第四百七十九話 そろそろ帰した方がいい?疑問も仕方ない!?
「……ま、全く覚えてねえ…」
「えぇ~…あれだけ暴れておいて?」
さっき皆から聞いた話だが、全く身に覚えが無い。
完全に記憶が飛んでいる。いっそ作り話と言われた方が納得するくらいに。
「…いくつか訊いていいか?」
「…うん。」
「まず、そのリーダー格はどうなった?」
「今は狩人に捕まってる。
心配しなくてもちゃんと生きてるから安心して。」
ギーナが言った心配と言うのは、リーダー格の事ではなく俺が人を殺していないかという事だ。
どうやらその辺も察してくれたらしい。
「オーバーキルとかそんなレベルじゃない…とか思ってたが、死なない程度に手加減はされてたらしいな。
たっぷりと痛めつけるために…」
さらっと恐ろしい事付け足すなよ…って、やったの俺か。
「次の質問だ。
その仲間も捕まってるのか?」
「気絶してたから、全員簡単に捕まえられたわ。
結構名が通った山賊だったらしいから、捕まえるには充分な前科があったんだって。
それに加えて王子と王女の誘拐未遂。捕まらないわけが無いわね。」
そう言えば、リンスに加えてリセスの誘拐も企ててたんだったな。
誘拐しようとしてたのはリセスじゃなくて俺だったけど。
「…そうか。
じゃあこれで最後だ。
なんで三人称視点で話してたんだ?カンペまで用意して。」
「ちょっと言ってみたかったから…」
「カンペは僕が書いた。
たまには小説を書かないと、感覚が鈍るからね…結構鈍ってた事が分かってしまった…」
がっくりと肩を落とすタム。
そろそろコイツは帰したほうがいいんじゃないかと思う。小説家に復帰できなくなるかもしれないしな…
「…まあ分かった。とりあえずこれで質問は終わりだ。
そして…」
「質問は終わったんじゃないのか?」
「次は確かめたいことだ。
お前の名前は、ロッソで合ってるよな?」
「!
覚えていたか…」
「いくらなんでも、数週間前のことをスッパリ忘れたりしないさ。」
「数週間?
いや、数十年前の間違いだろう?俺は危うく完全に忘れるところだったが…ちゃんと帰れたらしいな。
なに、タカミの能力を疑ってたわけではないが、安心した。」
数十年?
ああ、俺とタカミがタイムスリップしたのはそんなに前だったのか…
…って、あ。
「数十年前?
どういうこと?守はまだ15歳でしょ?なら、数十年前にいるわけが…」
「どういうことか、説明してもらえる?」
「あ、ああ…それについてはこの前話した…」
「確かに聞いたけど…
一緒に旅した人の名前は聞いてなかったんじゃなかったの?
それと、タカミの能力って何?」
「……」
非情に面倒な事になった。
ギーナや俊太がタカミの能力を知ってしまったらどうなるのか…
今の俺には、想像している余裕すらなかった。
「…って訳。
まさか、私の能力がこんなぶっとんだものだったなんてね…」
「……未来から来たって時点で、予想つくんじゃ」
「ゴホンゴホン!」
わざとらしい咳払いをして、太郎の言う事を遮るタカミ。
正論故、聞きたくなかったのだろう。
「そ、それより、なんで守は突然倒れたの?」
「さっきまで、
『寝てるだけからほっといても大丈夫。』
とか言ってたくせに…」
「い、いや、あの時は寝息も聞こえてきたし…
でも、そろそろ起きてもいいはずなのになーと…」
目をそらしたタカミの視線の先には眠っている守が居た。
守はタカミの能力の説明中に眠ってしまったのだ。
「怒った時に暴れすぎたんじゃない?
いつもとは比べ物にならないくらいの動きをしてたし…」
「なるほど、それなら納得…」
ゴロボを制裁していた時の守は、普段最大まで魔法で身体強化した時よりも素早かった。
限界以上に力を使ったため、守の体力、魔力は底を突きかけていたのだろう。
「…タカミが未来から来たって話、初耳なんだが…」
「そんなの俺もだぞ。」
「もし言ってもそんな突拍子の無い話、信じないかな~って…」
「異世界やら能力やら、充分突拍子の無いことに突き合わされたからなぁ…
未来から来たぐらい、今更過ぎる。」
「それも…そう…?」
若干疑問を抱きつつ、肯定するタカミ。
どっちもぶっ飛んだ話には変わり無いが、若干方向が別なので疑問を抱くのも仕方ない…のかもしれない。
「まさか、守が未来から来た麻里と消の子供だったとは…」
ロッソは守とタカミが未来から来ていたということよりも、守が2人の子供だったということの方が驚きが大きいようだ。
「お前はそっちに驚いてるだろうが、俺達はいつの間にかお前と守とタカミが知り合ってたことに驚いたぞ。」
タカミも守もタイムスリップした直後の時間に戻ったので、誰も気付かなかったのも無理は無い。
(…あの時、タカミが守を呼び出したとき…
確か、タカミと守は一瞬でどこかに消えた…)
「ギーナ?どうしたの?」
「なんでもない。」
ただ、1人だけ思い出したことがあるようだが…
考えても意味が無いので、そのことを考えるのを止めた。




