第三百五十九話 それだけでも上出来?夢の中での邂逅!?
一話目。
ただでさえテスト勉強があるというのに、レポートも書かなければならないとか…マジ鬼畜。
だが今日は全く手をつけてない。
モ、モチベーションは大事ですから…(震え声)
「なんでだよ!?なんでいきなりそんな事を言うんだよ!!」
僕達よりも早く立ち直った俊太は、守につかみかかるような勢いで叫ぶ。
「恐くなったんです。記憶を取り戻すのが。
あの新聞を見て、以前の自分の事を知って…
記憶を取り戻したら、またあの私に戻るでしょう。そうなるのが恐いんです。」
今の守はとんでもない勘違いをしていて、以前の自分が最低な奴だと思い込んでしまっている。
だからこんなことを言い出した。少し考えれば分かる事だ。誰だって悪い変化はしたくないからね。
「あのな、お前はとんでもない誤解を」
「ストップ。今はまだその時じゃないわ。」
危うく話してはならない内容まで話そうとしていた俊太を、光が止める。
「熱くなりすぎ。少し頭を冷やしてよ。」
「でもな!」
「…俊太、守を信じられないの?」
「何?」
「俊太は守を信じられないのかって言ってるの。
この問題は私達じゃなくて、守自身が解決しないといけない問題でしょ。余計な手出しなんてしたら、それこそもっとまずい問題になりかねない。
だから、私達は守を信じて祈るしかないの。分かった?」
「………あ、ああ…」
「…俊太のこの反応は分かってない反応。」
「な!?ちゃんと分かったぞ!?とにかく、俺達は何もせずに信じてれば良いんだろ!?」
…外面を理解できただけ上出来、と言ったところかな。どうせ理由までは理解し切れてないだろうけど。
「まあ、記憶云々は全部守に任せるよ。誰でもない、守自身の問題だから。」
「は、はい…なんかやたらあっさりしてますね。」
「火太郎が言ったじゃない。他でもない、守自身の問題だって。」
「はあ…」
守は釈然としない様子だったけど、帰り道の分岐点に来たからそのまま別れることになった。
これから解決に向かっていくのか、それとも…
僕は前者を祈りながら、帰路を歩いていった。
私は今、光る道を歩いている。
周りは道と私以外真っ暗だけど、夜道を歩いている訳じゃない。
ここは夢の中。帰ってきて部屋のベッドに横たわると、すぐに眠りに落ちてしまったらしい。
恐らく、今日知った真実がよほどショックだったみたいだ。自分でも分からなかったけど。
しかし…この道はどこまで続くんだろう。
夢を見始めてからずっと歩き続けているものの、未だゴールは見えない。
ゴールの無い道を歩く…そんな夢なのかな?
そう思った直後に、道の少し先に人が居るのに気付いた。
後姿なので誰かは分からないけど、どうせ無視は出来ない。
道は人一人が通れる程度の幅しかないから、先に進むならどいてもらうしかない。
後戻りは出来ない。何故なら、道は私が通るとすぐに消えてしまうから。
現に後ろを振り向いてみると、そこに光る道は無い。ただ真っ暗な空間が広がるだけ。他には何も無い。
また、光る道を避けて通ることも出来ない。真っ暗な空間に少しでも足をつければ…その瞬間に私は落ちていく。夢ならではのご都合主義で分かる。
だから、あの人に話しかけるしかないんだ。そうしなければ通れない。私の中にはそんな確信があった。
「あの、すいません…!?」
声を掛ける。
そして振り返った人を見て、私は絶句した。何故ならその人の正体は…
「よう、やっとここまで来たか。」
私だったからだ。
口調こそ違うものの私に近い雰囲気があり、なおかつ顔かたちがそっくりだった。
一瞬リセスさんかと思ったけど、彼女はもっと上品な雰囲気で、その佇まいにはカリスマが見受けられる。しかし、目の前に居る彼女にはそれが全く無い。
「まったく…どんだけ待たせんだよ。俺の癖に。」
「のろまで悪かったですね。
…まさか、貴女が記憶を無くす前の私ですか?」
「……自分相手に敬語かよ…」
「別に良いじゃないですか!!話が通じない訳でもないんですし!!」
「まあ、それはさておきだ。
お前の質問にはこう答えられる。
”そうだ”ってな。」




