する連中って言ってたな。

 そいつらが求めたものは何だ?」


 こう言っては何だが、この島に何かがあるわけでも無さそうだ。

 この島を仮に侵略したとしても、一体なんの利点があるのだろうか。


「…わしらじゃよ。」


「何?」


「わしら島の住民…獣人を狙っておった。

 この国では獣人はこの島にしかおらん…精々、他の場所を捜してもここから出て行った者か他の国の者が数人おるだけじゃ。

 希少と呼べなくも無い獣人が溢れるほどおるのじゃ、見世物にして荒稼ぎと言うのも不可能ではない。」


「……なるほどな。」


 動物園と同じような感じだろうか。

 ただ、違う点はかごの中の動物が獣“人”であること。

 檻の中の獣人は好奇の視線にさらされ、一生囚われたままの人生を送る…

 …想像しただけで身震いがする。


「日は流れ、ついに侵略者が来た。

 あ奴はわしやあ奴の友の説得も虚しく牢に入れられた。

 幸い侵略者どもはいくつかの犠牲を払って退けたものの、その事件の後あ奴は村から離れた場所に居を構えた。

 そしてそのことが触れ回って恨みを持つ輩に闇討ちでもされないように、あ奴は島を出て行ったことにし、今もなおこの島にいることを秘匿した…

 と、わしが知っておるのはここまでじゃ。」


「……そうか。」


「暗い話をして悪かったのう。

 早いところ食べるといい。」


「そうだな。じゃあ遠慮なく」

「お~い守~!飲んでるかぁ~!?」


「俊太!?お前酒くさ…」


「あの料理と飲み物、お前も食ってみろよ!うめえぞ~?」


「ふざけんな!あれどっちもアルコール入りだろ!?」


 どうやら、俺が進呈したアルコールの匂いがプンプンする料理を口にしてしまったらしい。

 匂いで気付けバカヤロウ。


「は~?アルコ~ル~?

 んなもん食っても飲んでもね~ぞ?お前酔ってね~か?

 ったく、未成年がアルコールは駄目なんだぞ~!?」


「その言葉そっくりそのままお前に返す!

 二日酔いに苦しめって言葉もつけてな!」


「ほ~?俺が二日酔いになるとでも?

 よく言…う…気持ち悪くなってきた…」


 言わんこっちゃない…

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