第五百一話 針小棒大?ささやかな仕返し!?
「勝負だ!」
挑戦の掛け声を上げながら飛び掛ってくる村人。
「ぐあっ!」
それを無言で返り討ちにしていく。
そんな作業にも近い戦いを既に何度繰り返したことか分からない。無双ゲーよりも退屈だ。
皆黄金化してくるので、動きがあっさり分かる。だからこそこうして無傷なのだが…
「さすがチートね。」
「ああ、俺達が知らない間にあんなに強くなってたとはな~。」
それが俺の戦いを見ている俊太達の台詞は、やけに誇大化されている。結構ギリギリなんだぞ。
単調な動きだからこそなんとかかわせているが、それを余裕と取って人外扱いはさすがにないだろう。針小棒大にも程がある。
逆に、1人でも黄金化せずに来たら…あ、それはそれで身体能力が足りなくなるのか。
「お前たち、呑気に見てるくらいなら、俺に加勢、しろよ!」
「いや、俺達はもう負けちまったからな。」
「一度勝負に負けたらもう挑めないし、受ける事もできないらしいから。」
そんなルール初耳…ん?となると、瑠間がわざと攻撃を受けた時点で終わってたんじゃないか?
………いや、それはそれでルール違反とか言って(物理的に)叩かれそうだから止めとくか。
負けたのは瑠間で、守は負けていない、ってことにしとこう。
「わざと負けたら、それは無効だとか言わるんだろうな…皆戦闘狂だから。
…って、ちょっと待て。お前らは誰に負けたんだ?」
よく見ると、そこで観戦していた奴らは皆ボロボロだった。
非戦闘要員は除くとして、ギーナ、タカミ、キャビと俺の3人を除いた全員がそこに居た。
旅の道中で魔物と散々戦っているので、それなりの強さは…この村の人…黄金人くらい倒せても良さそうだが。
「いや、ちょっと長老と勝負してな。」
「それまでは皆戦えてたんだけど、長老と戦ってこの様って事。」
「この村で一番強いのは長老だからな。」
ああ、なるほど。
つまり、運が悪かったって事か…
「…俊太、光、移図離。」
「なんだ?」
「慰めなら要らないわ。」
「…あんな化け物に負けても、悔しくな」
「ザマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「「おい!!」」
「……」
この前のささやかな仕返しだ。さぞムカつくことだろう。
さっきから村人を煽りまくってたせいか、煽るのがうまくなってきた気がする。
演技に関しては役に立ちまくったが、こんな技能が上がっても嬉しくない。せいぜい今のとか挑発くらいしか役に立たない。
「他の皆はドンマイ。」
「あ、ああ…」
「覚えてなさい!守!」
「人が黙ってりゃ、お前は…!」
「…簡単には許せない。」
「ハッハッハ!よく言うねぇ!そんな惨めな姿で!」
「ぐぬぬ…」
自分で自分の言動にドン引きするという事態に陥りながらも、有限実行をなんとか達成する。
さっきので一応差し引きゼロにしようと思ったのだが、強欲な復讐心がもっとやれと呟いたために追加する事になってしまった。
吐き気を催す邪悪ってこういうことか。
「完全に調子に乗ってやがる…!
長老!今すぐコイツを叩きのめしてくれ!」
長老どころか、辺りにはこいつらと俺以外誰の気配も無い。
だから、俊太がいくら叫ぼうが無駄…
「わしゃあ呼ばれたのかい?若造。」
「ぎゃああああああ!?」
不意に後ろから酒臭い匂いと同時に声が聞こえてきた。
「ハハハハハハ!なっさけねえ!」
「う、うるさい!」
思わず情けない悲鳴を上げてしまった数秒前の自分を殴りたいという衝動に駆られながらも、突然後ろに現れた誰かと対峙する。
「……誰だ、このじいさん。」
「なっ、おっ…おま、さっき会ったばかりじゃろうて!?」
ついさっきまで心の中に引きこもっていたので、全く記憶に無い。
恐らく、会ったというのは瑠間のことなんだろうな。
「しかも雰囲気が変わっておる!何があったんじゃ!?」
「あ、これは二重人格なんで。もう一つの人格だと思っていただければ。」
「お、おう…なんじゃ、わけ分からん…」
「別に分からなくても良いが…
とにかく、話を進めるか。アンタが皆を倒した長老か?」
「そんなところじゃ。
もっとも、村の民からは親しみを込めて“じいさん”と呼ばれとるがのう。」
親しみか?それ。普通に失礼だと思うんだが…本人が良いなら良いか。
「まあ、なんにせよ。
皆の仇は俺が討つ!覚悟しろよ!」
「さっきまで追い討ちを掛けてた人の台詞!?」
「ブーブー!」
「…負けちゃえー。」
約三名の罵声をスルーし、構える。
アイツは間違い無く強い。気配察知に引っかからずに背後に移動していたからな。
俺も勝てるかどうか…怪しいところだが、やるだけやってみるか。
「楽しみにしとったよ、期待を裏切らんどいてくれ。」
その台詞の直後、どちらからともなく互いの間合いに入った。




