第三百九十一話 折れた戦意?ついに覚醒!?
一話目。
「オマエ、剣、折れたな。」
人モドキの声が聞こえた気がしたが、俺はそれどころではなかった。
ぼんやりと二本の粗い断面を見る。
信じられなかった。つい数秒前まで話し、一緒に戦ってくれていたのに、突然何も言わなくなるなんて。
手が震え始める。やっと頭の処理が追いついてきたのだろう。
「あ…ああ…あ…」
口から出たのは震えた声。
その声は、一瞬自分のものだと分からないほどに弱々しいものだった。
キキィン!
折れた愛剣が突然弾かれ、手から離れる。
放物線を描く愛剣の残骸を追って行くと、後ろに折れた刀身があるのを見つけた。
仰け反った時に飛んできたのは刀身だったらしい。
「さて、武器も無くなった。とどめだ。」
赤い大剣が迫る。
ゆっくり近付いてくる剣をぼんやりと眺めながら、全ての終わりを自覚する。
そこで、これまでの記憶の光景が見えてきた。走馬灯、というやつだろうか。
そう言えば、こんなこともあったな…ああ、そんなこともあったっけ。全てが懐かしい…
剣は既に数センチまで迫っている。あと少しで…
『避けて!!』
突然頭の中に声が響く。
その声で我に帰った俺は素早く攻撃を避け、後ろに下がる。
『何してんの!?あとちょっとで本当に死ぬところだったよ!?』
瑠間だ。どうやら今意識が戻ったらしい。
(俺はもう、戦えない。)
『なんで!?』
(戦う気力も無いし、デュアもルソードも折れた。
これでどう戦えばいいんだ?)
『なら、私が戦うよ!』
(!
それは止めろ!お前は)
『そう、戦うのは嫌い。でも、守が戦えないなら仕方ないでしょ?』
(くっ…仕方ない。瑠間に戦わせるくらいなら俺が戦う!)
…!この感覚は!!
瑠間の一言により、俺の心に火がつく。
瑠間に戦わせるなんて男の名が泣く。
何が戦えないだ。戦えるくせに弱音を吐いていただけだ。ただの臆病者じゃないか。
『それでこそ守だよ!
諦めが悪くて格好付けたがる、いつもの守に戻ったね!!』
(やかましい!だが、そんないつもの俺に戻してくれてありがとな!!)
途中の一言は余計だったが、瑠間に感謝しつつ人モドキに対峙する。
今の俺は魔法を使えるし、能力も使える。何を恐れるのか。
「待たせたな!お前に勝機は無いぜ!!」
「……フン、武器も無い、オマエが、何をできる?」
「確かに、今の俺には武器が無い。だが、たった今出来るようになったことがある。」
「何?」
手元にパッと黒い剣が現れる。
障壁だ。
さっきの感覚は能力に目覚めた時のもの。ついに女の状態でも障壁を創り出せるようになったのだ。
「しかも、それだけじゃないぜ。こいつは“普通”の障壁だ。」
さっき創り出した障壁の剣を前に突き出して言う。
更に、右手を上に掲げ、その場所にゆっくりと剣を創る。
しかし、その剣は先程出したものとは違う。
今創り出した剣は、黒曜石のように透き通っている。
「これは普通の障壁じゃない。
そうだな…名前をつけるとすれば、“障壁結晶”と言ったところか。」
障壁結晶。これも今創れるようになったものだ。
普通の障壁とは違い、硬さが桁違いになっている。
しかし、普通の障壁のようにパッと突然創り出すことが出来ず、ゆっくりとしか創れないことだ。
だが、今は関係無い。
「さあ、覚悟しろ。」
一気に距離を詰め、人モドキの懐に入る。
「ヌウッ!?」
右手の障壁結晶の剣で切りかかる。
人モドキはとっさに大剣でガードする。
しかし、それは計算通り。思いっきり障壁結晶の剣をぶつける。
ビシッ
「!!」
大剣にひびが入った。
デュアとルソードほどの硬さの物が、折れるまで衝撃を与えたのだ。いくら硬いとはいえ、大剣が無傷で済むわけが無い。
ビキッ、バキバキ…
「オオオ…オオオオオオオオオオ!!」
バキィン!
大剣が折れた。
そのままの勢いで切りつけ、奴が膝をつき倒れる音を聞いた。
「…勝ったな。」
障壁の剣と障壁結晶の剣を消し、弾き飛ばされた一対の剣を見る。
デュア、ルソード。二人の仇は取った。折らせちまってゴメンな。
そして…今までありがとな。




