第四百九十五話 暴走は続く?機転は思わぬところから!?
限定的なズルでも、イカサマでもない。
あれは瑠間の正真正銘の強さ。
弱体化は見込めない。2人も全力が出せない。俺達が加わっても足を引っ張るだけ…
もう、駄目なのか?
「太郎!何ぼさっとしてるの!!」
諦めかけたその時、耳元で思いっきり叫ばれた。
「光…
この状況で、俺達に何が出来るって言うんだよ…」
「ハァ?さっきの話聞いてなかったの?
瑠間の暴走は、リベルを引き離しても止められるかもしれないんでしょ!?」
…あぁ、そうだったな。
完全に失念していたが、方法は一つじゃなかった。
リベルに気配察知を使ったから瑠間は暴走した。
なら、リベルを瑠間から遠ざければ…という事らしい。
「…別に、離れてても気配は探れるよな?」
「ちょっとはマシになるかもしれないでしょ!」
まあ、効果があるから言ったんだろけどな…なんか不安だ。
「……」
「移図離、頼んだ。」
「…了解。」
リベルは呆けていて無抵抗だったので、移図離の能力で退場してもらった。
こんなあっさり解決する…
「容赦しないんじゃなかったの?」
「余裕ね…」
「でも、余裕があるのはアンタだけだと思わないことね。」
訳無いか。
「あ~あ、なんか突然やる気なくなっちゃったよ。なんでだろうね?」
リベルが転移した瞬間、気だるそうにそんな事を言う。
効果はあるらしい。ただ、
「でも、続けるんでしょ?」
「ありゃ、分かってた?」
暴走はまだ続いている。
なんとかするためには…
「ギーナ!精神分析チョップは!?」
「試そうとしてるところ。
でも、なかなか当たってくれないのよね~…」
「攻撃されたら避けるでしょ?」
…だろうな。
できることはした。なら、後は2人に任せるか。
さて、ここからどう動くか…
癪に障るけど、2人が全力が出せない。
とは言っても、チートと戦ってるのは変わらない。今の私には決め手が全くと言って良いほど無い。
攻撃はともかく、避ける事に手加減は無い。2人は攻撃する集中力をも若干避けに裂いているので、当たらない。
……
「手加減してもらってる、ね…
腹が立つ。」
そうでなければ一対一でも叶わないとはいえ、釈然としない。
手加減されて戦ってるなんて、情けないにも程がある。
「そうは言ってもね…せめて、一撃だけでも当たってくれない?」
「わざわざ当たりに行くと思う?」
「そりゃ、そうか。」
「なんの考えも無しに相手の攻撃に当たりに行くなんて、馬鹿げてるよ。
そろそろお話も止めにしない?」
「そうね…次は絶対に当てる!」
「私も忘れない事ね!」
また戦闘を続けようとした…その時だった。
『待って!止めて!』
その声が聞こえたのは。
(…誰?)
『誰って…私よ私!守よ!』
「…え?」
突然のことに思考が停止して、動きが止まる。
「隙あり!」
しまった、呆けてる間に…!
衝撃は一瞬だった。
それと同時に、囚われていた何かから解放されて目が覚めたような…そんな感じがした。
「本当に…ゴメン。」
正気に戻って、さっきまでしてたことを思い出して…気づいてたら謝っていた。
とんでもないことをしてしまった。洗脳されたタカミも、洗脳が解けた時はこんな気持ちだったのかもしれない。
「いいって、お前も暴れたくて暴れたんじゃ無いんだろ?」
「その時の私が暴れたくて暴れたんだけど…」
「……あ、ああ、正気じゃなかったから仕方ないよな。ハハハ…」
若干フォローに失敗した俊太から目を離し、目を瞑る。
『…………死にたい。消えて無くなりたい。最初から居なかった事にして欲しい。』
鮮明に聞こえてくる守のネガティブな声。
正気に戻った後、チョップの威力が高すぎて気絶してしまった私は守の状態を確認した。
するとさっき女神様が送り込んだ映像で正気を失ったのか、守は女々しくなっていた。
これはまずいと思った私は守と入れ替わり、女神様を経由して事情を説明、目を覚まさせると同時に精神分析チョップを当てた。
正気に戻った守はショックにより気絶。自分があんな女々しい事を喋ったということが信じられなかったらしい。
そして、また立ち直れなくなってしまった守に変わって私が表に出た、ということだけど…
(また、かぁ…)
『またですね…
これは、今度こそ本当にしばらく立ち直れないでしょうね。』
『俺の声が聞こえるんだよな?ならば私を殺すがいいんじゃないかな?フハハハハハハハハ!』
口調が滅茶苦茶になってる。キャラがぶれて原型が無い。
「…瑠間、守は?」
「一応、リベルは大した怪我も無かったけど…」
守の状態を見ていたことが分かったらしく、ギーナとタカミが訊く。
「…最悪よりマシ、ってとこかな。
精神が崩壊しかけてるけど、立ち直る可能性が無いわけじゃないから。」
「せっかく人が頑張ったって言うのに、コレは…」
「ほとんど最悪と変わらないって、そりゃ無いんじゃない?」
全くだよ…
誰にも見られないように、後ろを向いてそっとため息をつく。
少し、気分が晴れたような気がした。




