第三百六十五話 二つの不思議な事象?汎用高校生の意味とは!?
一話目。
今日こそ勉強で本気出す。
「いい気になるなよ…」
武器を失った大男は棍棒の持ち手を捨てて、なんと剣に対して拳で挑んできた。
体格に見合わず素早い動きだけど、今の私ならなんとか目で追える。素の私だったら全く見えてなかったかもしれない。
大男の攻撃は避けられるものの、こちらの攻撃も当たらない。もっと剣が軽ければなんとかなってたかもしれないけど…この重さじゃ追いつけない。
そんな攻防を繰り返していると、不思議な事が起こった。
主に戦闘に関する記憶が、徐々に戻ってきたのだ。
魔法で相手を威圧して追い払った記憶。
能力を使い、相手の攻撃を反射して倒した記憶。
魔法で体感時間を伸ばし、敵の武器を叩き折った記憶…
そして、黒い物体…障壁を使って戦った記憶…それらは夢で見た扉の鍵を一つ一つ開錠していった。
しかも、不思議な事はそれだけじゃない。
大男がどこに攻撃を出すか、見る前に認識できた。
攻撃がどうくるか、と言う事を、なんとなく感じ取れる…まるでさっきの気配のように。
おかげで避けやすくなり、余裕が出来てきた。
大男がどう避けるかもだんだん分かってきた。
そして、私の攻撃が初めて大男にかすった。
「チッ…!」
その瞬間、大男は後ろに飛びのいた。
次は助走をつけての体当たり。速いが、分かっていればどうと言う事も無い。ひきつけて回避する。
「以前戦ったときよりも強くなっている…!
お前に何があったんだ!?」
体当たりを避けられ、体制を崩した大男が問う。
先程までの無表情はどこかへ消えていて、動揺していることが窺える。
「前回は魔法を使ってなかったから、アンタの動きが見えなかっただけ。
魔法を使ってる今なら見える。それだけのこと。」
前回の敗因は、素の状態で不意を突かれたこと。
ストーカーを撃破し、気が緩んでいたのが原因だ。普段だったら、身体強化系の魔法を使って警戒していただろうに。
でも、今は違う。魔法を使い、なおかつ敵の攻撃も読める。手加減もしてないのに、そんな状態で負けようが無い。
「つまり、アンタが本気じゃない相手に勝って、勝ったつもりになってただけ。
それで油断したから武器が無くなった。違う?」
「くっ…」
なお、この間も拳と剣の攻防は続いている。
大男は攻撃と回避で必死だけど、私は考えたり話したりする余裕がある。最早どちらが優勢かは明白だ。
攻防を繰り返すほどに記憶が戻り、攻撃が読みやすくなり、大男の傷も増えていく。
そしてある時後ろに下がり、距離をとった。
「さっきからますます手ごわくなってきている…化け物か…!」
「私…いや、俺は化け物なんかじゃない。
ただの汎用高校生だ!!」
大男に向かっていく直前に、扉の鍵の最後の一個が開錠された。
あらん限りの力を使い、出せるだけのスピードを出して走る。
そして防御も回避もさせないまま、スピードを殺さずに…
…剣を手放して殴った。
大男はその一撃で沈み、地に伏した。
「…やっと、全部思い出したぞ。皆。」
殴った姿勢を解き、皆を見ながら言う。
「全く…ヒヤヒヤさせないでよね。」
「本当だよな。いきなり敵が出てきたときは驚いたぞ。」
その後も皆からは色々と言われたものの、その言葉の裏には安堵のようなものが見え隠れしているように思えた。
「ところで守、汎用高校生って何?」
「前に太郎に言われた言葉だよ。
まあ、”汎用”ってことは万能な高校生って意味だろうけどな。」
言われたのは夏休みの前あたりだっただろうか。
思い返すと、今の俺とあの時の俺とでは百八十度も違うな。主に日常が。
「違うぞ。」
「え?」
「あの時、汎用機械並みに良く見る高校生って言ったんだが…
聞いてなかったのか?」
汎用機械並みに良く見る高校生…
「…つまり、ごく普通ってことか?」
「まあ、そうなるな…軽く皮肉が入ってはいたが。」
………
「守?」
「……太郎。」
「なんだ?」
「なんでそんな訳の分からない言い回ししたんだよ!!」
「良いだろ別に!どんな言い回しをしようと俺の勝手だ!!」
口論はしばらく続き、気付けば皆で笑っていた。
俺は、こうして記憶が戻り、なんでもない時間が過ごせる事が嬉しかった。




