第五百九話 最低ライン到達?なかなかすぎる無茶!?
残業続きで執筆時間が…遅れてすいません。
「あ、なんだ居るじゃ…昨日よりへこんでない?」
翌日。
力が無くなったことを明確に思い知らされてしまい、心と手に傷を負ってしまった。
しかもナンパの手によって、だ。
そのせいでただでさえ下がっていたテンションは、最低のラインまで下がっていた。
「何度も呼んだんだぞ?ちゃんと返事くらいしろよ。」
「……」
「妙にテンション低いね…」
「…部屋の隅っこで体育すわり…露骨。」
「……」
「本当に何があったの?一言も喋らないし…」
「それについては私が説明するわ。」
「ギーナが?何か知ってるの?」
「ええ、実は昨日の夜…」
その後のギーナの話は紛れも無く俺が落ち込んだ原因だった。
…話してないはずなんだがな。
「…なるほど。」
「屈辱以外の何物でもないって訳ね。」
屈辱…というよりかは、自分に対する落胆だな。
魔力が無くなった俺はここまで弱いのか…とか、そんな感じだな。
「学校に連れて行こうと思って来たんだけど…これじゃ難しい?」
引きこもらせてくれ。
無言でその思いを視線に込める。
「部屋にこもってるより、外に出た方がいくらか気は晴れるでしょ?
だから、遠慮なく連れてって。引っ張ってでも良いから。」
が、結局は連れ出されてしまうらしい。
視線の意味を読み取れたものが居るかどうかも分からないまま、俺は学校へと引っ張られた。
…制服に着替える時間くらいは欲しかった。
制服は移図離に持ってきてもらい、通りがかった俊太の家で着替えて学校に向かう。
「たった1回ナンパを追い返せなかったくらいで、そうクヨクヨしなくても…」
「……」
慰めはありがたいが、俺にとってはたったも何も無い。
もし1人の時不純な目的で近付いてくる奴が来ても、撃退どころか抵抗すらろくにできない。
そんな事実を叩きつけられたら、俺でも不安になる…俺のメンタルもそう強くは無いか。
「…って、もう時間ねーぞ!走れ!」
「ちょ、ちょっと!」
「…待ってー。」
「まってよ~!」
ケータイの時間を見た俊太が走り出し、それについていくように他の皆も走り出す。
…まったく、俊太には適わないな。
こいつの前じゃ、ジメジメした考え事なんてできやしない。
俺も走り出す。
いや、走り出そうとした。
ドタッ
「いって!」
何故か突然こけた。
別に何かに引っかかったわけではないし、もつれたわけでも…
もう一度走ろうとする。
しかし、結果は同じだった。前のめりにこけるだけ…まさか。
足が着いてこないのか?想定の足の動きより、実際の足の動きが遅すぎる…と言うのか?
…下手に走ることすら出来ないのか。マズイを通り越して………とにかくマズイ。
「…守、どうしたの?」
「こんなにどん臭かったか?お前は。」
「……なあ、皆。」
「何?」
「俺、今日から家で引きこもる…」
ゆっくりと立ち上がり、来た道を引き返す。
が、肩をつかまれて引っ張られる。
当然その力に抗う事はできず、大人しく学校まで連行されるしかなかった。
走れない、分からない、着いていけない。今日の学校は散々だった。
魔力が無くなったことで身体能力だけでなく、賢さも下がってしまったらしい。
今までなら分かっていたはずの問題も解けず、いつも出来ていたはずの計算も出来なかった。
おまけに体育では何度もこけ、笑いを何度巻き起こしてしまった事か…最後のあたりでは同情の視線がなんとも痛かった。
しかし、それだけ転べば走るコツも覚えるというもの……慰めにすらならないけどな。
「まあまあ、なんとかして元気出して。」
「できるか。」
なかなかの無茶を言う。
ここに…俺の部屋にいるのは、火太郎と光。何故か俊太と移図離は居ない。
「また体育座りなんて、よくもまあ飽きないわね。」
「…やかましい。
人間っていうのは、自分の体に接している時が安心するって聞いたことがある。
だから、焦ったり悩んだりしたときは自分の体に接するために髪をいじったり、自分の体の延長上として眼鏡を触ったり、腕を組んだりするとか。
そして、体育座りもその一環じゃないかと俺は思っている。」
「……つまり?」
「つまり、飽きる飽きないの問題じゃないって言いたいの?」
「そういうことだ。さすが幼馴染みとでも言っておこうか。」
「それはそうとして、回りくどいわね…」
うまい言い方が思いつかなかったんだから仕方ない。
ピンポーン
「おーい!」
「…お待たせ。」
チャイムがなった直後、俺の部屋に2人の来客が訪れる。
玄関からここに来るにしては早すぎるので、恐らく転移でも使ったのだろう。
「作戦通り、連れてきたぞ。」
「ああ、お疲れ。」
連れてきた?
「守く~ん!」
部屋に入って来た一人の人物。
その人物は俺を唯一君付けで呼ぶ人間。
そう、津瑠だった。
…何が起きるか全く予想できないのは、賢さが下がったせいなのか?




