第四百六十話 何故睨む?リサーチが中途半端!?
「町の皆!ドラゴンは俺たちが…アレ?」
一件落着と言ったところで偽者達が現れた。今更かよ。
「なんでお前たちがここに?
なんで町の皆が口を開けたまま固まってるんだ?」
「まさか…アンタ達のせい?」
何故睨む。
「何かとんでもない誤解をしてるみたいだから言うけど、この人達は驚いて動いてないだけだからね?」
「…に、偽者の言葉なんて信じるわけあるか!行くぞ皆!」
偽者達が各々武器を持って襲い掛かってくる。
「皆、少し下がってくれ。」
俺は皆を下がらせ、偽者の前に立つ。
「1人で相手する気か!?」
「なめられたもんだな!」
無論、なめてなど居ない。
「出て来い、ミラーアイズセイントドラゴン。」
さっきのようにカードを掲げ、ドラゴンを出現させる。
それを見た偽者達の足は止まり、めまぐるしい早さで顔を真っ青にした。
「あ…ああ…」
「なんで…なんでさっきのドラゴンが…」
ドラゴンは威嚇どころか威圧すらしていないが、偽者達は戦意喪失どころの騒ぎではない。
ただそこに居る。それだけで数人気絶させるという圧倒的な存在感は、意図せず偽者達に襲い掛かってその意識を刈り取った。
「…えげつない。」
感想の一言目がこれである。
「普通そこで伝説の存在を叩きつける?」
タカミが呆れたように言うが、これにはちゃんとした理由がある。
「一番平和的な方法がこれだと思ったんだ。
戦ったら怪我で済まされないかもしれないし、これなら血も流れないからな。」
あの時、偽者達は既に武器を構えた状態だった。
話し合いを持ちかけても、応じなかった事は明らかだろう。
「ショック死の可能性は?」
「…他人の偽者を名乗ってるんだ。
ここでショック死する程度の度胸しかないなら、そんなことできないだろうさ。」
「考えてなかったみたいね。」
テキトーにそれっぽい理由を言ったが、後付けである事があっさりばれた。若干目を逸らしてしまったせいだろうか。
「気配を見るに全員生きてるし、別にいいだろ。」
「まあ、勘弁しておきましょうか。」
一応勘弁してもらえたので、偽者達を運ぶ準備を始める。
「おっと、その前に…
出したり戻したりばっかりで悪いな。
お疲れ、戻ってくれ。」
「グルゥ…」
やや不満げなドラゴンに一言詫び、カードに戻す。
いつまでも出しっぱなしにするわけにもいかないからな。水道では無いが。
「じゃあ、運び出して取調べと行くか。」
気絶した偽者をいくらか創った障壁リアカーで運びながら言う。
運ぶ先は町の外。さすがに往来で事情聴取なんて出来ない。
「ああ、俺たちの名を騙った事を後悔させてやろうぜ!」
「俺達がするのは取調べだ。拷問じゃないぞ。」
「ん?どっちも似たようなもんだろ?」
「…俊太は賢くなったのか馬鹿のままなのか、時々分からなくなるな。」
太郎が今言った事は、俊太を知るもの全員が思っていることだろう。
「何!?俺が馬鹿なわけ無いだろ!!」
俊太が馬鹿でなければ、世の中の半分の馬鹿は馬鹿ではなくなるだろう。
「はいはい、さっさと運ぶぞ。」
「聞け!」
その後も太郎は俊太をいなし続けた。
2人は町の外に着くまでずっと騒いでいた。よくもまあそんなに言い合えるものだ。
運び出した偽者達だが、あのショックが相当大きかったのかなかなか目を覚まさない。
「…う…」
「やっと気がついたみたいね…」
既に日は暮れている。
目が覚めたのは偽リセスだ。
「ここは…な、なんでお前らが!?皆は倒れてるし!?」
「お前らは全員町の外まで運ばせてもらった。
色々と答えてもらうぞ、わざわざ俺たちの真似をした理由とかな。」
「ま、真似ってなんのことだ!偽者はそっち」
「本物の前でとぼけてどうする。」
少し威圧しながら遮る。
「……分かった、全部言う。」
「だがその前に一つ…素朴な疑問があるんだが、訊いていいか?」
「…なんだ?」
「なんで男口調なんだ?リセスの真似なのに。」
「リセス…ああ、俺はリセス担当じゃないからな。
リセス担当はそいつだ。」
倒れている偽者の1人を指差しながらそう言う。
確かに、コイツと偽リセスは似ているが…
「じゃあ、誰の真似をしてるんだ?」
「…それは本気で言ってるんだよな?」
「こんな時に冗談なんて言うと思うか?」
「なあ守、本当に冗談じゃないんだよな?」
なんだ俊太まで…って、他の皆も同じような目だ。
え?え?マジでなんなんだこれ?
「…俺はお前の真似をしてるんだ。」
「………ハァ?何言ってんだ?
お前は女じゃないか。俺は男だぞ?」
「え?」
「え?」
…じゃあ何か?
俺たちの特徴を成りすませるほどしっかりリサーチしてたくせに、俺が男だってことは分からなかったのか?
………
「…一言言わせて貰う。」
「なんだ?」
「そりゃねえだろ!!」
中途半端なリサーチに、俺は大声で抗議した。




