第四百九十八話 セルフは痛い?まさに戦いから逃げる!?
口喧嘩している2人から目を離し、ルーの方を見る。
「ルー!?ルーじゃないか!」
「心配したんだぞ!」
ルーは村の人たちに囲まれている。
村を飛び出していったこともあって、かなり心配されていたらしい。
「…心配かけて悪かったな。
この通り、ちゃんと帰ってきたから安心しな。」
「そんなこと言って、また出てったりするんじゃないぞ?」
「なに、友達から色々と教わったからな。
帰ろうと思ったのは自発的なことだし、もうあんな下らない理由で出て行くことは無いって。」
リセスをちらりと、一瞬だけ見て言う。
ルーはリセスと話をして、村に戻ることを決意したからね。
「友達、か…
そう言えば、久々にこの村に客人が来たな。」
「そりゃそうだろ、隠してんだから。」
「って、ことは…
いつものアレ、始めるか?」
いつものアレ?
…そこはかとなく嫌な予感がする。
「アレか?止めとけ!
わざわざ村を隠すことになった理由、忘れたのか!?」
「あ…いや…でもな…」
…うん、間違いなくまずいことだね。
これはなんとかしてとめないと。
「ああ、その客人なら問題ない。」
行動を起こす前に…がくっ。
『セルフ効果音は痛いですよ。』
いいじゃん、口に出してないんだし。
それより、いつの間にかあの2人口喧嘩止めてたんだね…なんか黄金化したままだけど。
「さっき強さを調べたけどな~、数人を除いてなかなかの強さだった。
特に、その3人は別格だったのう。」
強さを調べた?
というか、その3人の中に私も入ってたような…
「ああ…あのじいさん、人の手を握れば大体の強さが分かるんだ。
どういう理屈とかはわからないが、訊いてみたら手につく筋肉とか魔力とかを調べてるらしい。」
さっき皆の手を握って回ったのは、単に酔ってたってだけじゃなかったんだ…
「じゃあ、アレを…!」
「しても良かろう。特に、さっき言った3人は本気でも問題無いじゃろう。」
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!
え?ナニコレ?
なんか皆歓声をあげてる。少なくとも、私たちにとってはいい事じゃ無さそうだけど…
「え~。
久々に始めたいと思います。
この村のおもてなし、村人とのバトルロイヤル!」
いつの間にか村人の1人がこの場を取り仕切るように叫んでいた。マイクを使えば…あ、異世界には無いか。
……強さって言ってた時点でまさかとは思ってけど…
やっぱりこうなるかぁ…
「ルールは簡単!お客人と村人が好きに戦う!
ただし、戦えないと判断された人は両陣営ともに狙わないように!それ以外はどうぞご自由に!
このゴングを鳴らした後、即スタートです!それまでばらけててください。離れていないと流れ弾とかが来ますから。
では、ばらけてくださ~い!」
ああ、色々な配慮はされてるんだ…
ルールは自由、か…使えそうだから覚えておこう。
さて、じゃあ戦いたくないから出来るだけ人目の付かないところに…っと、その前に。
「ルー、一つ聞かせて。
これは何?」
「ああ、この村の奴らは皆戦いが好きだからな…
数年前まではうっかり迷い込んだ旅人とかもコレの対象になって、それに巻き込まれたくないとこの村周辺を旅人が避けるようになって…
結果、近隣の村に大迷惑だったらしい。
そんで、責任を取らされて渋々この村は隠されることになったって事だ。」
ああ、だから隠されてたんだ…
確かに、危険な村が近いからって言う理由で旅人が来なくなるんじゃ、宿屋とかその他の店の客足が減って…
その結果が経済に大打撃を与えて迷惑、なんてことも考えられる。
そして、村を隠すことを余儀なくされたと…
『…なんというか、色々とひどい話ですね。』
(そうだね、さすがにコレは…)
「さて、そろそろゴングが鳴ります!今すぐそこから離れたい方、お早めに~!」
おっと、出来るだけ早く離れないと。
大勢のターゲットにされちゃ、戦いづらいしそもそも戦いたくないからね。
…なんで付いて来るの?
一刻も早くその場を去ろうと、少し走りつつもあの場所から離れた。
けど、それに伴って数人付いて来た。本当になんで?
「付いて来ないで欲しいんだけど…」
「いや、アンタ強いらしいじゃん?」
「だから、戦い大好きなあたし達にとって、戦わない理由が無いんだよ。」
「それに、付いて行っちゃいけないってルールも無いからな。」
…ああ、なるほど。
そうやって自由なルールを盾にして正当化させようとしている、と…
オーケーオーケー、なら、私にも考えってものがある。
カアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
あ、今鳴ったのがゴングかな?
村中に響きそうな大きさだね…正直うるさい。
「そんなわけで。」
「早速相手してもらおうか!」
「かかって行くぜ!」
3人が一気に飛びかかってくる。
なら、私は…!
「いいよ。
なら私は、“鬼ごっこ”で勝負する!!」
「「「…え?」」」
「さっきの説明、聞いてなかった?
戦うルールは自由。なら、別にそれが殴り合いとかじゃなくても良いよね?」
このバトルロイヤル、別に殴りあったりする必要は無い。だって、ルールは自由なんだから。
しかも、鬼ごっこならどこへ行っても自由。殴り合いにはならないだろうし、今他の人と戦ってるからと言えば他の人たちとも戦う必要は無い。
戦いたくない私が思いついた平和的解決法。それが鬼ごっこだ。
「「「……そんなの認めるかあああああああああ!!」」」
まあ、ちょっと予想は出来てた。
そんな屁理屈でなんとかなる戦闘狂達じゃないよね。ははっ。
『画期的みたいな言い方してましたが、言ってることはかなりくだらないですよね。
まさに戦いから逃げる。鬼ごっこだけに。』
誰もうまいこと言えなんて言ってないよ…
あと、くだらなくなんてない。




