第三百九十八話 隠していた疲労?鍵は二人のチート!?
一話目。
小説内の日時の確認をしていて遅れました。
まさか34話を二回も読み返すことになるとは…
「も、もう限界…」
階段を駆け上がっていると、津瑠が突然座り込む。
「どうした!?」
「もう体力の限界…一歩も歩けない…」
津瑠の気配を調べると、かなり小さくなっていた。疲弊している。
津瑠は正真正銘の一般人。魔法を使えないし、俺たちのように父さんから訓練を受けたわけでもない。
身体能力で大きな差がある俺たちについて来られるスピードを維持して走ってきた上に、報告のために階段を全力疾走したばかりだ。
だから仕方の無い事だ。
「仕方ない。俺がおんぶしていく。」
「守!?アンタも疲れてるんじゃないの!?」
ギーナにはお見通しだったらしい。
実は、俺も人モドキとの戦いで疲れが溜まっていた。
それだけではない。俺はここに連れて来られる前に忍者と戦い、大男に拉致されて拘束された。これで疲れない訳が無い。
表に出さないようにはしていたが、ばれていたとはな…
「いや、大丈夫だ。」
「何があったのかは知らないけど、守の気配も大分小さくなってる。
無理は禁物よ。」
「なに、人一人運んで走るくらいは問題無い…ほれ。」
疲労で動けなくなった津瑠の前でかがむ。
津瑠はしばらく躊躇していたようだが、やがておぶさってきた。
「よし、行くぞ。」
「ありがとう…」
小さく礼を言う津瑠。
その言葉を背に受けながら、俺は階段を駆け上がっていった。
「待ってたよ君達。
特に高壁守!お前はね!!」
階段を上って俺たちを出迎えたのは大きな広間と、その真ん中に居るピエロだった。
背負っていた津瑠を降ろし、ピエロと対峙する。
「しぶとい奴だな。アレをくらってすぐに逃げるとは。」
「私の再生能力をなめてもらっては困りましゅよ~?」
再生能力高め…次は更に強い一撃を与える必要があるか。
「そんなことはどうでも良いよ!
アンタと一緒に消えたタカミはどこに居るの!?」
ギーナが一歩踏み出して訊く。
その顔には焦りの色が見えた。
「ああ…彼女でしゅか…彼女ならもう…とっくに“処理”しましたよ~?」
「…え?」
タカミが…処理?
まさかこいつが…こいつがタカミを…!
「お前…!」
俺は気が付けば、ムカつく笑みを浮かべてゲスなことを言うピエロの前に移動していた。
近付いた勢いを殺さず、そのまま鉄格子の棒を取り出して全力で振る。
ガキン!
「何!?」
しかし、ピエロに迫った鉄格子の棒はピエロに辿り着く前に止まった。
棒を止めたのは見覚えのあるハリセン。そして、それを持っている者もまた見覚えがあった。
「タカミ…?」
「よくできましたタカミ。ハナマル!」
どういうことだ?
タカミから飛びのきながら考える。
今、ピエロはタカミを処理したと言ったはずだ。
だが、タカミはこうして俺の攻撃を受け止めていた。
死んだのではないのか?
「なにか勘違いしてるようだから言っておきましゅ。
“処理”、と言うのは殺す事じゃありませ~ん。術をかけて洗脳して、こちらに従うようにする。
これが、“処理”でしゅ。」
洗脳……
「よくそんなことができるな…!
お前は人間じゃねえのか!?なんで同じ人間にそんな仕打ちが」
「私は残念ながら人間じゃなく、魔物なんでしゅ。
そっちが勝手に人間と思い込んでただけでしゅよ。」
ピエロは太郎の言葉を否定し、自身が魔物であると言った。
「ちなみに、さっき言った洗脳は私が使える術…
術を掛けるのに時間はかかるから即効性こそありましぇんが、性能はこの通り!」
タカミの目には光が無い。
虚ろな目をしていて、どこにも焦点があっていないように見える。
「洗脳されても解けば良い!
俺達でタカミを元に戻すまでだ!そうだろ皆!」
俊太が暗い気分になりかけた皆を元気付ける。
確かにそうだ。過去、様々な創作物において洗脳が解かれた。
それと同じように、俺たちもタカミの洗脳を解けば…!
「でも、どうやって洗脳を解くの?
解き方が分からないとどうしようもないじゃない。」
「そ、それは…」
光の意見も尤もだ。
どうすれば洗脳を解く事が出来るのか…
大事な事を思い出させる?絆の力を使う?
……駄目だ。具体的に何をすればいいのかが分からん。
「…ここにチートが二人居る。」
移図離がポツリと呟いた言葉。
これが突破口になる気がする。
「そうか!
ギーナと守、二人が居ればなんとかなるかもしれない!」
チートと言われるのは癪だが、俺とギーナの力ならなんとかなるかもしれない。
「ギーナ、洗脳を解く魔法って無い?」
「そんなの無いわよ!
でも、無いものは作ればいい。今から魔法を作るから、それまで時間稼ぎをお願い!」
「了解!皆も良いな!?」
俺以外の戦える者は頷き、タカミと対峙した。




