第四百八十八話 悲惨な背中?精神半壊!?
緊急事態なので、ロボを破壊して町へと向かった俺達。皆で囲んでしまえば、ロボは避ける事ができなかったのであっさり壊せた。
俺は何の前触れもなくふらつき、倒れた守をおぶって歩いている。
正直重い。背負いづらい。
しかも守は悪夢でも見ているようで、うなされている。
時折、
「止めろ…もう止めてくれ……ショック死する…」
とか、
「アレは俺じゃない…アレは俺じゃない…俺とは全く別人のそっくりさんなんだ…」
とか、色々と訳の分からない寝言も聞こえてくる。
どんな夢見てるんだよこいつ…
寝汗も尋常じゃないほどかいているため、俺の背中は酷いことになっている。
誰でもいいから替わって欲しい。あとせめてその寝汗なんとかしろ。
「だ、大丈夫?替わっても良いよ…?」
「お前が大丈夫じゃないだろ。」
そんな疲れきった様子で言われたら替わるに替われないだろう。
最初は津瑠が背負っていたが、体力の問題ですぐに断念。人体は重いからな。
「ハァ…マジで誰か替わってくれないか?津瑠以外で。」
「あんたの背中を見たら誰も替わる気なんて起きないわよ。」
横からでも見られていたのか、皆は俺の背中の状態を知っているらしく替わってくれない。
「う…うぅ…」
「や、やっと起きてくれたか…!」
不意に耳元で呻き声が聞こえた。
これまでの寝言やうなされ声でもない。目覚めの合図だ。
「……現実…だと…?」
「は?おい、守、どうし…」
「……」
「おい!なんでまた気絶した!?」
人の顔をみるなり、力を失ったかのようにぐったりとし始める。
失礼な奴だ。背負って運んでやってるというのに。
「あ~、太郎が運んでたからか…」
「!?」
また寝たと思ったら耳元から守の声が聞こえてきたので驚く。
「とりあえず、降ろして貰っていい?」
「あ、ああ…」
解放された背中には冷たい風が通り抜ける。寒い。
「あなたは瑠間?」
「そう。
守は…えっと、うん、ちょっと出られない状態になってる。」
ああ、瑠間だったのか。通りでさっきと様子が違うと思った。
…守の状態が非常に気になる。なんだ出られない状態って。
「守に何があったの?全く前兆も何も無く倒れたけど…」
「……多分精神破壊。」
「…どういうこと?」
「そういうこと。」
どういうことだよ…
「いえ、こっちが訊きたいのは誰がとか、どうやってとか…」
「さっきまで眠ってたから分からないんだよね…守の精神が半壊してる事以外。」
「何事がおきたぞや!?」
「だから、それが分からないんだって。」
こうなったら、守本人に訊きたいところなんだが…出てこれないらしいからな。何があったかは知らんが。
あと、俊太の口調が驚きのあまりか崩れている事は誰も突っ込まないらしい。
俺も気にしないことにしよう。色々な意味でそれどころではない。
「まあ、寝言のおかげで太郎が関わってることは分かったんだけど…」
「なんで俺なんだよ…訳が分からない。」
俺がアイツに何をした。
かつて守にしたいたずらを思い出しつつトラウマになったものはないかと考えたものの、それを思い出す事もなく王都に辿り着いた。
『もう嫌だ…もう嫌だ……あと、太郎絶対許さん…』
『守さん!気を確かに!守さん!
あの守さんは全くの別人です!貴方とあの守さんにはなんの関係もありませんから!
そもそもあの守さんは女性で、女性として育ってきたので何もおかしくありません!ただ、貴方と姿がそっくりなだけです!』
頭の中がうるさい。
うわ言をぶつぶつと呟く守と、必死に正気に戻そうとする女神様。
守の精神半壊は女神様のせいだろう。という予想は簡単に付く。あまりにも必死すぎるからね。
『ちょっと懲らしめるくらいのつもりが、まさかこんな事になるなんて思わなかったんですよ…
瑠間さんも協力してください!そうすれば…』
(私はリセスの件でそれどころじゃないんだけど…)
今は皆でリセスを王城に送っているところだ。
敵はどこから来るのか分からないから、一瞬でも気を抜けない。
気を抜いたら、取り返しの付かない事になるかもしれないから。
『…そうでしたね。
もし今ショックな出来事が起きたら、守さんがまずい事になります。最悪、精神が完全に…』
(分かってる。)
分かってるからこそ、決意する。
もし何かが来ても絶対に対処してみせる、と。
「!」
物陰から何かの人影が見えたので、障壁で攻撃する。
なんで気配が無かったの…?そのせいで全く気付けなかったよ。
影の正体は…
「コレはさっきの…!?いや、ちゃんと壊されたはずだ!」
「…どうやらさっきのロボ、一機だけじゃなかったみたいね。よく見て。」
いつの間にか、人影は私たちを包囲していた。
(…ロボ?)
壊された、とか、一機だけ、とか、何を言ってるのかさっぱり分からない。
『…瑠間さんはさっきまで眠っていましたからね。
あのロボは……』
守のことで負い目を感じているらしい女神様が、これまでの事を親切に教えてくれた。




