第四百七十八話 そこから思い出せない?もう意味わからん!?
「………」
気がつくと、目の前には天井があった。
何が起きたんだ?全く思い出せない…
「……守、起きた?」
「ああ…って、なんでそんな恐る恐る覗いてるんだ?」
起き上がり、何故か部屋の入り口で顔を半分だけ出して見てくるキャビに訊く。
様子がおかしい。ってか、こっちきて話せよ。
「なんでってそれは……」
「あ、おい!ひっこむな!ちゃんと話せ…!?」
立ち上がって去っていくキャビを追いかけようとしたが、力が入らない。
その場で膝を突いてしまい、立ち上がることは出来なかった。
「なんだ…マジで何が起きたんだ…?」
『守、覚えてないの?』
(瑠間。
覚えてないって、何がだ?)
『オ…じゃなくて、え~と…そう、筋骨隆々の誰かが乱入してきた後から。』
(筋骨隆々…?)
思いつくのは、マソーと、後は…あ、そうだった。
ゴロボ一味に囲まれて、元ボスとか言ってた奴が乱入してきたんだったな。
説得を試みるも、かえって煽ってしまいリーダー格のヘイトを上げてしまった。
んで、知り合いっぽいからと言う理由で俺にタゲが向いて……ん?そこから先が思い出せないな。
『なら良かった。』
(……気になる言い方だな。
なんか隠してないか?隠しても割とすぐにばれるから素直に言った方がいいぞ。)
瑠間は心の中にいるので、ちょっと集中すれば思考は筒抜けだ。
だから瑠間は俺に隠し事が出来ない。逆もまた然りなので、俺も瑠間に隠し事は出来ないが。
『実は、私も何も覚えてないんだけど…』
覚えてないんかい。
『でも、思い出さないほうが良いような気がして…』
まあ、俺もそんな気はしてた。
どうも腹が立つことだったような気がするが…なんだったっけ?
『…守さんはマジギレしただけですよ。』
『あ、女神様。』
(マジギレ?
記憶がぶっ飛ぶほど怒ったのか?)
どんだけ怒ってたんだ俺?
むしろ、何があったらそんなに怒るんだ?
『ええ、ついでに理性もぶっ飛んでましたよ。』
記憶が飛ぶくらいだし、当然理性もぶっ飛ぶか…
…マジで本当に何されたんだ?俺。
今後に関わるとんでもない何かをされたとか?それとも、なんか壊されたとか?
『強いて言えば理性を壊されましたね。一時的に。』
(誰がうまいことを言えと。)
理性以外で何か…そんなに怒るほど大事なものと言えば、あのカードくらいだが…
あのカードは家でお留守番中だ。ポケットの中には何も無かったしな。
となると……………まさか!?
「皆は!?皆は無事か!?」
あまり考えたくは無いが、誰かが目の前で…と言うことも考えられる。
そう思うと、さっきまで入らなかったはずの力はしっかりと入り、走ることも出来るようになっていた。
「皆!!」
大勢の気配がある部屋のドアを開ける。
開けてから気付いた。気配である程度は確かめられたんじゃないか?と。
「え?」
「あれ?守?寝てたんじゃ…」
結論から言うと、皆は無事だった。誰一人欠けることなく…
…むしろ一人増えているような?
「な、なんだ!?俺がなにか悪い事をしていたのか!?」
「なんだちょっと見てたくらいで。その筋肉が泣くぞ。」
「と、とりあえず無事でよかった…」
その顔の冷や汗は何ですかねー?
明らかに様子がおかしいので気配をよく調べてみると、全員怯えていた。
何に?
その注意は俺に向いている。
なんで?
気配だけでそんなこと分かるか。
「…なんでそんなに怯えてるのか、訊いてもいいか?」
その質問から一秒と経たずに皆揃って首を縦に振った。
…もう意味わからん。
気配察知。
それは人、魔物、動物…ありとあらゆる生き物の気配を探り、その存在を認識できる技能。
その技能は時として取得者の周りの生き物の存在を認識させ、時として気配を察知する対象の心の動きもある程度教えてくれる。
そんな便利な技能だが、今この場にそれが出来る人間がいたとしたらこう言うべきだろう。
“ドンマイ”と。
「………」
彼が纏っているのは激しい怒りの気配。
それは気配を感じ取れない者にも分かる凄まじい気配。
元々気配を感じ取れる者には、更に凄まじく、恐ろしく感じられた。
その気配とはミスマッチな白い衣装が、周りのものの目には魔王のドレスのように映っているだろう。
その者の名は高壁守。
彼の目はその長い髪に隠れて見えない。
だが、その怒りはこの場の全員に伝わっている。
ある者は恐怖に震え、ある者は怒りの威圧だけで気絶している。
気配を察知できる者は、誰一人へたりこんでいる。小鹿のように足を震えさせ、立ち上がろうともしない。
いや、目の前の圧倒的な恐怖のせいで立ち上がることすら忘れている。
「お前は…」
重々しい空気の中、ついに彼が口を開いた。
「お前は血祭りだ…
さあ…覚悟しな…?」
「か、かかれ…!ひるむなぁ!」
この威圧に当てられながらも叫べた、いや、声を出せただけでも凄いだろう。
だが、その指示に従える部下は居ない。部下は全員動けなくなっている。
「つ、使えねえ奴らだ。なら俺が」
「お前が、なんだって?」
移動は一瞬。守はゴロボの目の前に居た。
「う、うあああああああああああああああああああああああ!?」
「徹底的に叩き潰してやるよ…
何も出来なくなるまでな…」
その後、ギーナが立ち直って精神分析チョップをするまで守は暴れ続けた。
精神分析チョップを受けた守はそのまま気絶し、運ばれた。
守が暴れている間、断末魔の一つも聞こえなかった…




