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第四百七十一話 いざって時は早かった?王族の決まり!?

 案内していたのは俺だった…とはいえ、逃げていて知っているルートから大きく外れ、狭く複雑な路地裏に来てしまった。

 俺は路地裏がどうなっているのかなんて分からない。なので、先に行くリンスに大人しく付いて行く事にした。


「こっちです。」


 リンスの足取りに迷いは無い。

 頼もしい…とは全く思わない。

 鍛えてますからと自信満々で言ったくせに追っかけられたところを見てからじゃな…

 いざって時はリンスを抱えて屋根にでも跳び乗るか。


「あ…行き止まりでした。」


 …ああ、もう駄目だコイツ。


「はぁ…こっちだ。」


「うおぅ!?」


 早くもいざって時がきてしまったらしい。

 屋根に跳び乗って飛び移っていき、大通りへと進む。


「落ちる落ちる落ちる!」


 落ちるんだったら跳んでねえよ…

 騒ぎ立てるリンスをスルーし、なお跳び続ける。


「さて、この辺で降りるか。」


 と言って、屋根から飛び降りる。


「落ちる!落ちる!」


「落ちてるからな。」


 そりゃそうだ。

 そして、普通に着地。

 着地の時にリンスを落とすなんてへまもしでかさない。


「ほれ。」


「い、生きてる…」


 少しは鍛えてるんだったらあの程度の高さで騒ぐなよ…二階建ての家の屋根だぞ?さすがに俺も落ちたときは少しだけヒヤッとしたが。

 …なんか、今さらっと常識外の思考が頭をよぎった気がする。俺の価値観も大分変わってしまったらしい。


「守!なにやってたんだ!?」


「ん?もう戻ってきたのか。」


 遠くから聞き覚えのある声を掛けられる。

 さっき台座を見に行っていた皆が戻ってきたらしい。


「まったく、今の今まで道案内してたの?遅すぎよ。」


「悪い、ちょっと事情があって追われててな…」


「追われてる?」


「ああ。

 さっき俺に道案内を頼んできたコイツは隣国の王子で、リンスって言うらしい。

 で、ちょっと目を離した隙に大勢の追っ手を連れてきてな…逃げてて案内どころじゃなかったんだ。」


 さらっと王子と言ったが、驚きは小さかったらしくそう大きなリアクションは無かった。

 理由は俺と同じだろう。


「それで、なんでその王子様がこんなところにいるの?」


「ああ、どうも鍛冶屋に用があるらしくてな…

 鍛冶屋で何をするのかは分からんが、ちょうどそこにお目当ての鍛冶屋がいるんだ。用件を言ったらどうだ?」


「え、えっと…

 あ!そう言えばリセスさん!さっき動いて汗が出たせいか、化粧が崩れていますよ!?

 このタオルを使って拭いてください!」


「そ、そうなのか?

 じゃあ遠慮なく。」


「え?リセス?」


「ああ、どっかの誰かが着せてくれたこの衣装のおかげで、見事に俺をリセスと誤解してるらしくてな…

 当然違うとは言ってるんだが、妙な解釈して信じてくれないんだ。」


 と、説明しながらタオルを受け取り、顔に近づけようとした。


「守さん!ストップ!」


 が、リセスから制止の声があがったので、ピタリと止めた。


「なんだリセス?

 メイクは崩れてないのか?」


 せっかくメイクを拭き取るチャンスだったのに…


「いえ、確かに崩れては居ますが…」


「良く見たら何その顔…プッ。」


 笑うなコラ。


「そこの人は王子じゃありません。」


 …へ?


「何を根拠に言ってるんだ?

 昔の王族のパーティーの話とかしてたから、間違いはないと思うが…」


「そ、そうですよ!

 確かに僕はその話をしました!僕でなければ誰がそんなこと…」


「守さんはさっき言いましたよね?

 ちょっと目を離したと。

 どれくらい目を離していたのかは分かりませんが、その隙に入れ替わることも出来るんじゃないですか?」


 …確かに、王子は店に入ると言って建物に入ってしまったので、その時王子は完全に俺から見えない場所に居た。

 例え一瞬でも、入れ違いという形ですり替わることは可能だ。

 しかも、追っ手を連れて来るまでに結構な時間が掛かっていた。これは確実と見て良いかもしれない。

 今思えば、不自然な行動が目立ち始めたのはその後からだ。

 路地裏での迷い無い足取り、さっきの急すぎる話題転換…この行動にも説明が着く。


「そして、守も聞きたがっていた根拠も話しましょう。

 この国の王族にはとある決まりがあります。」


「決まり?」


「そう。

 “国民に自らを偽らない”というものです。

 王が王であるのは国の民が居るおかげ。

 そんな大切な国の民に自らを偽っていては、国の民がその王を認めず、付いて行くわけもありません。

 そして王は孤立し、王で無くなる…というわけです。」


「……関係無いんじゃないか?」


「いえ、大有りです。

 偽り、という行為の中には、自身を事実以上に良く見せることも含まれますよね?

 化粧もそのうちの一つに入らないか?と、何代も前の国王が考え、王族の中では化粧は禁止となりました。

 それは礼儀作法などにも影響するため他国には知られていて、平民ならともかく王族なら知っているはずですが…貴方はそれを知らずにタオルを渡しましたよね?

 普通なら化粧が崩れた顔を見れば、誤解は解けるはずです。

 ですが、貴方は誤解したままだった。ということは…」


「くっ!」


 偽王子は勢い良く振り返り、走り出す。


「逃げられると思うか?」


 が、逃がす理由が無い。

 それほど速くも無いので、簡単に捕まえる事ができた。


「は、放せ!」


「事情を話すまで放す気は無い。

 さあ、全部説明してもらおうか。」


 偽王子の腕をつかむ力を強め、話し合いやすい場所を求めて引きずっていった。

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