第五百十八話 罪悪感無し…ではない?違うと思ったら!?
(悪い、ちょっと考え事をしててな…)
日常の象徴的存在が非日常の象徴とも呼べるものに目覚めてしまったのだ、多少ショックを受けるくらいは許して欲しい。
『ちょっとだけでも八つ当たりさせていただければ許しますよ?』
(マジで止めてくれシャレにならないから。)
精神崩壊に追い込まれたり、顔を変えられたりとろくな目にあっていない身としてはとめねばならない。
『はぁ…もうさっさと休む事にします。
まだ話さなければならない話があるんですが、それはまた今度にします…』
『待って!それだけ聞かせて!ちょっとでいいから!!』
『じゃあ一つだけ。
創造神の欠片とは…』
(女神様がくれたんじゃないのか?)
『…違いますよー……』
『待って!まだ何も…』
女神様のテレパシーはそこで途絶えた。
『ちょっと!何してんの!?』
(…しまった。)
結局聞きそびれてしまった。
俺も別に気にならなかったわけではないのだが、だからこそつい口を挟んでしまった。
その結果が先送りだとは思わずに。
(ま、まあ今度聞けるから良いだろ。)
『気になったから今聞きたかったのに!』
(…これはあれだ、推測する楽しみが増えたと考えるんだ。)
『バカ!』
ぐさりと心の奥まで刺さった。
普段温厚な奴からストレートにこういう類の言葉を言われると堪えるものがある。
(マジですまない…)
『割と素直に謝ったね。』
俺の失敗で俺だけが被害を受けるのはともかく、瑠間まで被害を被ってしまったのは事実だ。
罪悪感無しという訳でもないしな。
「どうしたの?急に落ち込んで。」
「え?表に出てたのか?」
「いや、気配で。」
ああ、気配は感情の変化も表れるんだったな…完全に忘れていた。
「別にお前らが気にする必要は無い、ちょっと瑠間に悪い事をしてな。」
「なるほどね。」
どうやら突然落ち込んだことに対してだけ疑問を持っていたようで、それ以上の深い追求は無いらしい。
俺としては説明が省けて嬉しい。
「ところで、俺達はキャビの村に向かってるんだよな?」
「ああ、それがどうした?」
なんだ突然改めて。まるで漫画とかで都合良く誰かに説明するみたいに…
「さっきから似たような風景ばっかりなのは気のせいか?」
…なんだ、一瞬本気で迷ったのかと思ったぞ。
「そりゃ、森の中だからな…風景が変わらないような気がするのは分かる。
ただ、一回一回そんなことを言わないでくれ。緊急事態か何かだと思うだろ。」
「いや…現にさっきから俺達が歩いてるルートは曲がってばっかだし、さっき俺をすっ転ばせたあの忌々しい石がそこに転がってるし…」
「ああ、さっき俊太が派手にずっこけてたあれね。」
いつ転んだ。
あ、そうか。女神様や瑠間と交信してた時だから気付かなかったのか。
「似たような石かもしれないですよね?」
「い~や!あの特徴的な角は確実に同じ石だ!あの435度みたいな角度の角は!」
「435度って…一回転超えてるけど?」
要は75度ってことか?
テキトーに言ってることは間違いないと思うが。
「…当てにならない。」
「ほっときましょ。」
それが良い。
好きなだけ騒がせとこう。一人で。
「あれ?
もうとっくに着いてるはずなのに…」
日が暮れてきた頃、キャビが心底疑問に思っているかのように言う。止めろよ、さっき俊太が本当の事を言ったみたいだろ。
地元住民がそう言うのは非常に心配だが、なにせまだ子供だ。
子供がこんな森の奥に来るわけが無い。大人達が行かせない様に動くだろう。
「確かに、来た時はもっと早く着いてたけど…」
不安を煽るな。
「!
何か来る!」
がさりという音が鳴ったのはその声の直後だった。
俺たちは一斉にその音の方向に警戒し、臨戦態勢となった。
「…チッ、心配してきてみりゃこれかよ。」
この声には聞き覚えがあるような気がするが、何かが違う。
「あれ?さっきのシャチの人じゃない?」
「シャチの?」
シャチの人、と言うのは俺と津瑠を助けてくれた自称シャチの獣人のことだろうか。
しかし、さっきとは何かが違うような…
と、考えていると木の後ろから何者かが出てきた。
「やっぱりさっきの!なんでここに?」
「ああ、少しばかりお前らのことが気になってな。
もう用心棒みてえなことはしねえとか思ってたくせにな。」
出てきたのは紛れもなく命の恩人、シャチの獣人だった。どうも日本語をペラペラと喋っているのは違和感がある。
…ああ、何か違うって思ったら言葉が分かるからか。今の俺は翻訳魔法の効果を受けるからな。なるほど。




