第五百十五話 吉報に呆れる?数字だらけ!?
「そっちは居たか!?」
「いえ…こっちにも居なかった。」
どうやらどちらも守も津瑠も見つけることは出来なかったらしい。
それもそのはず、現在守と津瑠は森の中で魔物から全力で逃げている途中なのだ。海を捜しても見つけるわけが無い。
「守、津瑠…無事なんでしょうね…!」
あのギーナですら気配を見つけることすら出来ないらしい。
どんな状況でもチートパワーで簡単に切り開いてきた彼女にとって、こんな事態は初めてだった。
何も出来ず、自身の無力さを嘆く事態など…
彼女を良く知る者は、それを見て更に気分が落ち込んだ。自分よりも上だと明白に言える存在があんな表情をしているのだ。
そんな一行に上から近付く2つの人影があった。
「皆!守と津瑠が見つかったわよ!」
「タカミ!?」
仲間の生死すらも分からず、暗いムードが流れ始めていた一行に吉報が訪れた。
空から捜索していたタカミとフラルだ。
「皆が捜してない東の砂浜に居た!手を繋いで!!」
……はあ?と、呆れなかった者は居なかっただろう。
仲間の生存を伝える、間違いなく良い知らせのはずなのだが…後半部分で大多数が眉をしかめた。
手を繋いで?自分達がどれほど心配して捜していたかなんて気にも留めずに?と。
「…タカミ、フラル。その場所に案内して。」
「もちろん。その場所に行くためにはまず村の向こうにある森を抜けて…」
仲間の居場所までの経路を伝えていくタカミ。
それを聞く一行と、それを説明しているタカミは全く同じことを考えていた。
経路を聞いた一行は暗いオーラを放ちながら全力で森へと走る。
目的が変わっていることを自覚しながらも。
「よし!できた!」
障壁は俺の心配に反してあっさりと創りだせた。
俺たちを追いかけてきた魔物は、突如現れた予期せぬ障害物にぶつかりダウン。これでなんとかなったか…
「守君!前!!」
と、その安心も束の間。すぐさま連戦が始まった。
しかし、能力が使えるならいくらでも戦える。
俺は障壁で2匹目の魔物を押し飛ばす。
鳴き声さえ聞こえなくなる距離まで、海の方角へと。
「また来る!」
「次は左か!」
見て確認する前に気配察知で魔物の位置を調べ、その方向に障壁を伸ばす。
遠ざかっていく気配は撃退の成功を知らせ、俺に一時の安心を与えた。
その次の瞬間には右から魔物の気配を察知。これも障壁で撃退する。
「守君!上!!」
「次はそっちか!」
上の魔物は障壁の檻に閉じ込めて無力化する。
落ちてきた檻にはバタバタともがいている鳥のような魔物だった。
「下!」
「ああ!」
地面の下に居る魔物は地面から出る場所に重い障壁を設置して押さえる。
「右斜め前!」
突進してくる魔物は進路に障壁を置く。
「七時の方向!」
な、七時?
ああ、時計の短針の事か?分かりづらいな。
「その向きから120度!」
120度!?
具体的過ぎやしないか!?確かに居るけど。
「315度!」
逆に分かり辛くなって来た。
しかし、指示の後すぐに気配で魔物の位置が分かるので、その場所に障壁を伸ばし続ける。
「61.1!73.65!!」
あ、頭の中が数字だらけに…
それでも障壁を伸ばすのを止めない。
「241.317、359.427!
これで…守君!?」
「角度で指示するのは止めてくれ…数字だらけで頭が…」
全ての魔物を撃退させた俺は、近くの木にもたれかかり座る。
何度も何度も具体的な数字を出されるため、徐々に混乱してきてしまった。魔力が無くなり賢さが下がっているのが原因だろう。
漫画だったら俺の頭から煙を上がっている。考え事も出来やしない。
集中力を欠いてしまった俺は、ひっそりと近付いてくる魔物の気配に気付く事は出来なかった。




