第三百七十三話 隠されていた武器?忍術で使うものは!?
一話目。
自由登校って結構暇ですね。
まずは魔法で全身を強化。気配で追えないなら目で追う。
更に、ポケットからナイフを取り出す。これは世界を移動する機能がついているナイフの鞘に収まっているナイフだ。無いよりはマシだろう。
「仕込み刀、ならぬ仕込みナイフか。なかなか考えておるのう。」
「まさかこんな形で使うとは、俺も思わなかったよ。」
ナイフは飾り程度でしかなかったはずだが、まさか護身用に使えるとは全く考えていなかった。世の中分からないものだ。
ナイフを取り出したことが滅多に無かったので今気付いたのだが、ナイフの峰に凹凸がある。
この形、どこかで見たような気がするが…まあ、戦うことに支障が無いならどうでもいい。
長が振るってきた刀をナイフで受け止め、横にステップして刀を滑らせる。誰もいないところにそのまま刀が振られ、長は体勢を崩す。
そこをナイフで攻撃しようとしたところでためらいが生じ、蹴りに変更する。
だが、一瞬遅れた攻撃は、ナイフと言うフェイントがあったにもかかわらず飛びのかれて避けられる。
「ほう、命を奪うことに抵抗があるか…」
「…ああ、慣れちまったらそれこそおしまいだと思ってる。人としてな。」
見破られている事なので正直に話す。
俺たち現代日本の申し子にとって、人殺しは重罪。その認識を異世界でも捨て切れていない。
例え無法地帯でも、長年されてきた日本の倫理的な教育による信念を捨てることは出来ない。
「そうか…反対はしないが、後悔するでないぞ!!」
そう言って飛び掛ってくる長の動きは確かに早いが、かろうじて見える。
それを避け、勢いを殺さずに振られた刀をまたナイフで受け止める。
そのまま刀を押さえていると、刀を受け止めているナイフが目に入る。
「……そうだった…!これは…」
しばらく拮抗は続き、ある時ナイフの形状が何のためのものなのかを思い出した。
一旦後ろに飛びのく。すると、戦っている子供が目に入った。
影分身の術で忍者を翻弄して…影に気配がある?
おかしい。影分身は実体が無いのが普通。しかし、目の前の影分身は気配がある。
分身の術をし続けた結果、というには数があまりにも多すぎるし、そっくりさんがあんなにいるわけが無い。
いたとしても、恐らく今は協力させてもらえないだろう。
…まさか。
まさか忍術というのは…
「なかなかしぶといが、隙が多すぎるぞ!」
気付いた時には、長が目の前で刀を振りかぶっていた。
俺はそれを、ナイフの”峰の凹凸”で受け止める。
「何!?」
「これで終わりだ!」
刀を受け止めたまま、手首をひねる。
すると長の刀はたやすく折れ、刀身の半分が地面に落ちた。
「なんと……ワシの刀が……」
このナイフは、ナイフじゃない。
”ソードブレイカー”という短剣の一種だ。
刀身にある凹凸が特徴で、今のように敵の剣を凹凸で受け止めて折ることが出来る武器だ。
でも、俺が見たのとは少し違うな…俺が前にネットで見たときは刃の部分も凹凸があったが、この短剣には無い。
サバイバルナイフと間違えてしまいそうだが、それにしては凹凸が大きすぎるしな…事前知識無しで使い方が分かるのか?
「……じゃが、ワシには刀が無くても戦う術はある。戦いは続行じゃ。」
ありゃりゃ、刀とともに戦意も折れると思っていたが…駄目だったか。
じゃあ、忍術の練習といくか。少し試したい事があるしな。
「忍術か?なら、俺も試してみるかな…」
「フン、若造が見ただけで真似できるほど、忍術は甘く…!」
忍術は気配を使う。そのことをさっきの影分身を見て思い至った。
あれだけ気配を探る事ができるんだ。操る事ができなくてどうする。
気配をもう一つ、俺と全く同じ形になるようにねんど細工のような要領で変えていく。
最初は大きいが、少しずつ圧縮していって密度を高める。
すると…俺の隣にもう一人、俺が居た。
「よし!できたぞ!」
「ば、ばかな…」
…ん?
なんでこいつ目を閉じたままで喋らないんだ?
子供の分身は出てきた直後から目を開け、本体と同時に喋っていた。なのに何故…
「…あれ?ここは…」
キアアアアア!シャベッタアアアアアアアアアアアアアアアア!!
じゃなくて、分身が一人で喋った!?
まさか、新しい生命体でも生み出してしまったのか…
「なんで目の前に守が…」
「え!?誰だ!?」
新しい生命体じゃない。俺のことを知っている。
「誰って…自分のことも忘れたの?瑠間って言えば分かる?」
「瑠間!?」
え?瑠間ってもう一つの人格の…アイツ!?
「…色々言いたいことはあるけど、なんでアンタが女で私が男なの!?普通逆でしょ!!」
「知るか!俺が女の状態で分身の術(モドキ)をしたからじゃないのか!?」
「だったら元に戻ってからにしてよ!」
「こうなるって分かってたらそうしてたさ!あと性別を俺と取り替えろ!!」
「それはこっちの台詞!」
俺たちの口論は長々と続いた。
それをその場に居た三人が呆然としながら見ていることを、この時の俺たちはまだ知らなかった。




