第三百七十二話 もう充分じゃね?観戦でおk!?
二話目。
忍者はどんどん湧いてきて、一息つく暇も無く戦闘は続いていく。
しかし、子供の息は上がっていない。どれだけ修行したのだろうか。
「……お前、なんで未熟者なんて呼ばれてるんだ?」
そんな子供の様子を見て、つい訊いてしまった。
慌てて口を押さえるがもう遅い。どこからどう考えても地雷にしか見えないと言うのに…
「……基本の基本、気配を消すことが出来ていないからな。
体術や剣術、果ては聞いたばかりの忍術も操る事は出来るのだが、気配を消す事だけは出来なかった…
某ほどの年代ならとっくに習得できているはずのものを出来ていない。だから未熟者と呼ばれるのだ。」
忍術には魔力とかそういった力を使うのか、分身の術を解いた子供が答える。
……別にそこまで出来れば充分じゃね?
と一瞬思ってしまったのを、誰が責められようか。
恐らく、それほどまでに忍者は気配を消す事が重要なのだろう。
「なら、無理に消そうとする必要は無いんじゃないか?」
「え?
何を言っている。気配を消す事はとても重要で…」
「その場で出来る事を最大限に活かしてその場を乗り切るっていうのも、重要なんじゃないか?
お前は気配を消す事に対して難しく考えすぎてる。赤の他人の俺ですら分かるくらいにな。
試練の準備が終わるまで待ってた時もずっとそのことを考えてたんだろ?ずっと難しい顔をしてたし、気配も悩んでる人間と同じものだった。
一旦気配を消す事から離れて、それから考えてみろ。一つのものを見すぎていると他のものが見えなくなる。」
「出来る事を活かす…一旦離れる……」
この台詞、半分は自分に言い聞かせているようなものだ。
今回の試練で、俺は全く戦っていない。俺が狙われても子供が撃退するからだ。
子供に守られてばかりであることに思うところが無いわけではない。情けない話だ。
それに…忍術の使い方がなんとなくわかってきた気がする。
今すぐ使えと言われても出来ないが、もう少し分かれば真似できそうだ。
「…里の出口はこの一本道の先だ。そこまで行けば…!」
やっと出口か。意外と進んでたみたいだな。
…でも、こういう一本道って絶対何かあるよな。例えば…
「ようやくここまで来たか。未熟者。」
「ここを簡単に通す事はできぬぞ。」
…ボスとか。
「先生、長…」
一本道に突如現れたのは試練が始まる前に会っていた二人、成人男性(二十代)と長(忍者)だった。
「気配も消せないくせにここまで来たことは褒めてやろう。しかし、ここを通すかどうかは別だ。
さあ、かかってこい。」
大変だな。二対一で戦うとは…
俺は観戦としゃれこ…
「では、ワシはお主と戦おう。」
…めませんでした。はい。
「異世界の戦術には興味があるからのう…それに、お主も観戦しているだけではつまらんじゃろ?」
観戦でおk。
あと、俺たちの世界では戦いとは無縁の生活を送ってたから戦術も何も無いんだが…
まあいいか。とは言っても、刀持ってる奴相手に武器も無しに戦うのはな…
「では行くぞ。向こうも始まっているようじゃ。」
長が見ている方向を見ると、子供は既に戦っていて、刀で切り結んでいた。
長に視線を戻すと、長の姿が掻き消える。
俺狙いであることは分かっているので、直感でその場から上に飛ぶ。
すると、俺が立っていた位置に刀を振る長の姿が見えた。
「ほう、今のを避けるか。」
「半分偶然だ。」
気配が察知できないのが大きすぎる。そのせいでどこから攻撃が来るのかが分からない。
だが、俺は先程言ったではないか。その場で出来る事を最大限に活かす事も重要だと。
なら今出来ることを活用して戦うしかない。
とは言っても、刀をどうやって止めるかだ。
魔法で剣を創ると強化系の魔法での消費を含めて魔力の消費が激しくなるし、とは言っても刀を受け止められるものなんて持って………いや、あった。
良く考えれば、いつも使っているアレがそうだったではないか。いつも携帯していたアレが。
必要な手札は揃った。後はその手札で戦うだけだ。




